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鶏肉は洗わない・・・トレーは洗う?~カンピロバクター食中毒の落とし穴~

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

 細菌性の食中毒といえば、以前は腸炎ビブリオ、サルモネラが多数を占めておりましたが、食品の低温流通や飲食店だけでなく家庭でも食品衛生の知識が向上したことで、これらの細菌による食中毒は事件数、患者数とも減少傾向が続いています。その中でカンピロバクターによる食中毒の発生件数はほぼ横ばいで、食中毒統計の上位にランクインするようになってきました。

 カンピロバクターによる食中毒は症状そのものは重篤でないものの、まれに発症する合併症のギラン・バレー症候群は様々な神経症状をきたす神経障害であり、生涯にわたる後遺症や死亡例もあるため、十分な予防対策が求められています。

■カンピロバクター食中毒の特徴

 カンピロバクター食中毒の多くは、鶏刺しやたたきなどの生や加熱不十分な鶏肉を食べたことによるもの、鶏肉を調理する過程で、使用した調理器具から他の食材へ移る二次汚染によるものと考えられています。カンピロバクターは鶏の消化管内に住んでいますが、保菌をしていても鶏の健康には問題がないため、通常の鶏と同じように出荷されます。5割以上という高い保菌率があるとされ、市場に並んでいる鶏肉の調査でも、3~5割ほどの汚染率であったという報告があります。

 カンピロバクターは腸炎ビブリオやサルモネラと異なり、少ない細菌数でも食中毒が起こりやすいという特徴があり、これがカンピロバクターによる食中毒が減らない理由と考えられます。細菌性食中毒の多くは、汚染した食品を放置したり、温度管理ができずに細菌が増殖し、それを食べたことで発症するのに対し、カンピロバクター食中毒は付着した食品や料理をすぐに食べても発症の危険性があります。

■新鮮ほど危険

 鶏刺しなど生の鶏肉を食べてカンピロバクター食中毒、という事故が繰り返されていますが、調理した人のコメントとしてよくきかれるのが「新鮮だから大丈夫だと思った」という誤った判断です。

 カンピロバクターは解体の途中で鶏肉に付着することが考えられますが、元々腸内に住む細菌であるため、高温、低酸素の環境を好みます。酸素の多い肉の表面は最適な環境でないため、流通し保存をしている間に細菌数は減少していく傾向にあります。新鮮な食材ほど安全というイメージがありますが、カンピロバクターについては新鮮さはむしろ危険ともいえます。

 また、生食が可能なカンピロバクターが付着していない安全な鶏肉は一般には流通していないとも考えて下さい。

■予防するためには

 カンピロバクターは熱に弱いため、鶏や食肉は中心までしっかりと加熱することが大切です。湯引き程度の加熱では死滅しなかったというデータがあります。生食や加熱不十分な鶏肉(牛や豚も)は避けるということが第一です。

 次に大切なのは、肉に付着しているカンピロバクターを広げないことです。できれば肉を使用するまな板と他の食材を切るまな板は分けた方が良いでしょう。それが難しい場合には、キチンと洗浄し、可能なら熱湯をかけてから次の調理に取りかかって欲しいと思います。鶏肉を扱った手指や箸などの調理器具(バーベキューではトングに特に注意)は他のものを扱う前に必ず洗うようにします。より安全を目指すなら、使い捨て手袋を使用するのも良いでしょう。

 調理前に鶏肉表面のぬるぬるを取り除くため肉を洗うという人がいるようですが、これも食中毒のリスクです。流水で洗浄するとシンクの広い範囲に鶏に付着した細菌が飛び散ります。カンピロバクターは少ない細菌数でも食中毒を起こす力があるため、目に見えないほどの飛沫であっても危険です。調理前には鶏肉は洗わないようにしましょう。

■発泡トレーは洗う・洗わない?

 鶏肉を洗わない方が良いという話を聞いたときに気になったのが、鶏肉の容器の発泡トレーです。このトレーは自治体によって【その他のプラスチック】として分別し回収される資材になっています。トレーは洗浄し乾かしてからリサイクルに回すことが一般的です。

 このトレーにはカンピロバクター汚染されている(と思われる)肉汁が付着していますので、トレーを水洗いするのは鶏肉を水洗いするのと同じぐらい危険な行為でしょう。鶏肉を洗わないというアドバイスだけだと、トレーの危険に気がつかないかもしれません。

 食品衛生に詳しい方に意見を伺ったところ、肉のトレーだけは分別せずに捨てるようにしているとのことでした。もちろん、分別も大切ですから、分別をする場合には、一度ポリ袋に戻して脇に寄せておいて、調理作業が全部終わってから洗浄すると良いと思います。カンピロバクターは乾燥にも弱いため、洗浄後はしっかりと乾かしましょう。

■今回のまとめ

 依然として減らないカンピロバクター食中毒を予防するためにも、生の鶏肉や加熱不十分な鶏肉は食べない、食べさせない、を徹底して欲しいと思います。また、二次汚染を防ぐ為には調理前の鶏肉や鶏を包装していた発泡トレーの水洗いにも気を配る必要があります。

・鶏の生肉は食べない、食べさせない

・新鮮な鶏肉だから大丈夫・・・ではない

・少ない細菌数でも食中毒がおこるので二次汚染に注意

・カンピロバクターが飛び散るので鶏肉は洗わない

・発泡トレーも調理作業中は洗わない

※参考資料

食品健康影響評価のためのリスクプロファイル ~ 鶏肉等における Campylobacter jejuni/coli ~ 食品安全委員会(2018年)

鶏肉を洗うことのリスク(海外サイト)

https://www.nbcnews.com/health/health-news/washing-raw-chicken-won-t-clean-it-it-could-make-n1043706?cid=sm_npd_nn_tw_ma

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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