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アンバー・ハード、「アメリカに住所がない」言い訳を諦め保険会社を逆訴訟

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 アンバー・ハードとふたつの保険会社をめぐる複雑な法廷争いが、さらに少しややこしくなった。ハードを訴訟している保険会社ニューヨーク・マリン&ジェネラルに対して、今度はハードが逆訴訟を起こしたのだ。

 一連の訴訟は、ジョニー・デップとの名誉毀損裁判でかかったハードの弁護士代をめぐるもの。ハードは、トラベラーズとニューヨーク・マリン&ジェネラルというふたつの会社の保険に加入している。どちらの保険も、被保険者が名誉毀損で訴えられた場合、弁護士代を支払うことを約束する。

 しかし、圧倒的に多い金額を支払うはめになったトラベラーズは、不公平だとニューヨーク・マリンを訴訟。すると、どの弁護士をハードに付けるのかの件でも揉めて不満を持っていたニューヨーク・マリンはトラベラーズを逆訴訟した。さらに、ハードが意図的にデップの名誉を毀損したとの判決が出た後、ニューヨーク・マリンは、カリフォルニア州の法律上、自分たちは何も支払う義務はないとハードを訴訟している。これら3つの訴訟は重なる部分が多いため、ひとつにまとめることになったのだが、そのスケジュールを決めようという段階になると、ハードは、「私はアメリカに住所がないので管轄外だ」との文書を提出して、逃げようとした。

 事実、ハードは、この夏、イスラエルやスペインなどで何度かパパラッチされており、海外で時間を過ごしているのは明らかではあった。2019年にカリフォルニア州ヤッカ・バレーに買ったばかりの家は、それらの旅行に出る前に売却している。

 だが、その言い訳はあまりに苦しい。まず、ハードはその文書でニューヨーク・マリンから訴訟された時にはもう家を売っていたと述べているが、それは嘘で、家を売ったのは訴訟された後だ。どちらにしても、それも関係はない。一時的に旅行しているからといって、旅行先が法定住所(domicile)になるわけではないからだ。所得税を払っていて、銀行口座もあるアメリカこそ、ハードの居住地である。持ち家を売ったから「管轄外」だなどと言ったら、家を持たず、友達の家を泊まり歩いたりしている人たちはみんなそうなってしまう。

「無条件で上限の金額を払うべき」と強気の逆訴訟

 だが、この見え見えの言い訳は、ただの時間稼ぎだったようだ。作戦を変え、ニューヨーク・マリンを逆訴訟するという手段に出たハードは、その訴状の中で、自分はカリフォルニアに住んでいるとあっさり認めているのである。カリフォルニア州で裁判を起こすのだから当然だが、つい最近、自分はホームレスならぬ「ステートレス」と言っていたのは何だったのか。

 それでも、彼女らしい苦しい反撃は健在だ。この逆訴訟で、ハードは、デップとの名誉毀損裁判で出た判決に納得しない自分は上訴をしているところであり、裁判はまだ終わっていないと主張している。従ってニューヨーク・マリンが自分を訴えるのは時期尚早だと、この訴訟自体を否定するのだ。また、ニューヨーク・マリンは、意図的にデップの名誉を毀損したことを理由に保険金を払わないと言ってきたが、強気なハードは「無条件で契約にある上限の金額を払うべきだ」と言い張っている。

 ハードとの契約にあるニューヨーク・マリンの支払い上限金額は100万ドル。トラベラーズの支払い上限は50万ドルだが、奇妙なことに、トラベラーズはその上限を無視してハードのサポートを続けている。デップとの名誉毀損裁判にかかった弁護士代は、裁判が始まった段階で600万ドルにも達していた。それでトラベラーズはニューヨーク・マリンにももっと出してほしいと訴訟を起こしたわけだ。そんな状況にあっても、トラベラーズはどうやら上訴にかかる弁護士代も払うようである。

次の仕事は何も入っていない

 だが、この保険会社との訴訟に関しての弁護士代はどこから出ているのか。こちらもばかにならないはずだ。デップとの名誉毀損裁判以後、ハードには新しい仕事が何も入っていない。ハードの最近作は、2020年12月に配信されたドラマ「The Stand」。来年12月に公開が延期された「Aquaman and the Lost Kingdom」は、昨年のうちに撮り終えている。やはり公開を控える「In the Fire」は、ハードが何年も前からかかわっていたインディーズ映画で、裁判開始の少し前に撮り終わったが、公開は決まっていない。

 ハードが「Aquaman and the Lost Kingdom」でもらったギャラは200万ドル。デップとの離婚でもらった700万ドルは、寄付すると宣言したものの、ほぼ全部をキープした。57万ドルで購入したヤッカ・バレーの家は、およそ倍の110万ドルで売れたようだ。

 しかし、裁判の判決で、ハードは、デップに1,035万ドルの支払いを言い渡されている。デップが本気で取り立てに来ることはないだろうが、彼女の置かれた状況が非常に厳しいのは否定できない。まだまだ裁判の泥沼にいるハードは、どう乗り切っていくのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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