Yahoo!ニュース

御嶽山の噴火と事業仕分けの関係 ~事実が事実として伝わることの難しさ~

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

多数の死傷者が出ている御嶽山の噴火は、2010年の「火山観測事業」の事業仕分けでの勝間和代氏の発言などによって予算が削られたからだとする情報がネット上で流れ、雪崩を打つように拡散、ついでに事業仕分け批判も激しい。

事業仕分けを提唱してきた立場として、また、当時政府で事業仕分けを担当していた身として、「事実」が何だったのか当然関心がある。少し振り返ってみた。

まず、2010年6月に行われたのは事業仕分けではなく「行政事業レビュー」。これは、各府省自らが全ての事業について点検を行い、無駄のチェックを行うことで自浄作用を高めようという目的で2010年からスタートした。現政権でも継続されている。

そして、いくつかの事業については公開の場で外部の視点も入れながら点検しようというのが「公開プロセス」。先述の「火山観測事業」は、国交省の公開プロセスの対象事業として議論されたものだ。

この事業は当時何をしていたかというと、

・噴火が発生する前に緊急火山情報を発表することで国民の被害を最小限に防ぐことが目的。

・日本には108の活火山があり、そのうち34の火山は頻繁に活動しているため、見逃さない、情報の出し遅れがないよう24時間体制で観測データの収集・監視を実施。

・22年度内に34から47の火山に拡大。

・常時観測の危機も老朽化し高精度化が必要。

なお、気象庁のほかに大学などの研究機関が24の火山について、調査研究の目的で観測機器を設置している。また、活動度の高い火山については観測点は1点ではなく5点ほどの必要になる。

そして、御嶽山は、これまでから24時間常時監視の対象になっていた。

では、この時はどのような議論がなされたのか。

映像などを見ると、主な「論点」は以下の3点だったと整理される。

〇気象庁と大学の観測機器の相互利用の可能性

大学と気象庁では目的が異なるとしても類似の観測をすることは変わらないのだから相互利用の可能性はあるのではないかという議論。気象庁も、全く相容れないものではないと回答し、気象庁は警報の発出、大学は調査研究だが、最終的に目指すところは火山防災。両方の目的に叶う観測点がいくつかあるのでデータ交換を実施しているとの回答。

〇補正予算による予算の急増に対する懸念

予算額は平成19年度まで約2.8億円くらいで推移。20年度が8.6億円、21年度は40億円と急増。ともに補正予算によるもの。さらに、両年度とも年度中に執行できず繰り越しとなっていた。

なぜこれまでから整備してこなかったのか、いきなり47カ所にする必要があるのか、13を新規に整備すれば毎年度の維持管理コストも高くなるのではないか、なぜ使いきれなかったのか、本来は補正ではなく本予算で付けるべきではないか、といった指摘が出ていた。

気象庁の回答は、

・専門家による「火山活動評価検討委員会」で、常時監視34を47にすべきと決められたことが大きな要因。

・補正での増額は、国の厳しい財政状況では当初予算での整備は不可能との判断。20年度の補正は生活対策、21年度は防災安全対策という趣旨だったので、その中において本事業が緊急性を認められたもの。

・使い切れなかったのは、掘削する作業において想定外の状況があり作業が遅れたため。

・一気に整備すると更新期には同じようにコストが高くなるが、そこについては今後検討する。

〇観測機器に関する入札において、億単位であるにもかかわらず1社応札になっていることの疑念

国内、国外に技術を持っている企業が多数ある中で入札したのが1社しかないというのはおかしいのではないか、それによって価格が高止まりしているのではないか、という議論。

この点については、気象庁としても原因がわからないとの回答。

1時間ほどの議論であったが、評価者の多数決によるこの事業の結論は「抜本的改善」(正直、議論を聞いている中では「抜本」というほど現状が悪いとは思えなかったが)。

最後は、国交省の官房長がとりまとめをしたのだが、以下の発言があった(事業を執行する立場の官庁の官房長の発言であることに注目)。

・整備においては優先順位をつけて、後年度負担も考慮した上で計画的に行うべき。

・大学など他機関との連携情報共有化、調達方式の改善などによって予算の効率化を進めるべき

・火山観測の観測対象、水準について必要な検証を行う

この後、この事業の予算はどうなったか?

観測火山数は22年度中に47カ所に拡大。そして、23年度予算は2.6億円+前年度の繰越額2.2億円。24年度は5.2億円、25年度6.5億円、26年度7.1億円と増額されている。

整理すると、

・2010年の行政事業レビューの前から御嶽山は24時間連続監視の対象火山で、それが今に至るまで外されたことは一度もない。

(この議論とは関係ないが、一部出ている大学機関の強化から外れたのは2008年12月)

・21年度の補正の40億円は特殊だったわけで、この時の議論によって過去からの予算に比べて減っているわけではない。

となる。

ちなみに、冒頭に記載した勝間氏は議論の中で、

「24時間体制はどういう理由で必要か?」

「秋田焼山が300年で9回の小規模な水蒸気噴火という事実は24時間体制での監視をしなければならないだけの理由になるか?」

という発言をされていた。この点は24時間監視が一切いらないという趣旨ではなく非専門家にもわかるようにその根拠を説明してほしいという趣旨だったと、振り返ってみて感じる(私は行政事業レビューでは国交省の担当ではなかったため、勝間氏と面識はない。念のため)。

事実を知ることは意外に難しいし大変だ。自分で調べるよりは「回答」が用意されている方が楽だろう。しかし、背景のわからない回答を我が物顔で語ることはやはり恐ろしい。「人の振り見て我が振り直せ」としたい。

最後に、この議論を見ていて、気象庁の担当職員の高い意識での発言、真摯な回答であったと感じた。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

伊藤伸の最近の記事