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「ねほりんぱほりん」が示すテレビの可能性。

五百田達成作家・心理カウンセラー

水曜深夜にNHK・Eテレをつけると、画面に映るのは、かわいいブタとモグラたちのぬいぐるみたち。

Eテレらしい人形劇かと思いきや、ぬいぐるみたちが話しているのは、「地下アイドルの闇」や「ナンパ教室に通う男たちの生態」など、表立っては話せないような裏の話ばかり。

ブタがぎょっとするような真相を告白し、モグラたちは楽しそうに突っ込み、ほのぼのとした画面とうらはらに、ゲスい話はどんどんヒートアップしていく……。

話題の異色バラエティ

いま、「ねほりんぱほりん」が話題だ。

昨年10月から放映されている「ねほりんぱほりん」は、ブタのぬいぐるみとモグラのぬいぐるみが話すトークバラエティ。ブタに扮して話しているのは毎週トークテーマに応じて変わるゲストたちで、その話を聞きながらツッコミや合いの手を入れ盛り上げているのは、YOUと山里亮太が扮するモグラのぬいぐるみ。

テンポの良い会話で進む「ゲスい話」が実に面白いと、各界から注目を集めている。

テレビ版2ちゃんねる?

トークの内容は、いわゆる「ネットの闇」的なものばかりだ。

高学歴男だけを狙う婚活女子、元薬物中毒者、二次元しか愛せない女たち、痴漢えん罪被害者、ナンパ教室に通う男たち……。下世話な興味で話を聞いてみたいけれど、あまり表立っては聞けないし、なかなか知ることのできない人々の人間模様が、赤裸々に語られる。

しかし敢えて言うなら、どれも、2ちゃんねるを見れば、すでにスレが立っていそうなテーマ。「元ジャニーズだけど質問ある?」「CAだけど何か質問ある?」など、当事者たちが裏事情を激白し、部外者が合いの手を入れるのも全く同じ構図と言える。

笑えるけど、考えさせられる

「なるほど、ネットで流行りの裏トークを、テレビでやってるだけね」と思うかもしれないが、特筆すべきは、ねほりんぱほりんは、あくまでポジティブで楽しく見ることができること。

ゲスト扮するブタたちは、自分なりのポリシーを持っていたり、目標に向かって頑張っていることが多い(人間だもの、当たり前だ)。

そしてうまく相槌を打ち、話を面白くポジティブな方向に持っていくYOUと山ちゃんが実に巧み。

言葉遣いも露悪的で眺めれば眺めるほど気持ちが沈んでくる2ちゃんねるとは違い、見ていてほがらかな気持ちになれる。

なんといっても、話をしているのが可愛らしいブタやモグラのぬいぐるみ(ほんとうにクオリティが高い)なので、リアルの人間が話していないぶん、画面からは常にコミカルで楽しい印象だけが伝わってくる。

内容は暗く切実。トーンは明るくユーモラス。このギャップこそが、ついつい人が「ねほりんぱほりん」をチャンネルを変えることなく見てしまう要因だろう。

実際、「地下アイドルの闇」の回では、時に笑い、時に呆れながら、気づくと「いやいや、他人事じゃないよな」と自らのキャリアと重ねながら見てしまったし、「保育士の現場」の回では、保育士の給料の安さ、社会構造に憤りつつも、恋愛・結婚事情を下世話にチェックする自分がいる。

そこには、一本のドキュメンタリー映画を見たような、深い学びすらある。さすがはNHK・Eテレの番組だ。

つまらなくなったテレビにできること

テレビがつまらなくなったと言われて久しい。

曰く、ふわふわと甘っちょろい。

曰く、リアルじゃない。

曰く、くだらない、ウソの情報ばかり。

リアルで、生々しい、ほんとうに欲しい情報はテレビにはない、ネットにしかない…。なるほど、確かにそうかもしれない。

いっぽうで、ネットのぎすぎすしたやり取りをずっと見ていると、具合が悪くなってしまうのも事実だ。

そんな中、ネットのリアルをテレビの明るさで上手にコーティングした「ねほりんぱほりん」は、テレビの可能性を示唆している。

確かにテレビは、甘い。生ぬるいし、加工されすぎている。だがそれは裏を返せば、安全で、そこそこ楽しい信頼感でもあるのだ。

テレビはファミレス

そう、テレビは、たとえるなら、ファミレスなのだと思う。

これは、もはやファミレスでしかない、という意味でもあり、そもそもファミレスだった、という意味でもある。

ファミレスたるもの、家族みんなで、わいわいと安心して楽しめることが第一の存在意義だ。素材の風味とか、変わった味付けは要らない。むしろ忌避される。専門店のこだわりを人はファミレスに求めないし、求めてはいけない。

奇しくもネットの登場で浮き彫りになっただけで、テレビとはもともと、夢と魔法の国なのだ。それをつかまえて、やれ「生ぬるい」だの、やれ「甘ったるい」だの批判するのは、筋違いというものだろう。

テレビはファミレスでいい。ネットに迎合する必要はない。それでも当然「面白い」ものは作りたい。時代に合ったメニューを提供したい。でないと、お客さんが来ないし…。そうやって厨房のみんなで知恵を絞りあって考えた最も旬なメニューこそが、「ねほりんぱほりん」ではないだろうか。

みんなが知りたいゲスで赤裸々な話題を、テレビという粉砂糖ででやさしく包み込んでお届けする。YOUと山ちゃんがうまくスパイスをきかせ、盛りつけはあくまで、ブタとモグラのぬいぐるみでどこまでもかわいらしく…。

ヤン坊マー坊そっくりのエンディング

番組のエンディングには往年の「ヤン坊マー坊天気予報」そっくりの、「僕の名前はねほりん〜」という歌が流れる。この演出が個人的には大好きだ。

そこには「失われつつあるテレビ文化を、私たちは大事にします」という、制作者たちの矜持と遊び心が感じられる。

「最近のNHKって面白いよね」「へぇ、こんな番組がEテレでやってるんだ」というだけの評価にとどまらない、「そもそもテレビって誰のための、どんなものなんだっけ?」と考えさせられる、ネット時代に生まれたテレビの名品だ。

作家・心理カウンセラー

著書累計120万部:「超雑談力」「不機嫌な妻 無関心な夫」「察しない男 説明しない女」「不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち」「話し方で損する人 得する人」など。角川書店、博報堂を経て独立。コミュニケーション×心理を出発点に、「男女のコミュニケーション」「生まれ順性格分析」「伝え方とSNS」「恋愛・結婚・ジェンダー」などをテーマに執筆。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。

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