金与正の恫喝も無視する北朝鮮国民の「生活の知恵」
北朝鮮の金正恩総書記の妹・金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は16日、「大韓民国の人間のくずが飛ばした大型風船29個がまたもや発見された」として、凄惨(せいさん)で耐え難い代償を覚悟すべき」と警告した。また、風船の中身を焼却処分する画像も公開した。白いビニール、朱色の物体と共に、総合感冒薬と書かれたパッケージも燃やされている。
だが、北朝鮮の一般国民は「なんともったいないことを」と考えていることだろう。本来、風船を発見すればすぐに届け出なければならないが、人々は大切にリサイクルしている。黄海南道(ファンヘナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
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苔灘(テタン)郡在住の住民は最近、自宅そばの木に風船が引っかかっているのを発見。風船を破裂させ、地面に引きずり下ろした。中には北朝鮮政府を非難するビラが入っていただけで、米ドル紙幣や、韓ドラや映画のファイルが保存されたUSBメモリなどは入っていなかった。
彼はすぐさまビラを焼却処分し、風船のビニールを自宅の屋根にかぶせた。梅雨時の雨漏りを防ぐためだ。情報筋によると、現地ではこのような活用法が一般的だという。
「ここの人々は風船を発見すると、中身はすぐに大部分を焼却して、風船のビニールだけ残して屋根の補修や、畑で使っている。風船は2〜3年ほど充分に持つほど質がいいので、住民は密かに使っている」
物資の不足する北朝鮮に住む人々にとって、韓国から飛ばした風船は、天の恵みとなっているということだ。
本来、韓国から飛来したビラを発見すれば、中身を読まず、手も触れずに、所属する上部組織に通報せよというのが、北朝鮮政府の示した指針だ。これに違反してUSBを拾い、韓流コンテンツを見た中学生30人が処刑されたとの情報もある。
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地域には、飛行物体を監視する哨所(監視塔)が多く存在するが、全地域を監視しきれず、風船が村の裏山まで飛んでくることもある。しかし、指針通りに通報しない人も多いようだ。
「通報すると取り調べを受けるのが面倒なので、適当に焼却するのが一番いい」(情報筋)
最も近い韓国領である大延坪島(テヨンピョンド)からは50キロ、韓国の脱北者団体などがビラを飛ばす地域として使われるソウル郊外の金浦(キムポ)市からは120キロしか離れていないため、頻繁にビラが飛来するものと思われる。
複数の脱北者団体が北朝鮮に向けて頻繁にビラを飛ばし、北朝鮮が汚物風船を飛ばして報復する風船の応酬に対して、韓国の野党、共に民主党は、自国領土内から北朝鮮に向けてビラを飛ばす行為を禁止する法案の検討に入ったと韓国メディアが報じた。
同様の法律は文在寅政権時代の2020年12月、韓国の国会で可決、成立したが、憲法裁判所は2023年9月に違憲判決を下したことから、統一省は「慎重な対応が必要」だとして、規制には消極的だ。
また、野党が強い首都圏の京畿道は、ビラ散布の取り締まりを行っている。それに対しては賛否両論の声が上がっている。さらには「凄惨で耐え難い代償」として、仁川、金浦の両国際空港が集中的な汚物風船攻撃を受けるのではないかとの懸念も広がっている。
このような南北関係を巡る韓国国内での政治的対立を「南南葛藤」というが、まさに北朝鮮の目論見通りになっているのかもしれない。