久光製薬を3連覇に導いた「変化」と「進化」
12月10日から5日間に渡って開催された天皇杯・皇后杯全日本バレーボール選手権大会。女子は久光製薬スプリングスが3連覇、男子はJTサンダーズが07年以来7年ぶりの優勝を飾った。
あわや敗退の危機から立て直す修正力
中田久美監督が就任以降、負けなしの3連覇。
もはや国内では敵なしの感すら漂わせる久光製薬で、攻守の要として活躍する石井優希が言った。
「国内では負けちゃいけないと思っているし、絶対に負けないという自信もあります」
負けられないプレッシャーではなく、負けないと言い切る強さ。中田監督も、チームや選手の変化を口にする。
「就任した当初は、どこか人任せで最終的には私が答えを出してあげなきゃならない部分もありました。でも今は違う。選手たちから『今日はケア(治療)にきちんと時間をかけたいから、(他チームの)試合は見ずに帰ります』とか、自分たちの行動にちゃんと理由をつけた言葉が出てくる。そういう面は、本当に成長したな、と感じます」
トーナメントで戦う天皇杯・皇后杯の大会中、あわや敗退か、と追い込まれたのは一度だけ。準々決勝で荒木絵里香や今秋の世界選手権を制したアメリカ代表のケリー・マーフィーを擁する上尾メディックスに2セットを先取された。
ついに久光製薬が負けるのか。
独特の空気が伴う中で、中田監督はスタメンで起用したセルビア代表のウィングスパイカー、ミハイロビッチ・ブランキツァを外し、レフトに新鍋理沙と石井、セッター対角のオポジットに長岡望悠を入れた、昨年までと同じ布陣で第3セットをスタートさせた。
中田監督も「3年目になり、ある程度チームの形ができてきた」と言うように、それまでの劣勢をガラリと立て直し、第3セットを奪取。「自分がやらなきゃ負ける、と思って必死だった」と言う新鍋、長岡の攻撃を防ぎきれず、試合の主導権は久光へと移行する。
目前に迫った勝利に向け、再び流れを引き寄せたい上尾もブロック、レシーブで応戦するも、吉田敏明監督が「途中から長岡が出てきて、こちらのブロック&レシーブのシステムを一気に変えなければいけなくなった。データでは『こうすればいい』とわかっていても、それ以上にスピードや決定力があり、最後まで止め切れなかった」と振り返ったように、久光製薬が長岡、新鍋の攻撃で要所のラリーを制し、0-2からの逆転勝ちを収めた。
たとえ劣勢に追い込まれようと、最後は必ず勝利をもぎ取る。
なぜこれほどまでに、久光製薬は強いのか。
天皇杯・皇后杯でも対戦した、ある選手が言った。
「レシーブが返る、いいトスが上がる、という状況で決めるのは当たり前。だけど久光の選手は、レシーブが崩れたり、トスが乱れたりしても、最後のポイントできっちり修正してくる。こちらからすると『よし、崩れた』と思うから抑えるつもりでブロックに跳んでも、間をスルっと抜けられたり、当てて外に出されてしまう。ブロックの上から気持ち良く打たれるスパイクよりも、相手を追い込んだはずのところからうまく取られる1点は、普通の1点以上に重い。久光の選手は、そういう点のとり方がすごく上手なんです」
中田監督が掲げる「世界」
絶対に負けられない。
去年までは、連覇を狙える立場で戦えることは、喜びである以上に大きなプレッシャーだった。
もちろん今年も、中田監督が「どの大会でも連覇がかかっている。逃げ出したくなるぐらい苦しいし、しんどい」と言うように、選手にとってもチームにとっても天皇杯・皇后杯とVプレミアリーグの「3連覇」が期待される中での戦いは、少なからずプレッシャーになっているのは間違いない。
だが、それでもブレずに「勝ち続ける」ことに挑戦できる理由があると、キャプテンの座安琴希は言う。
「他のチームも『久光に勝って日本一になるぞ』と思って必死に練習してきていると思います。でも私たちは絶対にそれ以上の意識を持って、練習してきている自信がある。去年は打てなかったコースに打てるようになったとか、拾えなかったボールが上げられるようになったとか、個人の満足だけじゃ許されない。久美さんに『その1本が本当に世界に通用すると思っているの?』って言われたら、何も返せないし、結果を出さなきゃ認められないわけだから。それだけの意識で毎日やってきていることを証明するためにも、日本では絶対に負けられない。たぶん全員が、自然にそう思うようになりました」
あくまでも、今は通過点として。
長岡が言った。
「この3年間で積み重ねて来たものはたくさんあるし、もっと進化できると思うから、結果を求められがちだけど、それだけではなく、目標に向かって挑戦し続けたいです」
今季、チームの目標は欧州やブラジル、世界の強豪が集う世界クラブ選手権に出場し、表彰台に立つこと。
真の最強チームとなるために。年明けと共に再び始まるVプレミアリーグの戦いに挑む。