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「彼は悪くないのに」総理を罵倒した金正恩に国民から非難の声

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

 北朝鮮の金正恩総書記は21日、堤防が決壊し冠水被害を受けた南浦(ナムポ)市の干拓地を視察した際、「今回の被害は決して、自然現象による災いではない」とし、幹部らに対し「政治的未熟児」「知的低能児」「官僚のやから」などと罵詈雑言を並べ怒りを爆発させた。

 その様子は朝鮮中央テレビでも報じられたが、パワハラ上司さながら、幹部を現場で怒鳴りつける金正恩氏の様子には、否定的な声が上がっていると、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

「また、部下のせいにしている」

「国家レベルの被害が発生するたびに幹部に責任をなすりつけるが、幹部とて干拓地が浸水するとは思っていなかっただろう」

「責任を問うて処罰する前に、今まで国は何をやってきたのか振り返るべきだ」(市民)

 たとえ根本的に政策が間違っていたとしても、いくつかの例外を除いて、金正恩氏が自らの責任を認めることはない。「お前たちは何をやっているのか」と現場の幹部を怒鳴りつけ、最悪の場合は「見せしめ」として銃殺してしまう。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 2015年に、餌やりと水質管理を怠り、スッポンの子どもを多く死なせたとして、金正恩氏から激しく叱責されたスッポン工場の支配人は処刑されている。

 金正恩氏は、金徳訓(キム・ドックン)内閣総理を激しく非難したが、これに対しても同情の声が上がっている。

「金徳訓同志が全国で視察に訪れていないところはないということは、誰でも知っていることだ。国民の多くは、彼が朝鮮労働党の決定を貫徹させるために心をすり減らし、苦労したイルクン(幹部)だと認識している。責任はむしろ、自力更生を叫ぶばかりだった国の方にある」

 金徳訓総理が隔週、多いときは毎週、全国各地の様々な現場を視察していることは、朝鮮中央通信の報道を見てもよくわかる。それだけに、国民からの評判は悪くない。金正恩氏は、彼の普段の頑張りを全く無視して、その場の気分でどなりつけた「気分屋」のように見えたようだ。

 一方で、幹部を非難する人々もいる。

「この機会に幹部を処罰すべきだ」

「自分たちが処罰されるのが恐ろしくて、虚偽報告ばかりしている幹部連中のやり方をこの機会に正すべきだ」

 実際に、北朝鮮では虚偽報告が蔓延している。ノルマが達成できなかったり、何らかのミスを犯したりすれば、更迭されて一般労働者に格下げされた上で奥地に追放されるなどの処罰を受ける。そんな重罰を避けようと虚偽の報告を上げてごまかすのだ。

 また、生き残りたいがために、過度の忠誠競争を行い、その負担を住民に押し付ける幹部も少なくない。

「幹部はおべっかを使って生きていて、私腹を肥やすために住民が餓死しつつあるのに知らぬふりをして中央に報告すらしない」

「そんな問題を解決するためにも、この機会に幹部に対する思想検閲を徹底して行うべきだ」

 しかし、たとえ有能で誠実な人物がやってきたとしても、問題が起きれば連帯責任を取らされクビになってしまう。世渡り上手で、自分が生き残るためなら部下のクビを平気で差し出すような幹部のほうが、長くポストにとどまることになるのだ。

 また、経験豊富な技術者や専門家よりも、門外漢の党幹部の意見のほうが優先されるのが北朝鮮のシステム。現場の事情を無視した無理難題を押し付けられても、歯向かうことは許されず、無条件で達成しなければならない。できなければ、責任を取らされる。

 こんな馬鹿げた体制を何十年も続けているのだ。こんな状況では何の発展も望めまい。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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