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赤木雅子さんの情報公開審査請求で裁判所と正反対の結論。審査会が財務省の決定を「取り消すべき」と答申

赤澤竜也作家 編集者
2021年6月、外国特派員協会で赤木俊夫さんの写真とともに会見する赤木雅子さん(写真:つのだよしお/アフロ)

行政文書が黒塗りだった場合のふたつの戦い方

情報公開制度は誰でも利用できる。

そして行政機関は持っている行政文書を原則として開示しなくてはならない。不開示となる対象は法律によって限定されている。

ところがお役所は自分たちにとって都合のわるい書類を出したがらない。シレっと真っ黒に塗りつぶしてくる。赤木雅子さんの場合に至っては財務省から「書類があるのか、ないのかすら言わない」という回答を寄越された。

国に対する情報公開請求において納得できない場合、文句を言う手段はふたつある。

ひとつは裁判所に対して不開示決定取消請求訴訟を起こすというもの。もうひとつは情報公開・個人情報保護審査会に対して審査請求を申し立てるという方法だ。

赤木雅子さんは同じ情報開示請求に対する不開示決定について、両方の手立てを同時並行で行った。

裁判所は2023年9月14日、原告の請求を棄却した。財務省が「書類があるのか、ないのかすら言わない」ことは法律で例外的に定められている要件を満たしているから、適法であると判示したのだった。

ところがである。

2024年3月29日、情報公開・個人情報保護審査会が出した答申には「書類があるのか、ないのか、明らかにして、もう一回開示決定すべき」と書かれていた。

まったく同じ求めに対し、裁判所と国の審査機関から正反対のふたつの結論が届いたのである。いったいどういうことなのだろうか。

検察に提出し、戻ってきた行政文書を開示して!

赤木雅子さんは2021年8月11日、「財務省と近畿財務局が学校法人森友学園に対する国有地売却問題に関して行われた刑事告発に関連して行われた任意捜査の際、東京地検または大阪地検に対して任意提出した一切の文書ないし準文書(任意提出した際の控えないしは各検察庁から還付されたものを含む)」という内容の行政文書開示請求を行った。

森友学園事件においては、豊中の国有地売却をめぐる背任や証拠隠滅、決裁文書の改ざんについて有印公文書変造・同行使、応接録の廃棄では公用文書毀棄という罪名で、38人の財務省・近畿財務局の職員らに対し、数多くの刑事告発が行われ、大阪地検特捜部において捜査が行われていた。その際、強制捜査はなされておらず、任意で書類の提出を求めたと報道されている。

結局、不起訴という結論になったので、役所に戻ってきた行政文書を開示してもらいたいというのが赤木さんの請求だった。

しかし、財務省・近畿財務局は同年10月11日、不開示と決定した。理由として「特定事件の捜査に関するものであり、その行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、特定事件における捜査機関の活動内容を明らかにしあるいは推知させることになるため」、法律に定められた「書類があるのか、ないのかすら言わない」不開示決定をしたのだと書かれていたのである。

一審の大阪地裁判決は国の言ったことを丸呑み

文書の開示を求めて起こした裁判の一審判決は、「捜査手法や対象の範囲、関心事項が推知されるおそれがないとはいえない」とし、裁量権の逸脱や乱用はないとした。審理において、国は「おそれ」について具体的な主張・立証を行わなかったのだが、裁判所は抽象的な「おそれ」についての国のロジックを追認した。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/d4f085da1f43c86bae10107fb9390efe0077eb66

赤木雅子さんは控訴し、現在大阪高裁において審理が行われている。控訴審において控訴人は長年、情報公開制度に携わっている三宅弘弁護士、森田明弁護士の意見書を証拠として提出。いずれも「書類があるのか、ないのかすら言わない」という処分は許されないことを、情報公開法の立法過程の議論や過去の情報公開・個人情報保護審査会の答申をもとに細かく論じている。

さらに元検察官で特捜部経験もある郷原信郎弁護士の意見書も追加。検察官としての実体験をふまえ、判決のなかで推論に推論を重ねたうえに導き出された「特定事件における捜査機関の活動内容を明らかにし、あるいは推知させることになる」可能性をことごとく否定した。

そのうえ赤木さん側は郷原信郎弁護士の証人尋問も申請。国が当事者照会に応じなかったため、鈴木俊一財務大臣と本件処分当時に近畿財務局長だった小宮敦史国際租税総括官の証人申請も行った。

6月14日に行われる口頭弁論期日において採否が決まるものと思われる。

法的拘束力のない答申。財務省はどう裁決するのか

情報公開・個人情報保護審査会の答申は先に述べたように、「財務省は不開示決定を取り消すべき」と結論づけた。

書類があるのかないのか言ったところで、犯罪の予防や捜査、刑の執行その他、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるとは言い切れないと判断したのである。

法に定められた国の機関が「もう1回やり直せ」と言っているのだから、財務省はすぐさま処分を打ち直すのだろうか。

ところが、そうすんなりと進むわけではないようだ。

筆者が森友学園事件に関する情報公開請求における不開示決定に対し審査請求を行い、「取り消すべき」という答申を得た後、財務省から届いた裁決書の謄本。通常、処分庁は情報公開・個人情報保護審査会の答申に従う
筆者が森友学園事件に関する情報公開請求における不開示決定に対し審査請求を行い、「取り消すべき」という答申を得た後、財務省から届いた裁決書の謄本。通常、処分庁は情報公開・個人情報保護審査会の答申に従う

なぜならこの答申には法的拘束力がないのである。総務省に置かれた第三者の機関において専門的な知見に基づいて作られた答申であっても、ごくたまにであるが、その内容に反する裁決が行われる。

森友学園事件に関する事案においては、赤木雅子さんの国家賠償請求訴訟での認諾のように、国は常識外れのことを平気でやってきた。

「原処分を取り消すべき」という審査会の答申に対する裁決は、通常60日に以内に行うことが望ましいとされている。財務省は正々堂々と森友学園事件関連の書類を開示するのか、それとも、またしても隠蔽の道を選択するのだろうか。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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