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『非認知能力』の書籍が出版。アスリート特化型ビジネススクールABU代表が考える、アスリートの本質とは

上野直彦AGI Creative Labo株式会社 CEO
「非認知能力」とは何か?ビジネスや一般社会への汎用など網羅されている書籍が出版

アスリートの特性『非認知能力』とは一体何なのか!?

社会として能力を最大限に発揮できるにはどうすれがいいのか?中田氏の長年のアスリートの交流や支援から「最適解」が得られた。書籍には初期のエピソードやビジネスの汎用など語られている。
社会として能力を最大限に発揮できるにはどうすれがいいのか?中田氏の長年のアスリートの交流や支援から「最適解」が得られた。書籍には初期のエピソードやビジネスの汎用など語られている。

 「アスリートにセカンドキャリアという言葉はいらない」

 この言葉を掲げ、アスリートに特化したビジネススクール「ABU」を運営するのは中田仁之氏。

 そんな中田氏が今年4月に出版した書籍が『やり抜くことのできる人、できない人の差、非認知能力』である。

 長いキャリアを通じて、さまざまなアスリートや一流の経営者に出会った経験から、スポーツに打ち込んできた人は共通して点数では表せない能力「非認知能力」を持っていると気がついたという。

 今回はその中田氏に、非認知能力の重要性や社会での活かし方、書籍を通じて実現したいビジョンやアスリートの未来像や可能性について話を聞いた。

アスリートが社会を生き抜く力が強い理由は「非認知能力」

ーーまず、書籍を出版した経緯を教えてください。

中田 以前からclover出版の代表である小川 泰文氏と親交があり、僕が5年前に執筆した「困った部下が最高の戦力に化けるすごい共感マネジメント~売上を伸ばしているリーダーが実践している最強チームの作り方 」という書籍を読んでいただき、興味を持ってもらったことがきっかけでした。

 次に出す2冊目の書籍について話し合っていたところ、スポーツを切り口にしたビジネス書を出したいというお話になったのです。

ーー書籍のタイトルにもなっている「非認知能力」とは何なのでしょうか?

中田 非認知能力とは、学校のテストなどで点数化できない能力のこと。例えば、学校で問われる能力は、国語・算数・理科・社会など教科で点数を取る、いわゆる「学力」ですよね。

 一方で、非認知能力とはそれ以外のこと。具体的には、集中力や物事を最後までやり抜く力、自制心、判断力、協調性などが非認知能力に含まれます。

 これらの能力は特にスポーツに打ち込んだ人々が突出しています。しかし、まだ多くの人が非認知能力に気がついていなかったり、活かしきれていなかったりするので、これまでスポーツを頑張った経験のある社会人の方々が自分自身の持つ非認知能力をもっと活かせるようになってほしいと考え、執筆しました。

ーー中田さんご自身が「非認知能力」の重要性に気がついたきっかけについて教えてください。

中田 私は関西大学出身なのですが、大学を卒業するまでずっとスポーツをやってきました。でも、高校や大学にはスポーツ推薦ではなく、すべて一般受験で合格してきたのです。

 その後、実際に社会に出てみると、学力は高いのにも関わらず仕事で思うように結果を出せていない人や、一方で学力はそれほど高くなくても組織の中でみるみるうちに出世していく人を見てきたなかで、双方にはどんな違いがあるのかを考え続けてきました。

 私自身も上場企業を辞めて、独立して経営者になってからさまざまな経営者の方にお会いして見えてきたのが、スポーツに打ち込んできた人ほど仕事で活躍しているということでした。

 実際に経済産業省が発表した「人生100年時代の社会人基礎力」を見てみると、「前を向く力」や「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つが重要視されていることがわかりました。

 この3つは、まさにスポーツをやってきた人に共通する能力だと気づき、非認知能力の重要性について考えはじめるきっかけになりました。

日本のアスリートの自己肯定感が低い理由

アスリートの特質とは何なのか?ビジネスや企業でも成功する人が多い理由は何かのか?書籍ではその点を徹底的に分析している
アスリートの特質とは何なのか?ビジネスや企業でも成功する人が多い理由は何かのか?書籍ではその点を徹底的に分析している

ーーアスリートにはスポーツを通じて、社会で生き抜く力がすでに備わっているということですね。

中田 そうです。ビジネスに必要な専門性については働き始めなければわからない要素ですが、個人の持つビジネスに向いた特性はアスリートのほうが強いと考えています。

 実際に、僕自身が今までABUで300人以上のアスリートを見てきましたが、実はアスリートほど自分の本来持っている能力に気がついておらず、自己肯定感が低いのです。

 今までスポーツしかしてこなかったから自分は社会人として生きていけないと思い込んでいるアスリートは多いのですが、実際に彼らを見ていると、チームワークや物事をやり切る精神力が抜群に備わっていることに気が付きます。

ーーアスリートが自己肯定感が低いというのは意外です。

中田 アスリートはそれまでずっと打ち込んできたスポーツを、引退のタイミングで突然奪われてしまうのです。その後、自分は学生時代に学業よりもスポーツを頑張ってしまったことで、学力がないという劣等感に苛まれます。

 ただ、社会で学力が重要視される場面よりもアスリートがスポーツを通じて培ってきた非認知能力のほうがずっと重宝される。今はネットで調べれば何でもわかる時代なので、アスリートのように人がやってきていない希少な経験を持っていることが評価されるのです。

 事例を挙げればキリがないのですが、いくつかご紹介します。

 今回の書籍にも登場するのですが、あるアスリートは大学を卒業した後も現役選手として夢を追い続けてきました。残念ながらプロにはなれず、26歳で初めて社会に出ることになりました。「社会のことが何もわからない」という彼に「何がわからない?」と質問すると「名刺交換の方法や上座・下座もわかりませんし、パソコンも苦手です」と返ってきました。それらはすべて、誰かに教わればすぐにできることばかりです。

 それよりもスポーツから学んだことは何?スポーツのおかげで身についたものは何?と彼のスポーツキャリアを言語化しました。それらの能力のほとんどが非認知能力に分類されるものでした。彼に自身が持つ強みを教えた結果、「スポーツを長年続けてきたことの意味」を見出し、仕事との共通点を見つけてはスポーツで経験した場面に置き換え、対処法を見出したのです。

 また、知人にある元プロ野球選手がいます。彼は高卒でプロの世界に入り、4年間の現役生活の中で1軍で出場したのはわずか1試合でした。彼は引退後、まず焼肉屋さんでアルバイトを始めます。そこから正社員となり、店長となり、今では独立し複数の事業を展開する事業家へと成長しました。彼の強みは「素直さ」わからないことを素直に「教えてください」と頭を下げることができることでした。

 彼の素直さは経験を積むにつれ人望へと昇華していきました。一生懸命でずるさのない彼は、現役選手の頃よりも遥かに多くの人から応援されるようになり信頼関係を築いていきました。

ーーどうすれば、アスリートの自己肯定感を向上させられるのでしょうか?

中田 非認知能力の活かし方を理解することが重要です。自分の能力を最大限活かせていると感じられれば、自然と自己肯定感は上がります。まずは自分の強みを知ること。弱い部分は片目を瞑り、とにかく強みを伸ばすこと。それと、社会で働いているさまざまな方々と接点を持つことです。

ーーこの書籍をどんな人に読んでもらいたいですか?

中田 アスリートだけでなく、今までスポーツに打ち込んできた社会人の方にはぜひ読んでほしいと思いますね。たとえ、オリンピックに出ていなくても、レギュラーになれなくても、しんどい思いをしてトレーニングを重ねてきたなかで、必ず非認知能力は鍛えられています。

 また、スポーツに限らず何かに熱中してきた人も非認知能力が高いと感じることが多いです。もし自分が非認知能力が低いと感じたとしても、この書籍を読めば鍛えることができます。

 非認知能力は後天的に身につける能力ですから、誰もが非認知能力を最大限活かすことで、人生をもっと豊かにしてもらいたいですね。

非認知能力の中でも重視したい3つのスキル

有名なカッツモデルでも非認知能力に関わる対人的能力の重要性が示されている。
有名なカッツモデルでも非認知能力に関わる対人的能力の重要性が示されている。

ーー非認知能力の中でも、中田さんが特に重要視している能力を教えてください。

中田 まず、1つ目は「集中力」です。アスリートは体力があるので、集中力が持続しやすい傾向にあります。これは仕事をするうえで、当然武器になります。

 2つ目は「目標達成力」です。目指すべき目標が見えたとき、それを達成するために自分の力で動く能力はビジネスをする際、非常に重要です。アスリートは幼い頃からスポーツを通じて、練習→工夫→改善を繰り返すというPDCAを回す習慣を培ってきたため、身体に染み付いています。

 3つ目は「リーダーシップ」。例えば、組織やチームの中で自分の役割を見出して全うする。そして先輩や後輩との縦社会を上手く生き抜きながら、いずれはチームを引っ張っていく。これは、チームのトップでなくても必要な能力なので、自然と身につけているアスリートはビジネスパーソンとしての素地が固まっていると言えます。

ーー同じアスリートといっても、取り組んできた競技によって持っている非認知能力に違いはあるのでしょうか?

中田 もちろんあります。特にチーム競技と個人競技では大きく違いますね。チーム競技に取り組んできたアスリートは、チームの中での自分の役割に敏感です。チームの中で何をすれば自分が評価されるのか敏感に察知して、やるべきことをやり遂げる能力があると考えています。

 一方で、個人競技の中でも柔道や卓球などの対人競技に取り組んできたアスリートは、相手との駆け引きが上手な傾向にあります。勝負を通じて、相手の目を見て今どんな行動をとれば有利に働くかを直感的に理解しているので、その能力はビジネス面でも役に立ちます。

 そして、個人競技の中でも水泳や陸上などの記録系の競技は、年間における試合の回数が非常に少ないため、大会の日に自分のピークをもっていく必要があります。そのため、大会の日に向かって逆算して鍛錬していく能力とストイックさが強みになります。

ーー変化の激しい時代に社会人として生きていくにあたって、非認知能力のなかでも特に鍛えておきたいスキルはありますか?

中田 私が重要視するべきだと考えているのは「メタ認知能力」です。メタ認知能力とは、自分を俯瞰的に見る能力のこと。この能力を持っていることで、自分の行動や言動が社会的にどう見られるのかを考えることができ、セルフブランディングに繋がります。

 また、メタ認知を身につけることで人とのコミュニケーションも俯瞰的に見れるようになるので、自分より能力の高い人の良さを盗めるようになりますね。

 あとは、厳しい社会を生き抜くための「粘り強さ」も身につけておきたい非認知能力の1つです。今の若年層はこの粘り強さが足りていない印象なので、ぜひ若いうちに鍛えていただきたいですね。

アスリート向けビジネススクール「ABU」で上場を目指す

関西ではラジオ番組『アスカツ』がこの4月からスタートした。手前が元アスリート 西岡詩穂氏、奥がABU代表 中田仁之氏である。
関西ではラジオ番組『アスカツ』がこの4月からスタートした。手前が元アスリート 西岡詩穂氏、奥がABU代表 中田仁之氏である。

ーー今後の展望を教えてください。

中田 ABUという事業を5年後に上場させることが、大きな目標の1つになっています。ABUは長く続ければ続けるほど、ビジネススキルを持ったアスリートがどんどん増えていき、世の中に意識の高いアスリートを輩出できる仕組みになっているため、今後もアスリートを増やし、事業基盤を固めていくことに注力していきたいです。

 2023年5月からABUの第9期が始まるので、興味のあるアスリートの方はぜひ参加してみてほしいですね。

 また、その後には、アスリート向けに行っているスクールを水平展開して、文化・芸術分野など新たなジャンルでスクール事業を広げることも検討しています。

 また、ABUを広めるための活動の1つとして、4月からラジオ番組を始めました。

ーーラジオ番組について詳しく教えてください。

中田 ラジオ関西で「アスカツ!」というタイトルで、毎週土曜日の夜8:30から30分間放送しています。アスカツとは、「アスリートの活動」と「明日への活力」、そして「明日も勝つ」という3つの意味を込めた言葉です。

 パーソナリティは、私とABUの受講生であり講師でもある西岡詩穂という女性が務め、アスリートや経営者をゲストにお呼びして、ゲストの生き方や本音を通じて、リスナーの皆様に元気や挑戦する勇気をお伝えする番組になっています。

 すでに2023年4月1日から第1回目の放送があり、公式TwitterのDMでたくさんのご好評をいただきました。

ーーありがとうございます。最後に、仕事に悩んでいる方やこれから新しいことにチャレンジしたいという方にメッセージをお願いします。

中田 スポーツをやってきたという経験は、皆さんの未来に対して非常に価値のあるものだということを、この本を通じて気づいてほしいと思っています。

書籍の帯を書いている川崎選手や田中氏も中田氏の考えに賛同。現在、その輪が元・現役問わずアスリートやスポーツ関係者に広がっている。
書籍の帯を書いている川崎選手や田中氏も中田氏の考えに賛同。現在、その輪が元・現役問わずアスリートやスポーツ関係者に広がっている。

◯『非認知能力』書籍について

◯ABU第9期入学説明会

(了)

AGI Creative Labo株式会社 CEO

兵庫県生まれ/スポーツジャーナリスト/ブロックチェーンビジネス/小学生の頃に故・水島新司先生の影響を受けて南海時代から根っからのホークスファン/野村克也/居酒屋あぶさん/マンチェスターシティ/漫画原作/早稲田大学スポーツビジネス研究所 招聘研究員/トヨタブロックチェーンラボ/SBI VC Trade・Gaudiyクリエイティブディレクター/CBDC/漫画『アオアシ』取材・原案協力/『スポーツビジネスの未来 2021ー2030』(日経BP)異例の重版/NewsPicks「ビジネスはJリーグを救えるか?」連載/趣味 フルマラソン、ゴルフ、NYのBAR巡り /Twitter @Nao_Ueno

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