コロナ禍でも黒字!? 「アパホテル」の凄さと課題
コロナ禍の黒字確保
アパグループが2020年11月期連結決算を発表した。グループ連結売上高904億円(前期比34.1%減)、経常利益10億円(前期比97.0%減)という内容で、前期対比大幅な減収減益という結果になった。コロナ禍の影響であることは周知の事実で、訪日外国人客の激減に加え昨年4月の緊急事態宣言発出も業績に影響を与えた。
<比較損益計算書>(単位:百万円)
売上高 2019年11月期137,156 2020年11月期90,432 前期比-34.1%
営業利益 2019年11月期35,979 2020年11月期2,044 前期比-94.3%
経常利益 2019年11月期33,547 2020年11月期1,009 前期比-97.0%
当期純利益 2019年11月期21,193 2020年11月期949 前期比-95.5%
(アパホテル公式リリースより)
一方で、自社サイトへの誘導などコスト削減の効果もあり、詳細な内容については分析が必要であるが、厳しい経営環境ながら純損益では9億4,900万円の黒字を確保した。コロナ禍におけるホテル企業の業績としては注目すべき内容であろう。これら数字の専門的な評価については、経済専門誌や財務、不動産に関する専門家の分析に任せるとして、筆者はホテル評論家という立場から(政治的な部分や労働など社会的問題なども除き)アパホテルのホテルそのものにフィーチャーして考察したいと思う。
アパホテルはビジネスホテルか?
アパホテルは認知度の高いホテルブランドであることは多くの人が認めるところであろう。アパホテルネットワークとしては、全国最大の662ホテル102,393室※(海外、FC、パートナーホテルを含む)を展開、年間宿泊数は約2,613万名(2019年11月期末実績)に上る。※建築・設計中含む
ところで、アパホテル=ビジネスホテルなのだろうか。ここ数年ホテルのカテゴリーは多様化しきた。よく知られた区分としてシティホテル/ビジネスホテルは馴染み深い。これはフルサービス型ホテル/リミテッドサービス型ホテルとも換言できる。すなわち、宿泊機能以外にも料飲・バンケットをはじめ多彩なサービスを提供するのがフルサービス型ホテルといわれる一方、法律上の要請で食事をするスペースはあるものの、宿泊に特化したリミテッドサービスは宿泊特化型ホテル(INN)といわれ、日本ではビジネスホテルという呼称で親しまれている。
こうした定義を当てはめると、アパホテルはビジネスホテルというイメージを持つ人も多いだろうが、最近では「アパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉」などのように、宿泊ばかりではなくレストラン、大宴会場、プールなど設けるアパホテルもあり、アパホテル=ビジネスホテルという図式は店舗によりケースバイケースというのが正確であろう。
ベッドへの先見性
ホテルにとってベッドは要であるが、アパホテルは快眠追求という点において特筆すべきホテルブランドだ。高級ホテルでは以前から御用達だったデュベスタイルのベッドメイクだが、最近ではビジネスホテルでもスタンダード化しつつある。一方、いまのような多彩なビジネスホテルチェーンが台頭するかなり前から、アパホテルでは他チェーンに先んじてデュベスタイルを導入していた。
また、ベッドそのものについても注目すべき点がある。外資系などのラグジュアリーホテルブランドでは、メーカーと共同開発したオリジナルマットレスを見かけることがある。ベッドにはホテルのブランドコンセプトがあらわれるといっても過言ではないだろう。一方、宿泊主体型ホテルにしてオリジナルベッドというのは、いまだ数えるほどしかみられない。これについてもアパホテルは、他の宿泊特化型チェーンに先んじてオリジナルベッド「Cloud fit(クラウドフィット)」を開発し大規模な導入を進めてきた。
狭い客室と大型テレビ
最近の宿泊特化型タイプのホテルでは、低価格化も進んでいることから大型テレビの積極的な導入が見られる。一方、アパホテルではかなり前から40インチ超といった大型テレビを採用、最近ではさらに大型化が進んでいる印象すらある。筆者の中では先述のデュベスタイルと並び、アパホテル=大型テレビというイメージを持ってきた。
ところで、アパホテルはビジネスホテルかという点について前述したが、ビジネスホテルというイメージが強いのはその客室面積によるところが大きいだろう。かなり前から多くのアパホテルを利用してきた筆者であるが、アパホテルといえば、当時の旅館業法最低ラインである9平方mという客室が多く、やはり狭い面積というイメージを持ってきた。最近の店舗では11平方mが一般的だが、これでも他のビジネスホテルチェーンと比較すると狭い。
一方で、ここから先は筆者の感覚という部分で恐縮であるが、先述したデュベスタイルのベッドメイクでいえば、柄物カバーより真っ白なデュベカバーは客室を広く見せる効果があると感じている。また、狭い客室に大型テレビは狭く見える印象を持つが、白い客室の白いベッドカバーの奥に存在する黒い大型テレビは、狭い客室にあって客室に奥行き感をもたらすことをアパホテルへ出向く度に感じている。デュベスタイルや大型テレビは客室を視覚的に広く見せる効用があるのだろうか。
また、アパホテルが以前から取り組んできたことのひとつに大浴場がある。一定規模以上の施設で設置されるとのことであるが、これも今では新しいビジネスホテルでよく見られるようになったところ、大浴場ブームへの先見性として評価できる。いずれにしても、デュベスタイルにしても大型テレビにしても、いまとなっては多くのビジネスホテルでブームになっていることを先んじて導入してきた先見性という点が評価できるホテルブランドといえよう。
拡大とハードそしてブランディング
アパホテルのホテルそのものについて先見性という点から考察してみたが、ホテルブランドという点では評価が大きく分かれる。「アパホテルの大ファン」「アパホテルだけは泊まらない」という両者の声はよく耳にする。これはとかく注目されるという有名性ゆえであるが、有名であることでポジティブな面はもとよりネガティブな面でも大きなニュースになってきた。
ところで、東京に住んでいる筆者からするとアパホテル=豪華なロビーのピカピカホテルというイメージがある。アパホテルでは2010年4月にスタートした「SUMMIT 5(頂上戦略)」で、東京都心でトップを取る戦略を開始した。23区内に新規集中出店、あちらこちらにある出来たてのアパホテルはかなりの存在感だ。
一方、地方都市へ旅をしてアパホテルをみると都心でみかけるようなイメージとは異なるケースがある。特に従前別のホテルだった建物をアパホテルにしたようなリブランド物件では、看板のチェンジや客室やロビーのリニューアルは行うものの建物全体の経年感は隠せないものである。
アパホテルでは長らく目標10万室を掲げてきた。提携店舗も含むアパホテルネットワークとして10万室は達成されたが、こうしたリブランド物件も多く含まれる。拡大とブランディングのジレンマはアパホテルに限らずホテルチェーン化の課題であるが、人によっては都心のピカピカアパホテルのイメージで出向くとガッカリすることがあるかもしれない。
さらにアパホテルでは2025年3月末までに15万室の展開を目指しているが、拡大とハードのクオリティ均一化はテーマと言えよう。また、新規大量出店とはいえ、その建物も時間の経過と共に古いハードになっていく。ゲスト目線からの快適性という点からも、拡大するほどに新たに誕生する店舗と既存店舗のイメージ格差は広がる。そうしたハードとブランディングの均一感は巨大ホテルチェーンにとって永遠のテーマともいえる。
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少々長くなってしまったが、アパホテルのホテルそのものについて様々な面から考察してみた。一般論としてゲスト目線という観点と利益至上主義は相対することは言わずもがな。その調和や落とし所については今後も注視していきたい。また、ここでは触れていないが「アパ社長カレー」のヒットなどホテルブランドに端を発した多彩な展開を見せているが、いずれにしても、バブル崩壊後の日本のホテル業界では真似できない戦略を次々と打ち出しているホテルブランドであることは間違いない。
※文中の筆者撮影掲載写真は出向いた当時に撮影したものです