韓国 早々とW杯出場決定 10ヶ月前の「日本戦0-3惨敗」からどう立ち直ったのか
韓国がカタールW杯本選出場を決めた。
ポルトガル人指揮官パウロ・ベントが率いるチームはここまで8勝2分け。”無風”での10年大会連続出場確定だった。この連続出場記録は世界で6カ国しか達成していないものなのだという。
思えば約10ヶ月前、2021年3月25日にチームは横浜での日本戦(親善試合)に0-3の惨敗を喫していた。大韓サッカー協会はファンに向けての謝罪文を発信するほどの”ヒドい”状態にあった。
当協会はW杯予選を前に、代表の戦力を整える唯一の機会と判断し、韓日戦という負担はあったものの、今回の試合を推進致しました(中略)今回の敗北にベント監督に非難が集中することは適切ではありません。最高の状態で試合ができるように支援できなかった同協会の責任がより大きいです。
ベント監督が滅茶苦茶に叩かれていた。負傷でソン・フンミンを呼べず、イ・ガンインをゼロトップに起用した采配はいかにもマズく、メディアも更迭論を展開するほどだった。無気力な試合は、2019年アジアカップベスト8での敗退(カタールに敗戦)を想起させた。やっぱり韓国に外国人はダメなのだと。
最終予選、グループ分けも「キツい」との予想
その後、7月1日に今回の最終予選、A組に所属するファイナルドローが決まった直後は国内では「やっちまった」という雰囲気があった。最も避けたかった難敵イランが同組に。しかも残る相手は、シリア、イラク、UAE、レバノン。
ネット上では「なんだ、ガルフカップにでも招待されたのか?」といったシニカルなギャグも飛んだ。
もしオーストラリアと入れ替わりでB組に入っていさえすれば…自国人が監督を務めるベトナム、最近じわじわと嫌いな人が増えている中国、もともと憎たらしくて仕方ない日本と同居できた。コロナ禍でホームゲームは無観客が続いたものの、盛り上がりの点では雲泥の差があったはずだ。
慰めといえば「本大会(カタール)がある中東の雰囲気に慣れることができる」「自分たち以外と気候が違うため、ホームゲームが有利」という点くらいだった。
悲観論の背景には、やはりポルトガル人指揮官パウロ・ベントの評価が著しく低下している点があった。
2021年の3月の日本戦惨敗後はW杯2次予選でトルクメニスタン、スリランカ、レバノンを相手に3試合で12ゴール1失点の大勝。しかし可もなく、不可もなくといった印象で「冴えない」「こだわりが強すぎる」監督といった面が強調されていった。
チームはどうやって日本戦でボコられるという事態から、「W杯予選無風通過」という結果を残していったのか。
序盤はまだまだ「イライラする」との評価
2021年9月、パウロ・ベント監督率いる韓国代表のカタールW杯最終アジア最終予選が始まった。
第1節
2021年9月2日(木)
韓国 0-0 イラク [ソウル]
初戦は「取りこぼし」という感があった。27分にコーナーキックからMFイ・ジェソンが「当てれば入る」という決定的なチャンスを外した。この頃まで、国内メディアは「イライラする結果」(聯合ニュース)と手厳しい姿勢だった。
第2節
9月7日(火)
韓国 1-0 レバノン [水原]
この試合は、レバノンと「ホームゲーム開催時期の交換」を行ったもの。双方が合意すれば可能らしい。韓国側が提示した理由は「1月のソウルは寒いから、交換しよう」。これにより韓国は最終予選の初っ端から短期間で自国から中東に移動するという、厳しい日程を避けることができた。試合の方は2次予選でも対戦したレバノンに対し、1-0の辛勝。まだまだエンジンがかからない印象だった。
第3節
10月7日(木)
韓国 2-1 シリア [安山]
最終予選の最大のヤマ、イランとのアウエーゲームを控えての試合。シュート数22:5と圧倒しながら、枠内はわずか6本。先制後、84分に同点に追いつかれる厳しい展開だったが、89分に決めたのは…ソンフンミンだった。
第4節
10月12日(火)
イラン 1-1 韓国 [テヘラン]
最終予選最大のヤマ。過去、テヘランでの対戦成績は2分5敗。のみならず、両国が初対戦となった1958年の東京でのアジア大会以来、通算対戦成績は9勝9分け13敗だ。
イランへの苦手意識がより強くなったのは、2014年ブラジルW杯予選での出来事からだ。ホームでの最終節で対戦し、まさかの0-1の敗戦。辛くも得失点差で本大会出場を決めた後、試合終了後には当時のイラン監督カルロス・ケイロスが韓国ベンチを挑発。乱闘寸前まで行く出来事があった。筆者も現場にいたが、その後の出場決定セレモニーの気まずさたるや。
いっぽう、2021年のチームはこの試合あたりからチームはしぶとさを見せ始めた。48分にソン・フンミンが先制。76分に追いつかれるものの、その後ゴールを許さず引き分けに持ち込んだ。絶対的な強さは見せない。しかしブレない。そんな姿を見せた。
この後チームは4連勝
その後の4試合で韓国は一気に2試合を残しての本大会出場を決めた。
第5節
11月11日(木)
韓国 1-0 UAE [高陽]
第6節
11月16日(火)
イラク 0-3 韓国 [ドーハ]
第7節
2022年1月27日(木)
レバノン 0-1 韓国 [サイダ]
第8節
2月1日(火)
シリア 2-0 韓国 [ドバイ]
1日のシリア戦の結果で出場を決めた。3位UAEの結果次第では1月27日に第7節でイランとともに早々と決める可能性もあった。
韓国メディアではすでにこの4連勝のうちの2勝目、昨年11月16日のイラク戦(アウェー)での3-0の大勝により、こんな評価が出始めた。
「ベントが正しかった」(ニュース1)
何が変わったのか…現れ始めた「積み重ね」
では、パウロ・ベント率いるチームの何が変わったのか。韓国スポーツ紙のサッカー担当記者が言う。
「先日、キム・ヨンクォン(ウルサン)、ファン・インボム(ルビン・カザン/ロシア)とインタビューをしたのですが、共通して『何かが急に変わったわけではない』と話していました」
要は「積み重ね」の効果が出始めているのだ。
ビルドアップからしっかり攻撃を組み立てるサッカー。そのベースには高い守備力。「スポータルコリア」のキム・ソンジン記者が言う。
「2018年の就任後から変わらないんですよね。3年間の蓄積がここ最近の試合結果に出ています」
4-2-3-1や4-1-4-1をベースに、オプションとして4-4-2を採用する。ここ数年「最前線か2列めか」という点が大きなポイントとなってきた絶対的エースのソン・フンミンは基本的には2列めの左サイド。
ボールを奪うと、GKキム・スンギュやセンターバックからしっかりとパスコースを探し、組み立てていく。速さ、強さをここに織り交ぜていく。
前線にはファン・ウィジョ(ボルドー/フランス)やファン・ヒチャン(ウルバーハンプトン/イングランド)、ロシアW杯以降に台頭してきた選手が顔を揃え、「脱ソン依存」に成功しつつある。現に予選突破を決めたこの1月末から2月頭の2戦ではソンが負傷のため不在だった。
ソンはむしろ最終予選第1節でファン・ウィジョが強行軍のなか試合に出た際には、献身的に動き、前線のスペースに顔を出す姿でチーム全体に好影響を与えたりもした。
また、ボランチではパス能力に優れるファン・インボムが「一本立ち」。キ・ソンヨンが代表を引退した後、後継者として君臨している。
元Jリーガーが「象徴的存在」
さらにこのサッカーで重要な役割を果たす選手がいる。
キム・ヨンクォン。昨年までガンバ大阪に所属し、今年からKリーグのウルサンに移籍した左利きのセンターバックだ。
「左足で正確なキックのできるキム・ヨンクォンこそがこのサッカーの要。替えの利かない存在となっています」(「スポータルコリア」キム・ソンジン記者)
最終予選ではキム・ミンジェ(フェネルバフチェ)とともに主軸を担った。今思えば、2021年3月の日韓戦でも、現在の姿の「伏線」があった。当時、ガンバ大阪でシーズン中の試合出場が1度もなかったCBキム・ヨンクォンを強引に起用。これは3失点の原因となり批判の要因となったが、結局はこういった時期の我慢が最終予選で実を結んだのだ。
日韓比較で何を見る?
では日本からこの韓国の現状について何を見るべきなのか。
1つ目は、ロシアW杯後の選択についてだ。韓国は「外国人監督」、日本は「兼任監督」という選択を行った。お互いに前世紀から続く「W杯本大会出場を絶やしてはならない」というプレッシャーのなか、リスクを考慮した限定的チャレンジを行ってきた。韓国は3大会続いた国内監督に決別。日本は逆にハリルホジッチ監督時代の混乱に懲りたが、意思疎通のしやすい国内監督に五輪代表との兼任を任せた。この点、”ここまでは”韓国の方が上手く回している印象がある。この話は長いので、以前に筆者が記したこの原稿にて。
《五輪兼任とA代表専任監督どっちが最善か》問題…森保ジャパンと韓国代表の東京五輪→10月シリーズまでを比較してみた
2つ目は「タテヨコ」の話。お互い、足りない要素をどう足していくのか。
まず日本の話をすると、韓国と比べ「横」のパス展開に強い。しかしこれが時に足かせとなり、「縦」の要素を加えることに腐心してきた。南アW杯、岡田武史監督時代には、これを思い切って捨てたことが世界の舞台では功を奏した。いっぽうハリルホジッチ時代には「縦」を求められすぎる点へのアレルギーがチーム内に蔓延した。
一方、韓国は逆に「横」を加えることが長年の課題だった。
2010年7月から2011年12月まで指揮を執ったチョ・グァンレ監督は現役時代に華麗なゲームメーカーだったこともあり、「マンガサッカー」と言われるパス交換を実現しようとした。しかし同じことをやってきた日本に0-3で敗れるなど破綻(2011年8月の試合は韓国では「札幌大惨事」と呼ばれる)。パウロ・ベントの試みは近年で2度めのものとなる。
何せ韓国選手に「縦にパスを入れろ」ということはあまり教えなくてもよいように感じる。代表監督が問題視される度に「ウリ式=我々のやり方に戻そう」という言葉出てくる。縦に強く、速くて力強いサッカーだ。
東京五輪時のチームも初戦でニュージーランドにまさかの敗戦を喫した後、怒涛の如く前に突っ込んでいく姿勢を見せた。今のパウロ・ベントのチームでも「そこから縦に入れるの?」というポイントで大胆に入れていく。特にこのW杯予選、日本戦を観た後にはそう感じさせる。
ではベントはどうやって「横」の要素を足しているのか。
「いいトレーニングをして選手を納得させているんです。ソン・フンミンも『満足度が高い』と話しています」(前出のキム記者)
それは、「細かい点を確認していく」というやりかただ。ベントは就任後、7人のチームスタッフとともに過去の韓国代表の試合やKリーグの試合徹底的にチェックした。
そうやって韓国サッカーの傾向を掴んだ後に、細かい基準を選手に伝えている。チームのセルジオ・カルロス・コスタコーチがインタビューで例をこう挙げた。
「サイドバックの選手は当然、速い選手でなければならない。そして味方がクロスを上げた際、逆サイドで相手ゴール前まで入らないといけない」
- 同コーチのインタビュー
こういった「基準」を練習でしっかり伝えていくのだ。これは外国人監としての”前任”であるウリエ・シュティーリケ(ドイツ/2014年9月から2017年6月まで指揮)には全くなかったことだという。
日本に「縦」の要素を加えること、韓国に「横」の要素を伝えていくこと。どちらが難しいのだろうか。
最後に「歴史」。日韓両国のW杯史を見ると「本大会までにヒドいことがあった方が、結果がよい」という”法則”がある。
日本は2010年、18年にベスト16入りしたが、その際には「直前での守備的サッカーへの変換」「大会2ヶ月前の監督更迭」というヒドい出来事があった。同じく韓国は02年W杯時に、大会半年前まで「ヒディンク更迭論」が国会で論じられていた。
要は「万全の準備で構えて大会に臨むよりも、直前まで変化する要素があったほうが結果がよかった」ということ。ジーコ、ザッケローニ時代のようにアジアカップ優勝、コンフェデレーションズカップでの善戦などでピークを早くに迎え、いい状態で構えると「やられる」。悲劇が起きて、ドラマがあるくらいがちょうどよい。そんな歴史になっている。
そういった意味では、この2021年から22年に最終予選でもたついた日本のほうが韓国より「良い傾向」ともいえるか。
ただし韓国側には例外もある。2010年、南アW杯でのチームはホ・ジョンム監督の下、パク・チソンが全盛期を迎え、アジア予選を無風で突破。そのまま本大会でベスト16入りを果たしているのだ。
こういった歴史が変わってくるだろうか。今後は日韓ともに「本大会への時間の過ごし方」という見方も少しずつ出てくる頃になるか。
(了)