香川が深く下がってボールを受けたことでサッカーが型崩れした森保ジャパンの問題点【ボリビア戦分析】
スタメン総入れ替え方式のデメリット
南米の強豪コロンビアに対し、チーム初となる無得点での敗戦を喫した森保ジャパンが、その4日後、同じ南米のボリビアとの親善試合に臨んだ。現在の森保ジャパンの目標とされる6月のコパ・アメリカ、そして秋から始まるW杯アジア予選のことを考えると、日本がこの3月の代表ウィーク2試合で重視すべきは、結果よりも内容になる。
コパ・アメリカとその後のW杯アジア予選に向け、森保ジャパンが抱えている課題をどれだけクリアできたのか。前後のつながりでボリビア戦を振り返ったほうが、試合の意味合いも、現段階の森保ジャパンの強化プロセスも見えてくる。
そういう点では、圧倒的にボールを保持して1-0で勝利したという結果とは裏腹に、残念ながらボリビア戦で日本が手にした収穫は少なかったと言える。
コロンビア戦同様、この試合のチェックポイントは、「相手に分析されたときの攻撃面の打開策」、「大迫勇也(ブレーメン)が欠場したときの代役発掘とその戦術」、「戦術(システム)オプションの構築」、「森保一監督のベンチワーク」。これがアジアカップで露呈した主な課題4点だ。
それらに対して、森保監督がどのような狙いを持ってボリビア戦に臨んだのかも見ていく必要がある。
果たして、森保監督がセレクトしたスタメンは「招集した全選手を使ってあげたい」と自身が予告したとおり、コロンビア戦から先発11人を総入れ替えしたメンバーで編成した。
代表ウィーク2試合を別々の11人で戦うやり方は、昨年10月のパナマ戦とウルグアイ戦、11月のベネズエラ戦とキルギス戦と同じだが、今回も同じパターンを継続した格好だ。
大幅にスタメンを入れ替えて連戦に臨むこと自体はよく見受けられるが、スタメンを全員入れ替えるケースは稀だ。その珍しいやり方を、森保監督が3度までも続けたことからすると、よほどのこだわりがあると見て間違いない。
真の狙いがどこにあるのかは、指揮官本人が本心を明かさない限り知る由もないが、いずれにしても、この手法を継続することによって、「レギュラー固定による連係の向上」という、チーム強化に必要な作業ができないリスクも覚悟する必要がある。
そして、そのマイナス部分が露呈してしまったのがボリビア戦だった。
この試合のスタメンに名をつらねた西大伍(ヴィッセル神戸)、畠中槙之輔(横浜F・マリノス)、安西幸輝(鹿島アントラーズ)、橋本拳人(FC東京)、小林祐希(ヘーレンフェーン)、宇佐美貴史(デュッセルドルフ)、香川真司(ベジクタシュ)、鎌田大地(シント・トロイデン)の8人は、森保ジャパン初招集の選手。畠中と橋本にとっては代表デビュー戦であり、ある意味で「初心者マーク付き」のチーム編成だった。
縦パスを打ち込むもゴールの気配なし
一方、この試合のボリビアは4-4-2を採用し、4日前の韓国戦のスタメンから7人を入れ替えた若手中心。センターバック2枚はそのままで、中盤のラウル・カストロを前線に配置して、FWヒルベルト・アルバレスと2トップを組ませた。
試合後、エドゥアルド・ビジェガス監督が「今日の我々は若い選手が多く、よい経験ができた」と話したように、ボリビアも「バックアップメンバーの底上げ」を狙いとしていたわけだが、ビジェガス監督としては、コパ・アメリカまでにより多くの選手をテストしたかったのだろう。
それもあってか、ボリビアは4-4-2の陣形をキープしながら、序盤から守備重視の戦術。少なくとも前半はリスクをかけて攻撃するシーンは皆無だった。
つまり、日本に与えられたタスクは、いかにしてボリビアの守備網を破ってゴールにつなげるか、という点に絞られていた。しかもこの試合のボリビアは、コロンビアと違って日本対策を持って守備に集中した印象はなく、日本にとって難しい相手ではなかったはずだった。
しかし、前半のボール保持率で日本が72.3%を記録するなか、ピッチ上で目立っていたのは攻撃時における効率の悪いパス回しだった。いわば、「ビジョンの共有なきポゼッション」。過去13試合で最も「アドリブ性の高いサッカー」になっていた。日本の攻撃が停滞した最大の原因だ。
森保ジャパンのバロメーターである縦パスは、前半だけで18本。この数字は控えメンバーで戦った昨年10月のパナマ戦や11月のキルギス戦よりも少ないが、縦パスを封じられたコロンビア戦が8本だったことを考えると、極端に少なかったわけではない。
にもかかわらず、チャンスと言えるような攻撃は、前半で2度のみ。
西の縦パスを受けた鎌田が宇佐美に落とし、宇佐美から大きく左にサイドチェンジしたボールを乾貴士(アラベス)が受け、カットインからシュートを放った23分のシーン。そして、小林のクロスをゴール前で乾がシュートを狙うも、ミスキックになった25分のシーンである。いずれもサイド攻撃だった。
ちなみに、前半に日本がサイドから入れたクロスボールは9本あったが、味方につながったのは25分の乾のシュートと、46分に乾の左足クロスが逆サイドに流れてしまい、それを宇佐美が回収した場面だけだった。つまり、前半のクロスの成功率は9分の1。クロスの精度は今後の課題だろう。
結局、61分に日本が交代カード2枚を切るまで同じ流れで試合は進み、後半のそれまでに日本が迎えたチャンスは1回。58分、畠中の縦パスを中間ポジションで受けた乾が鎌田にパスし、相手DFをかすめたボールを鎌田がシュートしたシーンだ。
では、中央への縦パスとサイド攻撃をバランスよく繰り広げたにもかかわらず、日本の攻撃が停滞してしまった原因はどこにあったのか。
そこで浮上するのが、トップ下の香川のプレーぶりだ。そこが、同じ控えチームで戦ったパナマ戦、キルギス戦とのわかりやすい相違点だった。
森保監督も意図しなかった0トップ状態
4-2-3-1のトップ下の選手は、相手DFラインと中盤2列目の間を基本の立ち位置とし、1トップの動きとシンクロしながらゴールに直結するプレーが主な仕事になる。また、守備時は4-4-2の「2」の一角として、ファーストディフェンダーとしての役割を担う。
ところが、そのポジションでプレーしていた香川は、15分をすぎた頃から停滞感が漂う日本の攻撃にリズムを作ろうと、ボランチの位置まで下がってボールを受けるシーンが急増。最初に低い位置でボールを受けたのは19分のこと。
以降、前半だけで6度、後半ベンチに退くまでに4度、香川は深く下がってボールをもらい、低い位置から展開する役を演じるようになった。
当然、香川が低く落ちれば、1トップの鎌田の周辺にスペースが生まれる。そこに鎌田が落ちてボールを受けることもあれば、宇佐美や乾が内に入ってプレーすることもある。あるいは、ボランチの小林が上がるシーンも頻繁にあった。
典型的なシーンは25分。ボランチ付近まで下がった香川が橋本からパスをもらい、香川が空けたスペースに1トップの鎌田が落ちて香川から縦パスを受けたシーンである。その時の日本の布陣は0トップ状態。しかし、予め準備していた形ではないため、両サイドから中央に向かって走り込む選手はいなかった。
結果的に、よかれと思って選択した香川のプレーが、日本の効果的なパス回しを停滞させてしまった感は否めない。橋本がセンターバックの間に落ちて、3-4-2-1に可変してポゼッションを試みるシーンもあったが、中盤が入り乱れた状態では、その効果を望むまでもなかった。
ただし、この問題が香川の責任かと言えば、そうではない。
仮に香川がトップ下の位置にとどまったとしても、攻撃が活性化する気配がなかったのは事実で、香川としてはサイドチェンジなどによる打開策を模索したにすぎない。それを事前にチームで共有できていれば、むしろ香川のプレーは全体をプラスに転じさせる可能性さえある。
もっとも、控えチームで出場した香川にとっては、レギュラー奪取に向けてアピールしなければならない焦りもあったはずで、それが下がってボールをもらうプレーに走らせた可能性もある。実績のある選手をあえて控えチームで起用する意味がどこにあるのか、指揮官はあらためて考えてみてもいいのではないだろうか。
そういう意味では、「ビジョンの共有なきポゼッション」によって停滞した日本の攻撃の元凶は、選手の自主性をベースにした森保監督のサッカーそのものの問題点に行き当たる。核になる戦術、プレーモデルが存在すれば、スタメンを総入れ替えしてもここまで「アドリブ性の高いサッカー」にはならなかったと思われる。
結局、「勝ち切ることを願って交代した(森保監督)」ことが奏功し、76分の中島翔哉(アル・ドゥハイル)の決勝ゴールで勝利することはできた。森保監督のベンチワークも一定の評価を得たと言っていい。
ただ、「戦力の底上げ」という点では評価するわけにはいかない。その采配によって、再びレギュラーと控えの明暗をくっきり分けてしまったからだ。
そして、アジアカップで見えた課題についても、解決に向けた明るい材料は見当たらない。ボリビアが対策を練ってこなかったことで「研究されたときの打開策」についてはチェックの対象外だが、「大迫不在時の代役と戦術」については、2チームに分けて戦ったことで明確な手応えは得られず、4-2-3-1以外のオプションも試されることはなかった。
次の日本代表戦は、コパ・アメリカ前に予定される国内での2試合だ。課題を持ち越しにしたまま臨む次の試合で、森保監督はどのようなメンバー編成を行ない、どのような狙いを持って戦うのか。
ヨーロッパ組の多くを招集できないコパ・アメリカの位置付けも曖昧なままで、その意味合いが難しい親善試合を迎えることになりそうだ。
(集英社 Web Sportiva 3月30日掲載)