世界に例を見ない取り組み 政府の事業のデータベース化
11月末、日本の財政、行政そして政治を大きく変える可能性のあることが内閣から発表された。
主要紙は解散一色で、大臣が発表したにもかかわらず記事にはならなかったようだ。内容自体は大変実務的なことなので、記者にはその意義が分からないのだろう。
それは、政府が行っている事業、予算のデータベース化だ。
行政事業レビューシートとは何か
民主党政権の事業仕分けを引き継いで、現政府は「行政事業レビュー」を行っている。その基礎資料として、政府が行っている約5,000の事業について、「行政事業レビューシート(通称レビューシート)」を毎年秋に発表している。
これはA4数枚のフォーマット化されたシートに、事業の目的、概要、予算額、担当者名、予算の使途、支出先の企業上位10社、成果実績などが記入されたものだ。これだけでもずい分いろんな事が分かる。以前問題になった「復興予算の流用」は、このシートを調べて分かったものだ。目的が「震災復興」となっている事業を調べると、北海道や沖縄を含め被災地ではない所で使われている予算がいっぱいあったのだ。
今回の発表は、このシートの内容をデータベース化したというものだ。このことの意味は大変大きい。国民誰でもが「仕分け人」になれるのだ。
2010年から行われている政府の事業すべてのシート化と公表も画期的だった。おそらく世界初の試みだ。しかし使い勝手はイマイチだった。各省のホームページから入り、一つ一つ事業を見ていくというのは面倒だ。構想日本は、全省の全事業をJudgit!という一つのサイトに集め、書きこみができるなどの工夫をしてみたが、残念ながらあまり活用されていない。
欧米などのタックスペイヤー意識の強い国民ましてやジャーナリストなら、自国にこんなサイトやシートがあればずい分活用しただろうが、日本のメディアも多くの国民も、政治家や官僚に文句は言っても、自ら材料を集めて政治につきつける人は滅多にいない。などと不満を言ってもはじまらない。そこで構想日本は過去2年間、事業や予算内容のデータベース化を政府や与党に働きかけてきたが、ついに実現したのだ。
地味なことだが、長い目でみてその効果は絶大だし、安倍政権の大きい功績だと後世評価されるだろう。
データベース化でできること
今回のデータベース化でレビューシートの検索性が飛躍的に向上した。
例えば「子ども・若者育成支援に関する事業」で絞り込むと、242事業が出てくる。
この242事業を事業費順に並べると、大きい事業として保育所の運営費や高校生への修学補助、児童扶養手当などが並ぶが、その中に「河川改修事業」(国土交通省)が見つかる。一瞬、??と思う。そこで、事業概要を見る。すると、
○築堤、河床掘削、遊水地整備等の手法を適切に組み合わせて、計画的に河川改修を行うことで、治水安全度の向上を図る。また、この際、各河川の特性を踏まえ、上下流・左右岸及び本支川のバランスを図りながら整備を行う。
○河川改修を推進するにあたっては、以下に重点をおいて実施。
・近年水害が発生しているなど、災害の頻発している箇所における浸水被害を速やかに解消する。
・背後地の資産の状況も踏まえ、災害の発生の危険性の高い箇所の安全度を向上させる。
○水質汚濁の著しい河川での浄化施設整備や自然環境の復元が必要な区域での河道整備、まちづくりと一体となった河川管理施設の整備等の取組みを実施する。
総額5,000億円の予算がついているが、子ども・若者育成にどういう関連があるのか全くわからない。データベース化は、政府の行革本部の担当者が外注ではなく自力で行ったというから単純なミスかもしれない。それなら大目にみないといけないが、このような例は他にも多くある。政治団体の資金使途に数万円おかしなのが入っていると日本中で大騒ぎするマスメディアがこれだけの規模の予算の流用の可能性を調べようともしないのは、やはり世界の常識から遠くはずれている。
また、「宇宙」という語が入っている担当課室名で検索すると、
・内閣府 宇宙戦略室
・総務省 宇宙通信政策課
・外務省 宇宙室
・文部科学省 宇宙開発利用課
・経済産業省 航空機武器宇宙産業課
の5つが出てくる。
外務省に宇宙室!
一体何をしてるのだろうと思う。
予算額は200万円という小さな事業だが、事業内容を見ると「我が国官民の優れた宇宙技術者又は宇宙法学者を戦略的に海外に派遣し、講演会及びレセプション等を通じて諸外国の産官学関係者との対話を促進し、ネットワークを強化する。また、企業の宇宙技術者等にネットワーキング及び宇宙技術の広報の場を提供することにより、日本企業が有する優れた宇宙技術の国際ビジネス展開を支援し、我が国の宇宙技術力の更なる向上及び経済成長につなげる。」とある。専門家をアジアや南米に1回派遣しただけでネットワークの強化、ビジネス展開の支援、宇宙技術のさらなる向上、経済成長につながるのか。民間に委ねられないと言うが本当か。
それにしても、そのために一つの室を置くほどのことなのだろうか。
まずは遊んでみよう
2020年までは「オリンピック」で検索すると、相当な数の事業が出てくるだろう。その目的、成果目標、受注企業など調べるといろんなことが分かるだろう。
このコラムでも以前書いたが、国立競技場の解体予算(文部科学省)の多くが実は日本スポーツ振興センターの本部建て替えのために使われ、その成果目標が「過去最大のメダル獲得」だったりするのだ。
「国の事業の受注企業ランキング」
「意味がわからない成果目標ベスト(ワースト?)10」
「長寿事業ロンゲスト10」(明治時代から継続している事業も多くある)
などずい分遊べると思う。
複数の省で同じような事業を行っている場合は、成果目標を比べ、さらに1年後に構想日本が自治体に聞くなどして成果を調べ競わせることもできる。
遊んでいるうちに国の事業、財政、企業の関係などいろんなことが分かってくる。各省予算のダブり、かけ声だおれで全く現場に届いていない予算などなど。
政府への改善提案
もちろんまだまだ改善すべき点も多くある。例えば、
- データ入力のルールの明確化。
レビューシートの記入のし方が各省庁の各部局ごとにまだまちまちだ。例えば、事業開始年度が「昭和〇〇年」や「S〇〇年」となっていたり、介護関連の事業で、高齢者、お年寄といった言葉が整理されずに使われている。データ上これらは別物として扱われてしまうから、記載ルールの明確化が必須だ。
- 活動実績、成果実績の項目設置。
レビューシートの中で最も大切な「活動指標及び活動実績(アウトプット)」と「成果目標及び成果実績(アウトカム)」がデータベースの項目から外れている。これは行革担当者からすると、活動指標や成果目標がそもそも設定されていない事業が多いので、データ入力しにくいのだろう。
事業仕分けの議論を聞いた方ならお分かりだと思うが、霞ヶ関の優秀な官僚たちは、事業の目的や成果を説明することが驚くくらいできなかった。事業を行うこと自体が目的化していたのだ。企業ではありえないことだろう。
だからここは大変重要な項目であると同時に、記入のし方が漠然としており、また目標や「実績」と言えない内容のことも多い。そのことが、この項目がデータベースに掲載されていない背景だろう。
しかしながら、これらは事業の成果を測るためには欠かせないものである。また、これらの項目があれば、同一目的で実施している事業を検索し、重複がないか等を省庁横断的に調べることが可能になる。
オープンになると国民、メディアが問われる
くり返しになるが、政府の事業がこれだけオープンになり、データとして検索し易い国は他にあまりないと思う。欧米では、自分の税金の使われ方となるとどこまでも調べて政府に問いただす。世界でもトップクラスの情報公開度で、納税者、有権者がその情報を使わなければ政治家のレベルよりも国民のレベルが問われる。
従来、「子育て支援〇億円」「経済対策〇兆円」など、メディア報道は予算規模は大きく取り上げるが、その成果や決算をフォローすることはほとんどなかった。
各省が自分の事業をアピールする目的で「新聞発表」したものを記者が記事にする。そこからは何も見えてこない。
これからは、政府が発表した生データを国民が様々にくみあわせ、整理して背後にある「真実」を伺えるようになる。
今回の総選挙でも財政はあまり争点になっていないが、日本の行く末に立ちはだかっている深刻な問題であることは全く変わっていない。
政府や政治家に注文をつけるより、私たち自身が「自分事」と考えないといけない。そのための何よりの武器が提供されたのだ。
なお、一つ付け加えると、今回の発表のし方も画期的と言える。ミスを含めデータベースがまだ不完全な段階で発表したからだ。
日本の官僚が誇る無謬性を破るきっかけになると良い。国民のためのデータなのだから、官僚と国民が一緒になって改善していけばいいと思う。
構想日本は、この行政事業レビューシートのデータベースを活用して、国民が税金の使い方を「自分事」として考え、議論し、行動できるための仕掛けを検討中です。
この取り組みに力を貸していただける方(特にIT技術に長けた方!)、ぜひ構想日本までご連絡ください。
info[at]kosonippon.org
※[at]を@に変換してメールしてください。