「逆襲」の後半戦へ! J3ギラヴァンツ北九州、低迷と復活の前半戦を振り返る
J3リーグで低迷していたギラヴァンツ北九州が、7月に入って波に乗ってきた。7月17日にミクニワールドスタジアム北九州(北九州市小倉北区、ミクスタ)で行われた今季前半戦のラストマッチは、FC岐阜に2-1で勝利。2連勝を飾り、チームは5勝5分7敗の12位でシーズン前半戦を折り返した。
2年連続の戦力ダウン 逆境の開幕
2年前の2020年にJ2リーグを席巻したギラヴァンツだったが、いわゆる「草刈り場」となって選手が大量流出。2021年シーズンは降格圏付近の戦いから抜け出せず、21位でJ3降格が決まった。2度目のJ2リーグはわずか2年のチャレンジに終わった。
ギラヴァンツは今シーズンのスローガンを「逆襲」として、J2復帰への強い意志を込めた。クラブが志すサッカーがころころと変わるのを避けるべく、前年までの体制を一部で踏襲。小林伸二スポーツダイレクター(2021年まで監督)のもとでヘッドコーチを務めた天野賢一氏が、内部昇格して監督に就任した。
ただ、降格にともなって主力選手の多くが再流出。主力の高橋大悟がレンタル元のJ1清水エスパルスに復帰したのをはじめ、村松航太、福森健太、生駒仁、新垣貴之、椿直起などがJ2の他チームでのプレーを継続した。
新戦力として大分トリニータからFW高澤優也、ジュビロ磐田からMF藤川虎太朗を期限付き移籍で獲得したほか、将来を担う高卒や大卒のルーキーも多く迎え入れたが、戦力の縮小は避けられなかった。さらに開幕前の2月にはトップチームの選手が相次いで新型コロナウイルスの陽性判定を受け、少なくとも9人が一時的に離脱している。
不安を抱えた中で迎えた3月13日の開幕節AC長野パルセイロ戦は、0-2での敗戦。後半11分にクロスボールからヘディングシュートを受けて失点すると、同30分にも同じようにクロスからフリーでたたき込まれた。攻撃では高澤のポストプレーからチャンスを作る場面はあったものの、相手ゴールを脅かすことはできなかった。
それでも第3節のカターレ富山戦ではセットプレーから2得点、続く第4節・FC今治戦ではカウンターから3得点が決まり、ギラヴァンツは2連勝。狙いとする形はほとんど出せず、守備での甘さも目立ってはいたが、開幕からの5試合を2勝1分2敗の五分の成績で戦い終えた。
ゴールが遠ざかり戦績は下降線
しかし、開幕から1カ月が過ぎる頃には、組織としての未成熟な部分が表面化。自陣内でこそボールは持てていても、フィニッシュワークにまで運ぶことができず、4月中旬以降は5試合続けて無得点。ボールを大事にしすぎるような消極的なサッカーになり、ローリスク・ローリターンの内容に乏しい試合が並んだ。攻撃的なサッカーを信条とするチームが、引き分けが精一杯の状態に陥った。
5月28日の第10節・Y.S.C.C.横浜戦では、0-1で下位チームに今季初白星を献上。試合後の記者会見で天野監督に「クオリティーと仕組みのどちらに問題があるのか」と問うと、指揮官は「現状では両方だ」と語り、表情険しく言葉を続けた。
「元々あった仕組みでなかなか結果が出ず、選手自身も結果が出ないので、うまくできない。今日もまずはシンプルに背中に入っていきながらクロスでゴールに入るという狙いはあったが、結果につながらないというところがあった。仕組みの部分と質の部分は両方に課題があると思う。もう一度確認してやらないといけない」
従前のギラヴァンツは敵陣でもボールを握って組み立て、最終局面ではディフェンスラインの背後を取るにしても、複数の選手が関わって相手を揺さぶってきた。ハイプレスからのショートカウンターでも多くの人数を割けるのが良さだった。ただ、この時点までは高澤頼みの展開が多く、小林ダイレクターと天野監督が二人三脚で築いてきたかつての攻撃の厚みを感じ取ることはできなかった。
4日後の6月1日。オンライン形式で行われたサポーターカンファレンスでは小林ダイレクターが登壇し、「攻守の切り替えが速く、ダイナミックなプレーをするということが、数多く表現できていない」と現状を分析した上で、攻撃的なサッカーの継続を誓った。
「攻守の切り替えや連係を向上させ、攻撃的でボールが前に出るサッカーを徹底できるように取り組んでいる。J3の中ではボールのキープ率は一番高い。それをダイナミックで、ボールを前に運べるサッカーが表現できるようになったり、後方でのボールも確実に回せる精度が上がると喜んでもらえる結果につながる」
天野監督、小林ダイレクターがそう話す中、選手からもギラヴァンツらしさを突き詰めたいという声が出ていた。ギラヴァンツで3年目のシーズンを迎えたボランチの針谷岳晃もその一人で、YS横浜戦のあとに「北九州らしさ」に言及した。
「背後へのボールは自分の持ち味の一つ。点で合わせられる自信はあるが、去年までダイゴ(高橋大悟)とやれていたものが、今年は少なくなったと感じている。そこは自分にも責任があると思うし、もっと練習から求めていかないといけない。ショートカウンターでは(ボールを)取ったあとに止まってしまうシーンが多く、パスをつなげるために攻守の切り替えは速くしたい。北九州のサッカーはそういうサッカーだ――」
練習の強度アップ。ギラらしさを積み上げ
ギラヴァンツは練習の強度を上げたり、トレーニングスケジュールを組み直して対外試合を積極編成するなど、ゴールに向かう迫力を取り戻そうと力を尽くしていく。6月13日にはJ2レノファ山口FCとの練習試合を組み、1-1の引き分け。山口側に戦力が足りていない部分もあったが、カテゴリーが上の相手に対して善戦した。
アグレッシブさを取り戻す作業がようやく形になってきたのが6月27日の第14節カマタマーレ讃岐戦だった。
前半30分に自陣からの縦パスにボランチの六平光成が抜け出して背後を突き、ペナルティーエリア内にも複数の選手が入り込んで決定機を創出する。これは得点にはならなかったが、同37分、再び六平が駆け上がってカウンターのボールを回収すると、佐藤亮にパスを流して先制のネットを揺らした。
ボランチが高い位置でボールに関わり、カウンターでも複数の選手が飛び出して行くシーンはチームの真骨頂。元ギラヴァンツのGK高橋拓也のファインセーブで得点こそ1点にとどまったが、狙いとする形を繰り出したギラヴァンツがリーグ戦10試合ぶりの勝利を手にした。
前半戦のラストマッチ 内容に手応え
前半戦の締めくくりとなった7月17日のFC岐阜戦では、手応えを確かなものとする白星を飾る。
序盤は岐阜のボランチの庄司悦大と吉濱遼平のシンプルな組み立てに対して苦戦するが、GK加藤有輝の好セーブでピンチを跳ね返すと、前半22分にチャンスが到来。前川大河の縦パスをペナルティーエリア内で藤谷壮が受けると、相手DFの足が掛かってPKを獲得する。これを前川が左隅にしずめ、ギラヴァンツが先制。その後も相手が前に出てきた背後を突いて、数度のシュートチャンスを作っていく。
前半29分に失点してしまうが、試合最終盤に突き放した。後半44分、ギラヴァンツはカウンターで左サイドを突いて攻勢に出ると、乾貴哉からのフィードを敵陣中央で前川が回収。さらに右サイドに散らして途中出場の池高暢希がボールを受け、クロスに佐藤が飛び込んで勝ち越し点を奪取した。
池高のクロスに対して佐藤ら4人の選手がペナルティーエリアに入り、相手の守備をかき乱した。そうやって獲得した決勝点は、ギラヴァンツらしさが見えたゴールだった。
「(第4節今治戦のあとは)いい攻撃ができていても、チャンスを決められないシーンが何度もあり、得点が入らないことで自信をなくしていく悪循環に入っていた。メンタル的なところも含めて修正し、質の向上を図り、今の状態になってきている。コンセプト自体は変わっていないが、選手たちがより相手を見ることができるようになり、より良いスペースを突けるようになってきた」
天野監督は試合後にそう語った。ギラヴァンツ本来の得点に近づく仕組みが表現できるようになり、ホームサポーターを沸かせるサッカーが少しずつ戻ってきた。
もちろん課題はある。フィニッシュワークでの迫力が出せるようになったが、逆に中盤からボールが出て行かず、停滞する時間帯がある。やはり得点を取りに行くべき場面ではボランチがタクトを振って前線を動かし、パスワークの出口を探し続ける必要がある。
守備も大きな課題点だ。岐阜戦の失点シーンは相手に負傷者が出て、ギラヴァンツは数的優位に立っていた時間帯だった。ゴールをアシストしたのは岐阜の吉濱だったが、試合を通じてもう一人のボランチの庄司に対してもフリーでボールを上げさせていた。彼らは、ミクスタの対岸をホームとするレノファ山口FCに所属していた経験があるパサーで質は高い。自らコースをこじ開けることもできる彼らに、みすみすコースを与えてしまえば失点に直結するのは当然だ。
プレスバックする際にラフプレーからセットプレーを与える場面があるのも、ポジティブな現象ではない。前向きにプレスを掛けてボールを奪い、前向きな攻撃につなげるのがギラヴァンツの良さで、ボールを後ろに置かない守備も取り戻したい。
昇格圏は遠いが、挑戦の価値はある
いよいよ後半戦の戦いが始まる。ギラヴァンツは現在の勝ち点が20で、自動昇格圏にいる2位松本山雅FC(勝ち点37)までの差は17ポイントと大きく開いている。昇格ラインに迫るなら、前半戦の負け(7敗)をすべて勝利に変えて17戦で12勝するくらいの結果が求められる。
「選手たちが自信を持ってやり始めたのは一番大きい。もっともっと質を上げて、魅力的なものにしたい」(天野監督)
まだ昇格圏の背中さえ見えていない状態だが、逆襲を誓うチームに挑まないという選択肢はない。組織が固まってきた時の強さは2020年のJ2で証明済みだ。残り17戦に全てを懸けて、J2復帰への階段を駆け上がってみせる。