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なぜMLBでは優勝監督がクビになるのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今季限りでの勇退が決まったナショナルズのダスティ・ベイカー監督(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ナショナルズが現地20日、声明を発表し、ダスティ・ベイカー監督の今季限りの勇退を発表した。

 ベイカー監督は2016年にナショナルズ監督に就任し、2シーズンともに90勝を挙げ2年連続地区優勝に導いた。監督としての通算成績も1863勝1636敗と勝利5割を超えており、MLBでも名将の1人に数えられる人物だ。

 今回の決断を下したマイク・リゾGMは今シーズン限りで契約が切れるベイカー監督に対し、1か月前は再契約の方針を明らかにしていたばかりだった。それがなぜ急転直下の方針転換に至ったのだろうか。ナショナルズを担当する『Washington Post』紙のチェルシー・ジャネット記者はツイッター上で、リゾGMのコメントを紹介している。

 「簡単な決断はなかった…。シーズン中に多くの試合に勝ち、地区優勝をしただけでは十分ではなかった。あくまで純粋な野球だけを考えた決断だ。我々の目標は世界王者になること。交渉や年俸などはまったく関係ない」

 結論からいえば、ベイカー監督では地区優勝はできてもワールドシリーズ制覇を実現するのは難しいと判断したということになる。実際ベイカー監督は22年間の監督生活の中で、ワールドシリーズに出場したのはたった一度しかない。

 つい先日レッドソックスも、2年連続地区優勝に輝いたジョン・ファレル監督の退任を発表していたばかりだ。ファレル監督に至っては2013年にワールドシリーズ制覇を果たしているにも関わらず、レッドソックスはファレル監督に見切りをつけた。最終決定したデーブ・ドンブロウスキ球団社長は「2018年シーズンを迎える上でチームにとってより良い道だと思った」と説明している。

 MLBではなぜこうも優勝監督でさえ次々に退任させられてしまうのだろうか。答えはいたって単純だ。リゾGMの言葉通り、各チームのフロント陣はチームがワールドシリーズを制覇するために最善策を講じようとしているからだ。チームの現有戦力を生かし、その能力を最大限に引き出しワールドシリーズを制してくれる指導者を求めているからに他ならない。

 MLBはFA制度の発展とともに選手の入れ替わりが激しくなっているのは周知の事実だ。それだけ各チーム──特に資金力の乏しいチームほど──とも長期に渡って戦力を維持するのは簡単なことではない。どうしてもチーム戦力は短い期間で浮き沈みを繰り返すことになる。

 例えば2010年にワールドシリーズを制覇して以来1年おきに3度の世界王者に輝いていたジャイアンツは、当時の主力選手たちがチームを離れ、今シーズンは遂に地区最下位に沈んだ。また2015年にワールドシリーズ制覇を果たしたロイヤルズは、それ以降2年連続で勝利5割前後に留まっている。

 ワールドシリーズ制覇までは至っていないが、オリオールズにしても2014年に17年ぶりに地区優勝を果たしているが、今シーズンは地区最下位に終わっているし、パイレーツも2013年に21年ぶりにポストシーズン進出を決めてから3年連続ポストシーズンに進出していたが、今シーズンは地区4位に終わっている。これらの4チームは現在も同じ監督が指揮をとっているが、チーム戦力が下がってきてしまうとやはり勝ち続けることが難しくなっている。

 裏を返せば2年連続地区優勝を飾ったナショナルズ、レッドソックスにとって、今後長期に渡って現有戦力を維持するのは困難ななのだ。それが理解できている以上、フロント陣としては現有戦力が維持できている間に何とかワールドシリーズ制覇を達成したいと考えるのは必然だろう。

 ファレル監督の場合にしても、上原浩治投手や田澤純一投手も加わり2013年にワールドシリーズ制覇をした際の戦力と、現在のレッドソックス戦力はまったく様変わりしている。チームを支える主力選手も大幅に入れ替わっている中で、当時と同じ戦い方はできるはずもない。だからこそドンブロウスキ球団社長は現有戦力をしっかり生かしてくれる別の指導者を探そうと判断したのだ。

 だからと言ってフロント陣の判断が常に正しいわけではない。時には人選に失敗し、逆にチームが崩壊してしまうことだってある。2度のワールドシリーズ制覇を達成したテリー・フランコナ監督に代え、2012年にボビー・バレンタイン氏を監督に迎え入れたレッドソックスが端的な例だ。実績ある優勝監督に見切りをつけるのは、フロント陣にとっても大きなリスクを伴った賭けでもあるのだ。

 1999年、2000年にヤンキースがワールドシリーズ連覇を達成して以降、毎年王者が入れ替わっている。その分チーム戦力がピークにあるうちに頂点を極めたいという野望が強くなって当然だ。ナショナルズとレッドソックスの賭けは果たして功を奏するのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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