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一国二制度「連邦制統一国家」朝鮮?――半島問題は朝鮮民族が解決する

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
金正恩委員長は何を狙っているのか?(写真は2017年の太陽節の閲兵式で)(写真:ロイター/アフロ)

 今年元旦に金正恩委員長が「半島問題は朝鮮民族が解決する」と宣言したのは、南北朝鮮民族による一国二制度「連邦制統一国家」建国を示唆しているのではないのか。北朝鮮のもくろみと韓国の思惑、そして米中は?

◆中朝双方とも非核化は「朝鮮半島」を対象

 今年元旦、金正恩委員長は「朝鮮半島問題は朝鮮民族が解決する」と宣言して、南北融和政策が始まった。一方では「日米は100年の宿敵、中国は1000年の宿敵」と盛んに書き立てながら、その「1000年の宿敵」である中国を電撃訪問し習近平国家主席と握手した。

 習近平は「過去にはいろいろあったが、変化するものである」として、水に流す意図を表明している。それは「朝鮮戦争で最大の敵国であった韓国と国交を樹立し、中韓経済交流を推進している中国」を1000年の宿敵と位置付けながら、結局は自分自身もその韓国と手を結び、南北融和を図っていくことに対する「挨拶」ではあった。

 しかし、南北融和の程度は、ただ単に「喧嘩をせずに仲良くやっていく」というレベルの話ではなく、中国と香港のような「一国二制度」形式による「南北朝鮮の統一国家」を建国していくことを目指しているのではないかと思われるのである。

 金正恩が非核化を論じるときに、必ずその前に「朝鮮半島の」という限定語が付いており、決して「北朝鮮の非核化」などという言葉は使わない。

 そして習近平もまた非核化を論じるに当たり、決して「北朝鮮の」という限定語は使用していないのである。

 中国にとっての中朝首脳会談のメリットは、もちろん中国が一貫して主張してきた「双暫停(中朝双方が暫定的に軍事行動を停止し、対話のテーブルに着け)」戦略に北朝鮮が従ったことではある。なぜなら中国は朝鮮半島で戦争が再発してほしくない。中国の軍事力はアメリカには遥かに及ばないので戦争となれば中国が劣勢になり、それは中国の一党支配体制維持を破壊するからだ。

 しかし、もし南北が対話に入り、トウ小平が唱えてきた「一国二制度」体制に入ってくれたとすれば、「双暫停」とは比較にならないほどのメリットがある。

 それは「朝鮮半島の非核化」につながり、在韓米軍は半島から撤退せざるを得ないところに追い込まれるからである。

 その一方、中国籍朝鮮族の独立がきっかけとなり、中国の少数民族独立を刺激し、中国の一党支配体制を崩壊させる危険性も孕んでいる。それも頭に入れながら、北朝鮮がこれまで提案してきた「連邦制統一国家構想」とその時の国際情勢を考察してみよう。

◆朝鮮半島「連邦制統一国家」の構想

 1950年6月に朝鮮戦争が勃発したのは、あくまでも北朝鮮の金日成(キム・イルソン)(当時、首相)が朝鮮半島を統一しようとしたからだ(この詳細な経緯は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』第3章に)。以来、北朝鮮が南北を統一しようと思わなかったことはない。これ自身は基本だ。

 問題は、いかなる形で「統一国家」を構想するかである。

 それをいくつかの段階に分けて復習してみよう。

1.第1回統一案:1960年8月

  北朝鮮が最初に「連邦制統一案」を提案したのは1960年8月のことで、これこそはトウ小平が「中華民国」に対して提案した形と同じ「一国二制度」案だ。中華民国が拒否したので、そのモデルをイギリスのサッチャー(首相)に提案して、長い期間にわたる論議を経て、香港およびマカオの中国返還を達成した。その構想は「南北の政治体制を一定期間そのままにして、南北の政府代表から成る南北連邦制を構成する」というものだった。

 これはちょうど、朝鮮戦争時の李承晩政権が崩壊した時期と一致している。李承晩(大統領)はあくまでも韓国が朝鮮半島を統一すると主張して、朝鮮戦争の休戦協定にも反対し、結果、休戦協定と同時に米韓軍事同盟を締結して在韓米軍の駐留を招いている。

2.第2回統一案:1972年9月

 第2回目の「連邦制統一案」を北朝鮮が提案したのは1972年9月である。そのきっかけとなったのは、キッシンジャー(元米国務長官)の忍者外交により1972年2月に当時のニクソン大統領が訪中し、朝鮮戦争の敵国であった米中が握手したことだった。

 これは「北朝鮮のために戦った中国」と「韓国のために戦ったアメリカ」が和解したことを意味するので、それなら南北和解もあってもいいかもしれないという要素は一つある。

 しかし、ここで忘れてならないのは、このとき中ソ対立が激しく、北朝鮮はそれを利用して、専らソ連からの経済および技術援助を得ていたということだ。その意味で北朝鮮は米中和解から疎外されることになるので、米ソ対立という冷戦構造の中にあって、北朝鮮は孤立を恐れて「連邦制統一案」を提案したという事情がある。

3.第3回統一案:1980年10月

 1980年10月に開催された第6回朝鮮労働党大会において、「高麗連邦制案」を提案した。これは韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領の父親である朴正熙(パク・チョンヒ)大統領が1979年10月に暗殺されたことがきっかけとなっている。この時期の韓国の混乱を利用して、北朝鮮は「高麗民主連邦共和国」の建国を提案した。

以上のどの場合においても、韓国側もまた別途、統一方案を提起している。

4.1987年に提案されていた機密文書

 3月30日付のコラム「中朝首脳会談から見る非核化問題――機密解除された外交文書から」で触れたように、1987年12月にワシントンのホワイトハウスで開かれた米ソ首脳会談の際、当時のソ連のゴルバチョフ書記長が北朝鮮の依頼を受けてレーガン米大統領に文書を渡していた。そこに描かれているのは、「中立」を軸に据えた連邦制統一方案だ。つまり、「南北が第三国と締結した民族の団結に反するあらゆる協定・条約を破棄する」ことが書かれており、これらから、北朝鮮が言うところの「朝鮮半島の非核化」は「米中両大国からの中立」を意味していることになる。

◆中国はどう見ているのか

 問題は中国は、この「一国二制度」的な「連邦制統一国家構想」をどう見ているかである。

 まずメリット。

 言うまでもなく在韓米軍が撤退せざるを得なくなるので、そこは大歓迎だ。付設しているレーダーが中国の東北一帯の軍備配置を一望できるTHAAD(サード)の韓国配備もなくなる。大いに結構だと思うだろう。

 もう一つ中国にとってのメリットは、朝鮮半島から「核」がなくなれば、中国の北からの核ミサイル脅威は完全に消えるだけでなく、アメリカが明確にはしていない(撤退させたと言っている)韓国にあるかもしれない核兵器に対しても警戒しなくて済むようになる。

 南北朝鮮との経済交流も何ら制限を受けることがないようになれば、中国にとって、こんなありがたいことはない。北朝鮮に眠る豊富なレアメタルなどの地下資源、それから中国の東北一帯の改革開放を滞らせてしまった「海への連結」も、北朝鮮の港を使うことにより改善される。

 ともかくアメリカによる北朝鮮への先制攻撃が無くなれば、中国は戦争に巻き込まれなくてすむので、一党支配体制維持には好都合だ。

 だから朝鮮半島に「異なる政治体制を併存させたままの一国二制度的な、朝鮮族による統一国家ができること」には賛成ではある。

 しかし、何度も書いてきたように、朝鮮民族による統一国家ができ上がれば、隣接する中国吉林省朝鮮族延辺自治州にいる中国籍朝鮮族の心は穏やかではないだろう。民族への郷愁、祖国への思いは、どの時代、どの場所においても変わらないものだ。彼らが祖国や民族へのノスタルジーから延辺自治州を離れれば、中国における少数民族の独立を刺激する危険性を孕んである。それは一党支配体制崩壊への引き金となりかねないのである。

◆阻害因子は、むしろ米中

 したがって中国はこの点において、まだ曖昧模糊とさせながら、中朝友好の顔を金正恩に見せるにとどめている。

 アメリカとなったら、さらに複雑で厳しいものがあるだろう。

 どんなに金正恩が連邦制統一国家構想に向けて、非核化を「段階的に実現していく」と言っても、トランプ大統領が認めない可能性がある。基本、誰も信じないというのが一般的な反応だろう。

 つまり、南北が和解して朝鮮民族だけによる統一国家を建国していこうとしても、米中の利害が最後に阻害容認になる可能性を孕んでいるわけだ。

 北朝鮮としては、少なくとも中国の承認は得たいだろうが、中朝首脳会談ではそこまでは踏み込んでいない。

 ただ、北朝鮮が中国に南北和解のご挨拶と、習近平が新型大国関係などと言って最大の敵国アメリカと緊密になろうとしていたそのアメリカの大統領と首脳会談しますよと「ご挨拶」に行ったのと、「私の背後には中国がいる」とアメリカに見せつけるという初期段階までの接触しかしていない。

 これからの正念場は、まずは南北首脳会談だ。第1回および第2回南北首脳会談における共同声明というかコンセンサスが基本になるだろうが、そのいずれにも南北それぞれの「連邦制統一国家」構想が込められている。

 長くなった。今回はここまでとする。

 今回もまた騙されるのか? 考察は今後も継続していきたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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