生活保護制度の「抜本的な改革」を 「出入り」しやすい制度へ
新型コロナの感染が急激に拡大し、今月8日より緊急事態宣言が発出されている。夜20時までの営業時間短縮を要請されている飲食業を中心に、雇用への影響は避けられないだろう。
厚労省の調べによると、1月7日までにすでに8万人超が解雇・雇止めされており、緊急事態宣言下で一層増加することが予想される(ただし、これはハローワークなどに相談に訪れた労働者の数であり、実数はさらに多い)。
コロナ関連の生活困窮に対応する生活支援策として、社会福祉協議会の特例貸付や住居確保給付金の要件緩和が行われてきたが、いずれも期限付きの制度であり、すでに貸付や給付が終了してしまったという相談も少なくない。
そうすると、生活困窮の拡大を受け止めることのできる制度は、ほぼ生活保護だけということになる。生活保護は生活費、住宅費、医療費など広範な生活ニーズに対応する制度となっているが、一般の労働者が利用するうえでは課題も多い。
今回は、コロナで生活困窮に陥っているのが一般の労働者であることを踏まえ、彼らにとって生活保護制度がどのような課題を持っているのか、考えてみたい。
コロナの影響による生活困窮の多くは「普通の労働者」
私が代表を務めるNPO法人POSSEに寄せられる生活相談は、コロナ以前には病気や障害を抱えた「働けない人たち」が多く、全体の7割以上が障害・傷病者を抱える世帯であった。
しかし、コロナの感染が拡大した昨年4月~6月の相談を集計すると、404件中382件と9割以上が労働問題に起因する生活困窮であった。つまり、「働ける人たち」からの相談が多く寄せられているのだ。
主な要因別としては、「休業・勤務日数減」が193件、「解雇・雇止め」が58件、「仕事が見つからない」が73件などとなっている。
冒頭に述べたように、コロナ禍で利用可能なさまざまな支援策も期限があったり、内容が十分ではないために、最終的には生活保護以外の選択肢がない場合も珍しくはない。そのような状態に多くの「普通の労働者」がおかれていることが、現在の特徴なのである。
ところが、生活保護制度はこのような「普通の労働者」が生活に困った時に利用する際に、非常に使いづらい運用がなされている。
預貯金はほとんど認められない
生活保護を受けるための基準は、主に収入と資産であり、これらは受給に際して審査の対象となる。そのうち資産として障害になりやすいものとしては預貯金、自動車、持ち家などが挙げられる。まずは、預貯金から見ていこう。
生活保護申請時に認められる預貯金は、最低生活費(生活保護基準)の半分までである。具体的には、東京都内の単身者の最低生活費が約13万円なので、6万5千円程度となる。このように、預貯金がほぼなくなるまで保護が受けられない。
預貯金がほぼない状態で保護を開始した場合、保護費で貯金することは非常に難しいため、仮に保護を脱却できたとしても、ほぼ無貯蓄状態の生活を続けなければならず、非常に不安定な立場に置かれ続けるという、大きなデメリットがある。
なお、家賃補助を行う住居確保給付金では、(住民税非課税となる収入の12分の1)×6が預貯金の基準額となっており、東京都内単身であれば50万円余りの保有が認められている。せめて、これくらいの水準で生活保護でも保有を可能にするべきではないだろうか。
自動車は原則保有不可、ただし例外あり
次に、特に地方では生活必需品とも言える自動車であるが、生活保護では原則保有が認められていない。ただし、通院と通勤目的に限って、障がい者の方や公共交通機関の利用が困難な地域での保有が例外的に認められている。
また、保護申請時に失業などで就労していない方が、おおむね6か月以内に就労によって保護を脱却する見込みがある場合には、自動車の処分が保留される。この点については、昨年4月に緊急事態宣言が出された際に、厚労省が改めて各自治体に通知を出している。
つまり、働ける労働者が生活保護を利用する際には、自動車を持ち続けることが可能であるということだ。しかし、自治体によっては一律に自動車保有を認めないとして、保護申請を受け付けない違法な運用を行っている場合もあるので、注意が必要だ。
実際、地方では自動車を失うことで就労の範囲が狭まってしまい、生保の受給がかえって就労の機会の阻害ともなりかねない。「貧困者の救済」を主としたターゲットにした制度運用が、まさに「普通の労働者」の利用を妨げてしまう構図である。
持ち家は原則保有可能
最後に、持ち家については原則保有可能である。ただし、認められない場合は次の通りだ。
特に、(1)は稼働年齢層の労働者にとっては厳しい規定である。住宅ローンが返済できないほど生活が苦しい場合にも、持ち家を売却しなければ保護をうけられないということになってしまう。生活保護では借金があっても利用可能となっているから、同様に住宅ローンも認めるべきではないだろうか。
労働者が利用しやすい制度に変えていくべき
以上のように、生活保護では保有が認められる資産の範囲が非常に狭くなっており、ほとんど無資産の「身ぐるみ剝がされた」状態でないと受けられないという問題がある。
コロナに関連する休業や解雇・雇止めがあった際に、緊急避難として労働者が活用しやすくなるためには、保有できる資産の拡大が必要だろう。
すでに厚労省は自営業者等に関しては、「臨時又は不特定就労収入、自営収入等の減少により要保護状態となった場合」、「緊急事態措置期間経過後に収入が増加すると考えられる場合には、増収に向けた転職指導等は行わなくて差し支えない」とし、「自営に必要な店舗、機械器具類の資産」(自動車も含まれる)は保有を認めるよう指示している。
参考:緊急事態宣言でも飲食店経営者は諦めないで 店舗、器材をそのままに一時的な生活保護利用も可能(藤田孝則)
つまり、コロナ禍の間、自営業者は再起の準備をしたまま生活保護を受けられるということだ。こうした措置は極めて画期的であるが、同様の措置は労働者全般にも広げられるべきだろう。
「普通の労働者」が再起困難な貧困状態に陥ることなく、出入りしやすい制度に変更すれば、多くの人の生活を守ることができるし、福祉の不公平感の緩和にもつながるはずだ。
実際に、ヨーロッパでは平時から労働者が生活保護(公的扶助)を利用しやすいように、一定の資産の保有を認めている。例えば、ドイツでは1600ユーロ(約21万円)、イギリスでは16000ポンド(約234万円)の保有が認められ、フランスに至っては資産調査すらない。
コロナ禍が「普通の労働者」の生活を全面的に脅かしている今こそ、抜本的に制度設計を改める時ではないだろうか。
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