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中朝首脳会談から見る非核化問題――機密解除された外交文書から

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中朝首脳会談における金正恩委員長と習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 中朝首脳会談の中で最も注目されるのは北朝鮮の非核化問題だ。習近平と金正恩の非核化に関する発言と中朝両国における報道、および30日に機密解除された外交文書から読み解く(李英和教授のご協力を得た)。

◆習近平と金正恩の発言と報道

 26日に北京の人民大会堂で行なわれた習近平国家主席と金正恩委員長との間の中朝首脳会談で、北朝鮮の非核化問題に関して、両者がどのように発言したのかを、断片的だが先ず拾ってみよう(敬称略)。

金正恩:

「金日成(キム・イルソン)主席と金正日(キム・ジョンイル)総書記の遺訓に基づき、半島の非核化の実現に尽力することは、われわれの終始変わらぬ立場である」

「南朝鮮(韓国)とアメリカが、われわれの努力に善意で応じ、平和的かつ安定的な雰囲気を作り、和平実現のために歩調を合わせた措置を講じるならば、半島の非核化の問題は解決されうる」

習近平:

 「朝鮮半島情勢に前向きな変化がある。北朝鮮は大きな努力を払っている」

 「我々は非核化の目標と対話による解決を堅持している」

 金正恩の「南朝鮮とアメリカが、われわれの努力に善意で応じ、平和的かつ安定的な雰囲気を作り、和平実現のために歩調を合わせた措置を講じるならば、半島の非核化の問題は解決されうる」という発言は、「もしアメリカが圧力路線から転換するならば」という条件を前提としているものと解釈することができる。そうであるならば、朝鮮半島の非核化問題は解決できると、金正恩は考えていることになろうか。

 中国の中央テレビCCTVは、習近平が金正恩の「朝鮮半島の非核化に向けた努力を表明したことを高く評価した」と述べている。中国は早くから朝鮮半島の非核化を主張しており、特に北朝鮮の核開発に関しては、断固反対であることを表明してきた。自国の利益を守りたいなら、核やミサイルを放棄して、改革開放に着手せよというのが中国の主張だ。

 一方、報道の仕方を見るならば、北朝鮮の朝鮮中央通信は直接非核化については触れていないのが特徴だ。

◆3月30日に公開された機密外交文書が語るものは?

 では北朝鮮は実際問題として、非核化に関してどうするつもりなのだろうか?

 3月30日、関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授から連絡があった。韓国の聯合ニュースが、1987年の外交文書が機密解除され、本日公開したことを伝えたとのこと。

 それによれば、北朝鮮がアメリカに「韓国と連邦制中立国を創設したい」という意向を示していたとのこと。つまり北朝鮮は1987年に、「韓国との連邦制統一を経て中立国を創設するという提案を米ソ首脳会談に出席したソ連首脳を介して米国に密かに伝えていた」というのだ。30年以上たったことから、その機密文書が解除された。

 以下、李英和教授が教えてくれた聯合ニュースに書かれている概要である。

 ――韓国外交部は30日、87年12月にワシントンのホワイトハウスで開かれた米ソ首脳会談の際、ソ連のゴルバチョフ書記長が北朝鮮の依頼を受けてレーガン米大統領に渡した文書には

▼南北それぞれ10万人未満の兵力維持および核兵器を含めたあらゆる外国軍隊の撤退

▼南北が署名する不可侵宣言

▼休戦協定を平和協定で代替

▼南北の軍を「民族軍」に統合

▼南北が第三国と締結した民族の団結に反するあらゆる協定・条約の破棄

▼南北で構成された連邦共和国の創設および共和国が中立国・緩衝地帯であることを宣言する憲法採択

▼連邦共和国の単一国号での国連加盟

など、北朝鮮の提案が盛り込まれていた(以上、聯合ニュースからの引用)。

◆北朝鮮が描く朝鮮半島非核化と統一構想

 李英和教授の解説によれば、

   ●核兵器を含む全ての外国軍隊の撤廃

   ●米韓と中朝の安全保障条約の破棄

   ●中立国・緩衝地帯の宣言

などが北朝鮮の長期構想で、核武装中立にしても非核化中立にしても、北朝鮮は「米中両大国からの中立」を模索しているという。

 だとすれば、北朝鮮が平昌冬季五輪参加に際して宣言した「朝鮮半島の問題は朝鮮民族によって解決する」という言葉は、文字通り南北が「連邦制統一国家」を創立するという巨大構想を頭に描いてのことだと解釈することができるということになるのだろうか。

 その上での「朝鮮半島の非核化」であるならば、これは東北アジアに対してだけでなく、世界全体に対して巨大な地殻変動をもたらすことになる。

 そのようなことが本当に起き得るのだろうか?

 まだ筆者には、この巨大構想を十分に咀嚼あるいは分析するだけの情報と知識が足りない。

 反省しつつ、考察を深めたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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