アドベンチャーブームに異変 ミドルクラス戦国時代に突入か!?
現実レベルで気軽に冒険を楽しめるマシン
世界的な人気の高まりを見せるアドベンチャーツアラーというジャンル。強力なエンジンと不整地をものともしない強靭な足まわりが与えられ、あるときは国境を越えて1日数百kmの高速巡行をこなし、またあるときは荒野に分け入り道なき道を走破していく。ロングツアラーとエンデューロバイクの両方の機能を持ち合わせた冒険マシンである。
代表格はBMW「R1250GS」だろう。そのライバルとしてKTM「1290スーパーアドベンチャー」やドゥカティ「ムルティストラーダ1260」、トライアンフ「タイガー1200」、そしてホンダ「CRF1100Lアフリカツイン」などリッター超クラスの錚々たる顔ぶれが揃う。ただし、こうした巨大なスーパーマシンを意のままに操れるのは一部のエキスパートライダーだけだろう。多くの普通のライダーにとって、冒険マシンはまだまだ敷居が高いのが実情だ。
これは体格・体力に優れる欧米人にとっても同様らしい。海外試乗会へ行くと、メーカーの開発者や他国のジャーナリストからもそういう話をよく聞く。であれば、もっと気軽に現実レベルで楽しめるマシンを、ということで最近頓に注目され始めたのが中排気量クラスのアドベンチャーツアラーである。
新型「タイガー900」参入でますます激化
近代的装備のミドルアドベンチャーが登場したのは、「F800GS」(2008年~)、「タイガー800」(2010年~)辺りからだろう。それらも当初はフラッグシップの陰に隠れた脇役的な存在でしかなかったが、実際のダート走行では軽量な車体とデカすぎないサイズ感、凄すぎないパワーで上級モデルを上回る走破性を発揮。「本気でオフを走りたいなら、やっぱミドルクラスかな」という印象が浸透していった。
そして、2018年にBMWがフルモデルチェンジした「F850GS」を投入すると、これに対抗して今年2020年にトライアンフが「タイガー900」で応戦するなど激しさを増している。
ちなみに今年4月上旬発売予定のタイガー900は排気量888ccに拡大した新開発の並列3気筒エンジンを搭載。トルクを10%アップするとともに新たに不等間隔のファイアリングオーダーを採用することで鼓動感とトラクション性能を向上。エンジン搭載位置をより低く前方に最適化した車体は、新設計スチールトレリスフレームなどにより5kg軽量化され、新型サスペンション&ブレンボ製最高峰ブレーキを装備。
電制もさらに進化し、最大6種類のライディングモードに新設計のコーナリングABS&トラコンを装備するなど大幅にパフォーマンスを向上させてきた。ミドルアドベンチャーの中でもこの2台はスペック的にも立ち位置的にも重なるベンチマーク的な存在と言っていいだろう。
「ガチオフ系」から「ゆる旅系」まで多様化
このクラスの流れを変えたのが、昨年KTMが送り込んだ「790アドベンチャー」だ。ラリーマシンのテクノロジーをごっそり盛り込んだガチの冒険マシンで、ノーマル状態でアフリカの砂漠を平然と走破してしまうほどの、他のライバル勢とは一線を画す戦闘力を見せつけた。
そして、今年はヤマハから伝統の名を冠した「テネレ700」がこれに真っ向勝負を挑んでくる形だ。この2台はダートでの戦闘力をより重視している点で同じポジショニングにあると言えよう。
また、古典的なイメージのモトグッツィからも昨年クラシック・トラベル・エンデューロのコンセプトで80年代ラリーマシンの面影を投影した「V85TT」がデビューするなど、排気量700ccから900ccクラスの最新マシンがこのセグメントに続々と参入しているのだ。
普通に操れるのは100ps、200kg程度
考えてみれば、大型スクリーンと必要十分なパワーで高速道路を快適に飛ばせて、ワインディングではスポーティな走りが楽しめて、長い足と電子制御の力を借りて林道走りも楽しめるミドルアドベンチャーは、いわば究極の万能マシンと言えなくもない。
参考までに普通のライダーが持てあますことなく操れるのは、パワー的には100ps程度、車重にして200kg程度と言われ、オフロードではさらにその数値は小さくなるだろう。
その意味でもミドルアドベンチャーは“程よい良い加減”なのだ。ということで、ますます熱い視線が注がれそうな予感がするのだ。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。