トラスショックで市場は大荒れ、英国債は炭鉱のカナリア機能を発揮。英国は沈み始めた新興国か
23日の欧米市場ではトラスショックが走り大荒れの展開となった。
トラス英政権は1972年以来の大規模な減税を打ち出した。クワーテング英財務相は不動産購入時の印紙税を削減。個人や企業が直面する光熱費の高騰に対し、今後6カ月間で600億ポンド(約9兆5000億円)を拠出して支援することを確認。高額所得者に対する45%の所得税最高税率を廃止し、基礎税率も20%から19%に引き下げる。ロンドンの金融街シティーに対する規制自由化も約束し、バンカーの賞与制限は撤廃する(24日付ブルームバーグ)。
英債務管理庁(DMO)は23日、2023会計年度(2022年4月~2023年3月)の国債発行額が1939億ポンドに増額されると発表した。4月時点では1315億ポンドを計画していた。
イングランド銀行は22日に0.5%の利上げ決定を発表し、保有する英国債の市場での売却を始めると発表した。これを受けて22日に英10年債利回りは3.49%と16日の3.31%から大きく上昇していたが、トラス政権の1972年以来の大型減税と国債増発を受けて、火に油が注がれた格好となった。ある意味、トラス氏の本領発揮ともいえる。イングランド銀行には口出しはしなかったようだが。
23日のロンドン市場では英国債の利回りが急騰した。2年債利回りは前日より一時、0.4%あまり上昇して4%を上回り、2008年10月以来約14年ぶりの水準となった。政府債務増加への懸念とともに、減税策がインフレをさらに加速させかねないとの懸念も強まった。
長期金利の指標である英10年債利回りも0.3%強上げ、2011年4月以来の高水準をつけた。まさに英国債は炭鉱のカナリア機能を発揮したともいえる。政府債務やインフレの懸念が長期金利の上昇で示されたのである。
外国為替市場ではポンドが売られ、一時1ポンド1.08ドル台前半と大きく下げ、対ドルで1985年以来の安値水準を更新した。
これに対しサマーズ元米財務長官は23日に、「現行の軌道が維持される場合、ポンドが1ドルをいずれ下回っても私は驚かないだろう」と言明した(24日付ブルームバーグ)。
サマーズ氏はブルームバーグテレビジョンで、「非常に申し訳ないことを言うが、英国は沈み始めた新興国のように振る舞っている」と発言。「英国の欧州連合(EU)離脱、イングランド銀行のひどい後手後手ぶり、今のこうした財政政策。英国は主要国で長きにわたって目にしなかった最悪のマクロ経済政策を追求したとして記憶されるだろう」と述べた(24日付ブルームバーグ)。
これについては英国だけではなく、日本も該当するのではなかろうか。日銀は後手後手どころか動きもせず反対方向を向いており、巨額債務を抱える政府は予備費を使った対策を行おうとしている。その日本に対してサマーズ氏は先日の為替介入について言及していた。
「トレンドに逆らって介入する場合、金融政策の方向性に逆らって介入する場合には、その通貨の軌道変更に有効になる可能性と短期筋にとっての好機になる可能性とが同じくらいだ。日本はまさにこのケースだ」と語った。
可能性は同じくらいというより、短期筋にとっての好機になる可能性のほうが高い。ドル円は143円台を回復している。
英国債の急落を受けて、米国債も一時大きく売られ、米10年債利回りは一時、3.82%と2010年4月以来12年ぶりの高水準をつけた。ただ、米株式相場の急落を受けて買い戻された。23日の米国株式市場でダウ平均は前日比486ドル27セント安となっていた。