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弁護団は勝利を確信していた - 森友改ざん情報開示裁判で請求棄却判決。赤木雅子さんが法廷で倒れた理由

赤澤竜也作家 編集者
怒りに満ちた表情で会見に臨む赤木雅子さんの弁護団(大阪市内・筆者撮影)

自治体の情報公開審査会の会長を務める人物もいるなど、数々の情報開示訴訟を手がけてきた弁護団は、

「まず、勝てるだろう」

と踏んでいた。

前日の佐川宣寿元国税庁長官との控訴審では本人尋問を拒否されて結審してしまっただけに、原告である赤木雅子さんのこの裁判に賭ける想いはより強まっていた。

9月14日に大阪地裁202号法廷で行われた判決期日。

「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」

法廷内に怒号が飛び交い続け、裁判長の判決骨子読み上げが聞こえない。

原告側の席に座っていた赤木雅子さんが静かに崩れ落ちて松丸正弁護士の膝に倒れ込む。その背中を生越照幸弁護士がさすり続けるなか、朗読は続く。ヤジは最後まで止まらなかった。

森友学園事件はなんら事実が解明されておらず、そのなかでも財務省による公文書の改ざんは、誰が、いつ、どこでどのように改ざんの指示をしたのかがまったく明らかになっていない。

財務省は開示請求に対し、そのような対応を取ったのか。そしてその行為はなぜ許されるという判断になったのか。

開示請求の答えは「書類があるともないとも言えない」

2021年8月11日、赤木雅子さんは財務省と近畿財務局に対し、「森友学園問題で検察庁に任意提出された一切の文書」の開示請求を行った。

2ヵ月後に戻ってきた答えは「あるかないかも言えない」というもの。いわゆる「存否応答拒否」という回答だった。

情報公開法は、条件を満たした場合、そのような対応が可能であるとしている。

例えば公的な病院に対し、ある特定の人物のガン治療の医療記録の開示請求をしたとしよう。個人の病歴はプライバシーなので、もちろん開示できないのだが、不開示決定を行うと、その人にガンの病歴が存在することは請求者にわかってしまう。不存在と通知すると病歴がないことがわかる。このような場合には「あるかないかも言えない」という回答が許される。

赤木さんは自身のケースの場合、「存否応答拒否」ができないとして2021年10月29日、開示を求める訴訟を起こした。財務省や近畿財務局の幹部が刑事告発されて捜査を受け、不起訴処分となったことは広く報道されている。それを「あるかないかも言えない」とはおかしいだろうという主張だった。

国は将来の捜査に支障を及ぼす可能性があると言った

情報公開法によると行政文書は原則、公開されなくてはいけないことになっている。ただし、例外規定に該当する場合は不開示が認められる。

今回、問題になったのは例外規定を書いた情報公開法5条4号。そこには「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」とある。

国はこの条文をたてに、文書があるかないかを明らかにすると、森友学園事件の捜査手法や捜査対象の範囲といった捜査機関の手の内がわかってしまう。そして、将来発生するかもしれない同種の事件においてより犯罪手法を巧妙化させると主張した。

原告は森友学園事件の刑事手続はすべて終わっていると述べたうえ、赤木ファイルも提出されており、開示対象文書の存在が明らかになっている以上、存否応答拒否はできない。そもそも警察や検察に対するものではなく、財務省への行政文書の開示請求なのであるから、5条4号に該当するかどうかは判断できないはずだと主張した。

情報公開法はますます骨抜きにされていくのか

この裁判のなかで、裁判所は被告・国に対し、「捜査に対する支障は具体的に言うとどのようなものなのか」と、説明を求めたのだが、明確な回答はなく抽象的な内容にとどまった。

しかし判決は「存否を明らかにすることで捜査に支障を及ぼす可能性がないとは言えない」と国の主張をそのまま丸呑みしたもの。原告の主張が一切、認められなかったため、雅子さんは崩れ落ちたのだった。

「最初、ダメってわかった瞬間、夢じゃないのかなと思いました。なにか現実じゃないような気がして。傍聴席からのヤジは聞こえていたんです。でも裁判長って、たんたんと読むじゃないですか。その判決が国が言っていることと同じだとわかってきて、だんだん音が聞こえなくなり、意識が遠くなってきて……。松丸先生のズボンの生地の感触だけはかすかに覚えているんですけれども」

判決後の会見で松丸正弁護士は、

「民主主義の根幹というところから生まれた情報公開法なんですけれども、それに対する無理解が極まった判決だと感じました」

と語り、生越照幸弁護士は、

「公文書の改ざんといった公務員の犯罪行為を二度と起こさないために、検証材料を出させることこそ、犯罪を予防することになるはずなのに、判決を聞いていてちょっと信じられなかった。この裁判に負けたら、日本の民主主義は終わりですよ。権力の暴走を独立した裁判官が阻止するというのが、民主主義を守る司法の役割なんです。表現の自由、情報公開法、公文書管理法といった、民主主義を機能させる環境を司法が守らなくてはならないのに、逆方向に突き進んだ。司法の役割を放棄した判決です」

と批判した。

公文書は国民のもの。

そして情報公開法は開示を原則としている。

今回開示を求めたのは捜査機関が押収した文書ではなく、あくまでも財務省・近畿財務局が任意提出した、それも行政文書だった。

公文書改ざんという重大犯罪はどのようにして行われたのかを知るべく行われた今回の裁判。

国民の知る権利という憲法に定められた大原則は守られているのだろうか。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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