2013年の牛丼チェーン業界を売上高などから振り返ってみる
売上=客単価×客数…各種データをチェック
ハンバーガーチェーン店と共に日本人の食生活には欠かせない、そして日本ならではともいえるファストフードチェーンの牛丼店。特に売り上げが大きく、牛丼業界の中核を担う吉野家、松屋、すき家の3社を「牛丼御三家」と呼んでいる。その御三家における動向をいくつかの切り口で確認し、牛丼業界の今年一年を振り返ることにする。
まずは公開データの範囲で業績を推し量れる要素となる、客単価・客数・売上について。3社とも月次業績を公開しているので、これを基に前年同月比のグラフを生成する。現時点では12月はまだ終了していないので、11月までが対象期間。
2011年の震災を経て「家族の団らんを覚える食生活への回帰」「スローフードの促進」「外食から中食への動き」など、食に関する消費者の消費性向の変化が生じる。それらを原因とした「ファストフード離れ」の動きに、牛丼業界もまた巻き込まれている。付加価値(と価格)の高い新商品を投入することで客単価は維持したものの、客数の減少は止まらず、売上も思わしくない。
一方、御三家の中で唯一、メインメニューとなる牛丼価格が他社(280円)と比べて高値(380円)に設定されていた吉野家も、2013年4月18日から280円に値下げ。これで牛丼価格において御三家は横並び状態となった(「吉野家が牛丼を280円に値下げ・牛丼御三家横並び状態に」)。
この値下げ効果は絶大で、吉野家においては客単価は減少したが、客数は大幅増を計上。値上げ以降前年同月比でプラスを続けている。他の2社が客入りの低迷であえいでいる中で、大きな飛躍をグラフ上でも示している。結果として売上も吉野家のみ、概してプラス圏。
各データを見る限り、今年の牛丼業界は「消費者の消費性向の変化で客入り悪化による不振継続」「吉野家は牛丼値下げで客入りを回復させ、売上も堅調化へ」とまとめられる。今年は吉野家の突出性、その原因が牛丼値下げにあったことが改めて認識できる。
吉野家を中心とした大きな動きへの息吹
元々前兆はあったものの震災が一気に加速化させた感の強い消費者の食生活性向の変化により、ファストフードの需要が減退気味であることは上記で触れた通り。この動きに対応するため、各社ともいくつかの動きを見せている。
まず一つ目は「朝食層の取り込み」。昨年すき家が開始した200円の「たまごかけごはん朝食」(「すき家、200円での朝食メニュー「たまごかけごはん朝食」を発売開始」)が象徴的だが、朝食の利用者を増やすことで、利用客のリピーター化をもくろむ動きがある。吉野家でもこの9月から「朝定食」の販売時間を開始時間・終了時間共に1時間延長しており、朝食利用者の取り込みを積極化している。この動きは同じファストフードでのハンバーガーチェーン店、たとえばマクドナルドやモスバーガーでも起きており、これまで軽視されてきた朝食利用層への注力化が本格化している。
そしてもう一つの動きは「ファストフードからスローフードへ」。ゆっくりと食事が取れる、さらにはファミリーレストランのように家族そろって食事が楽しめる環境を創る動きが見受けられる。象徴的なのが、吉野家で相次いで展開されている新商品。女性向けと称する牛丼のミニサイズとサラダのセット「コモサラセット」もこれまでの牛丼チェーン店、特に吉野家では見られなかったタイプの商品。
さらに12月5日から発売を開始した「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」に至っては、客の回転率を落とす覚悟で(実際落ちている)、「ゆっくりと楽しめる食事」を提供している。同社のモットーである「うまい・やすい・はやい」をわざわざ「うまい・やすい・ごゆっくり」と言い直してアピールしている点からも、新たな戦略商品であること、その戦略が「スローフードへの注力」であることがうかがえる。
「カウンターでは家族そろっての食事はし難いのでは?」との話もある。しかしカウンター席中心の店舗が多いイメージのある吉野家ですら、ここ数年の間に競合他社同様、大きくスペースを取る形でのテーブル席を設けたレイアウトによる新タイプの店舗を逐次展開している。ゆっくりと食事をする層、ファミリー層をも取り込む姿勢を見せ、それを体現化するための施策が、今回メニュー側にも展開を始めたと見た方が良いのかもしれない。
来年は今年の続き、だからこそ
もちろん従来の「うまい・やすい・はやい」的なファストフードとしての牛丼の立ち位置が変わることは無く、素早く完食できるタイプの商品が消えることも無い。しかし消費性向の変化でその類の需要が減少し、その切り口だけでは売り上げは減少するばかり。
そのような状況下で、今年吉野家はメインメニューの牛丼を値下げすることでファストフードとしての利用者の上乗せを図る一方、朝食派・女性層の取り込み、さらにはスローフード的な提案商品を展開し、ファミリー層などの誘引を模索している。少なくともこれらの施策は同社の業績に変化を生じさせつつある。
消費者の食に関する消費性向は今なお変化を続けている。来年も今年の流れから大きな変化が生じるとは考えにくい。3社、いやそれ以外の企業も含めた牛丼業界全体で、いかに従来のファストフード志向な客の維持をしつつ、新たな客層、特にファミリー層を取り込むかが、大きなカギとなるに違いない。
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