ジャマイカ、英国に対し奴隷制への賠償金の支払い求める ー「ブラック・ライブズ・マター」デモから1年
昨年5月末、米国で黒人青年が白人警察官による暴行で亡くなってから、欧米各国では自国内の黒人に対する差別・偏見を解消しようという動きが出ている。人種差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」のデモは、世界中に広がった。
この流れで、特に欧州各国で注目を浴びているのが、19世紀まで続いた奴隷貿易のむごさだ。
国連によると、15世紀から19世紀の間に、欧州主要国によって約1500万人がアフリカ大陸から拉致され、奴隷として米国や西インド諸島などに送られた(「大西洋奴隷貿易」)。奴隷たちは、過酷な条件の下、大規模農園(「プランテーション」)で働かされた。
今月中旬、英国の元植民地でこうした奴隷貿易の拠点の1つだったジャマイカが英国政府に対し、賠償金の支払いを求めていると複数の英メディアが報じた。
ジャマイカとは
ジャマイカはカリブ海の大アンティル諸島に位置する立憲君主制国家で、英連邦王国の一つ。人口は約300万人、首都キングストン。アフリカ系住民が90%以上を占める。
1494年にコロンブスに「発見」され、当初はスペイン領、1670年からは英国の植民地となった。
スペイン、そして英国はアフリカ大陸から劣悪な環境で移送させた黒人住民をコーヒー・砂糖・綿花・タバコなどを栽培するプランテーションで働かせた。プランテーション経営者は巨額の富を得た。
「私たちの先祖が体験した損害を埋め合わせるため、賠償金という形での正義を達成したいと願っている」(ジャマイカのスポーツ・若者・文化大臣オリビア・グランジ氏談)。
「私たちの祖先は強制的に自国から移動させられ、大英帝国に恩恵をもたらすために強制労働を強いられ、先例がない残虐行為に苦しんだ」。
賠償金の支払い要求はジャマイカの「賠償金全国カウンシル」から許可を受けた後、法務長官と司法チームによる認可を受ける。認可されれば、エリザベス英女王に書簡が送られることになるという。
英国が奴隷制度を禁止したのは1807年だが、ジャマイカで奴隷制度が停止されたのは1834年だった。
奴隷制度廃止に当たり、英政府はプランテーションの経営者側に巨額の補償金を支払っている。当時の政府歳入の40%に相当する補償金の支払いが終わったのは、2015年である。
1兆円規模の賠償金を要求
賠償金の支払い要求は、ジャマイカの議員マイク・ヘンリー氏の提案を基にしている。
ヘンリー議員は、英政府がプランテーションの経営者に払った金額と同等の額となる76億ポンド(約1兆1000億円)が支払われるべきという。
奴隷を使ったプランテーション経営や関連ビジネスによって、英国は巨大な富の集積を実現した。例えば、世界的保険市場ロイズ、パブチェーンのグリーン・キング、グラスゴー大学など。
カリブ海地域の経済統合、外交政策の調整などを目的とする「カリブ共同体」の会合で、ジャマイカのスポーツ・若者・文化相グランジ氏は、ジャマイカでは賠償金全国カウンシルを通して、いかに支払いを実現させていくかについて話し合いが行われていると述べた。これからも「賠償金を今!」を主張していきたいという。