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フワちゃんのSNS投稿で再認識する言葉の痛み。長年向き合ってきた当事者がつかみ取ったそれぞれの答え

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

パリ五輪での阿部詩選手への誹謗中傷の波紋が広がっていた中、新たにフワちゃんのSNS投稿をめぐる騒動が起きました。

自らの書き込みが炎上していることを受け、フワちゃんが4日深夜に自身のXで「今ここで皆さんに報告することではないのですが、言っちゃいけないこと言って、傷つけてしまいました。ご本人に直接謝ります」と投稿。

さらに、そこに呼応する形でフワちゃんがパーソナリティーを務めるニッポン放送「フワちゃんのオールナイトニッポン0」の公式Xが投稿され「SNSにてパーソナリティによる不適切な投稿が確認できたため、休止致します」と5日深夜放送予定の番組が放送見送りになりました。

普段から年上のタレントさんにもタメ口で話しかけていく“不躾キャラ”ではあるが、だからこそ実はしっかりしている。ヒールのプロレスラーほどプライベートでは紳士。まじめだからこそ悪役を全うできる。

そういう世間の共通認識がかなりの割合あるからこそ、そこの逆をいくような行動に、より強い向かい風が吹いた。その要素があることは間違いないと思います。

人前に出て目立つ何かをする。それが芸能人の仕事です。多くの人に見てもらってナンボの仕事でもありますし、そうなると、いろいろな思いを持つ人がいるのも当然です。

その思いをSNSに書き込む。意見や批評ならまだしも、誹謗中傷を投げつける。日常的にそれが行われる中、いかにタレントを守るのか。近年、これは芸能事務所の枠を超えて大きな課題になっています。

日々、あらゆるタレントさんに取材をする中でも、実際に言葉の刃に傷つけられたお話を多々うかがいます。

そことどう向き合うのか。もがきながら、苦しみながら、明日を生きるために答えらしきものをつかみ取る。そんな戦いを多くの方がされています。

今年6月、お笑コンビ「にゃんこスター」のアンゴラ村長さんにお話を聞いた際の取材メモを振り返ります。

コンビを結成してすぐに「キングオブコント」で多くの方に見ていただき、そこから露出が減っていく中で、いろいろな言葉を浴びることに戸惑って、そこに書いてある意見が全てなんじゃないかと思いこんだこともありました。

携帯電話のメモ画面いっぱいに私のダメなところを書いて、何枚もスクリーンショットで撮って投稿してくる。それだけの労力を使って、そういうことを書くなんてよっぽど私が嫌われているのかと自分を追い込んでもいきました。

そうなると、道ですれ違う人もみんな私のことを嫌っているんじゃないか。「アンゴラ村長なんかと会っちゃった」と思っているんじゃないか。常にそういう思いになっていきました。

ただ、そこから年月が経つ中で、実際に街で会ってこちらに気づいてくださった方はうれしそうにしてくださる。となると、いろいろなことを言ってくる人はネットの中にしかいないんじゃないか。そして、意外と少ないんじゃないか。それを体感として感じる中で、少しずつ思いが変わっていきました。

そして、いつしか「自信をつけて突っぱねる」という思いに至りました。面白いネタを作り続ける。ライブをする。文章投稿アプリで思いを書きためていく。そうやって胸を張れる自分でいる。自信をつければ違う時間が始まる。そう思うようになったんです。

文字にすると、スッと進んで、スッとたどり着く結論です。ただ、お話を聞いていても、そこに至るまで、どれだけの葛藤があったか。苦しみがあったか。でも、その中でつかみ取ったものも確実にあった。これだけが正解ということはない話だとは思いますが、一つの実例として「自信をつけて突っぱねる」。この言葉には凄まじい重みがありました。

2021年10月、中川翔子さんにお話をうかがった際には以下のようなことをおっしゃっていました。

SNSでいっぱい傷ついたし、辞めようとも思ったし、なんでここまで言われなきゃいけないんだということもたくさんありました。

一方で、自分が本当に好きなアニメのことやゲームのことを綴ったら、そこに新しい道ができることも経験しました。SNSのおかげで分かってもらえる。今の自分が生かされている。それも体感しました。

その中で思ったのが、SNSの言葉って電子の海に漂いながら、その人がそこに込めた思いがお灸みたいにじんわりと燃え続けるんだなということだったんです。

ポジティブな言葉はポジティブな熱を持って燃え続ける。誰かを攻撃するような言葉はそういう熱を持って燃え続ける。

私にとってSNSは生きた証だと考えています。自分が死んだ時に「こんな呪いの言葉を人が見たら『うわ、キモっ!』と感じるだろうな」と思うことは書かない。前向きなことだけを残す。そうするようになっていきました。

心底苦しんで、心底迷って、心底考えないとたどり着かない言葉ばかりでした。それだけ言葉の刃はきつい。改めて、それも感じました。

言葉の刃は看過できない。ここの共通認識も世の中に形成されている中で、今回の件はタレントがタレントに言葉を投げつける。その悪い意味での意外性も、余波が広がっている要因になっているのだと考えます。

フワちゃんがポストした内容は「好みの問題」「様々な見解がある領域」を超えて、どの角度から見ても「これはダメ」と言わざるをえない内容だと思います。

ただ「こいつは悪いことをした人間だから、どれだけ石を投げつけてもいい」。その衝動に駆られて、フワちゃんに徹底的に言葉の刃を向ける。

それは手軽にできる「やったった感」ゲット法かもしれませんが、何の解決策にもなっていない。強くそう思います。そして、それを「やったった」ところで、良い明日は来ない。それも強く思います。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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