「極右の毒が深刻な脅威に」「荒らしに餌を与えるな」マスク氏の介入、英独首相ら欧州指導者が相次ぎ反発
「極右の毒が深刻な脅威に」「荒らしに餌を与えるな」――イーロン・マスク氏による介入に、欧州指導者が相次ぎ反発を強めている。
年明けから主戦場になっているのは英国だ。キア・スターマー首相は、名指しで「投獄せよ」と攻撃を強めるマスク氏を念頭に、「嘘や誤情報を拡散している」と反論。
ドイツのオラフ・ショルツ首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領らも次々に懸念を表明した。
間もなく発足するトランプ次期政権での最側近としての存在感と、世界トップの富豪としての財力、そしてXのオーナー、世界最高レベルのインフルエンサーとしての存在感。
それらを背景に、マスク氏の言動には、歯止めが効かなくなっているようだ。
●「嘘や誤情報を拡散する人々」
CNNなどによると、スターマー英首相は1月6日、記者団にそう述べたという。
スターマー氏は固有名詞に言及しなかったが、マスク氏による一連の攻撃への反論と、各メディアの報道は一致する。
「スターマーを投獄せよ」「スターマーは票と引き換えに集団レイプに深く加担した」などと、マスク氏は繰り返し、スターマー氏攻撃のX投稿を行っている。
標的はスターマー氏だけではない。被害者保護担当政務次官、ジェス・フィリップス氏に対しても、「投獄を」と主張し続けている。
マスク氏がこだわっているのは、英国で2010年代に問題化した、女児に対する大規模な性的虐待事件「グルーミング・ギャング」を巡るスターマー政権の対応のようだ。
この事件に関しては2022年、英ストラスクライド大学客員教授、アレクシス・ジェイ氏が主導し、イングランドとウェールズの15地区について7年がかり、1億8.700万ポンド(約370億円)の費用をかけて468ページに上る報告書をまとめている。
発端は1月1日、事件の舞台の1つ、マンチェスター近郊のオールダムによる調査要請を担当政務次官のフィリップス氏が「拒否した」との保守系メディア「GBニュース」の投稿を、保守党の元首相、リズ・トラス氏が共有したこと。これにマスク氏が「投獄に値する」と反応した。
スターマー氏は「グルーミング・ギャング」事件の表面化と重なる2008年から2013年にかけて、王立検察局の検察局長を務めていた。そのことも、マスク氏の攻撃の標的となっている。
マスク氏は一時、「米国は英国の専制政府から国民を解放すべきか?」とのアンケートを自身のXプロフィールページのトップに固定し、ボルテージを上げた(*その結果、「イエス」が58%、「ノー」が42%だったとしている)。
マスク氏の矛先は、支援を表明したはずの「リフォームUK」のファラージ氏にも向き、「党首の資格なし」と攻撃した。マスク氏が支持し、法廷侮辱罪で服役中の英極右活動家、トミー・ロビンソン(本名スティーブン・ヤクスリー・レノン)氏に対し、ファラージ氏が距離を置いていることが、決裂のきっかけのようだ。
●「侮辱より憂慮すべきこと」
ドイツのショルツ首相は1月7日付の独メディア「シュテルン」のインタビューで、そう述べている。
マスク氏の「侮辱的な言葉」はストレートだ。ショルツ氏の3党連立政権が崩壊した2024年11月、マスク氏は「オラフは愚かだ」とドイツ語でXに投稿している。フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領に対しても、「反民主主義的な暴君」と述べている。
ドイツでは、3党連立崩壊を受けて、2025年2月23日に総選挙を予定している。
その中でマスク氏は、移民排斥などを掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支援を表明し、「ドイツを救えるのはAfDだけだ」と投稿。さらにアクセル・シュプリンガー傘下のドイツ紙「ウェルト」日曜版にAfD支持の意見広告を掲載し、これに抗議して同紙のオピニオン編集長が辞任を表明する事態となっていた。
●フランス、ノルウェーも
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は1月6日、外交政策を巡る演説の中で、そう述べたという。
ノルウェーのヨナス・ガール・ストーレ首相も同日、公共放送「NRK」のインタビューで、懸念を表明した。
●タガが外れた事態
ブルームバーグは1月6日付で、英労働党、保守党、リフォームUKの関係者が、トランプ新政権側にマスク氏の言動について警告をした、と報じている。
もはやマスク氏の奔放な振る舞いに、改めて驚きを感じる人々はそう多くはないかもしれない。
しかし、トランプ氏の当選以降、それは「暴走」と呼ぶべきものになりつつある。
民主主義社会はルールや「歯止め」によって、「暴走」に対処してきた。そのタガが外れたような事態が続く。
ドイツのショルツ氏は、「シュテルン」のインタビューで、こうも述べている。
そのようなルールは聞いたことがある。しかし、それだけでは「暴走」は収まりそうにない。
(※2025年1月8日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)