NY原油、3ヶ月半ぶり50ドル割れの衝撃
原油価格の国際指標となるNYMEX原油先物相場(参考:原油価格をみるための基礎知識)は、7月22日の取引で1バレル当たり前日比-1.67ドルの49.19ドルとなり、4月6日以来で初めて50ドルの節目を割り込んだ。昨年後半の急落相場で一時42.63ドル(3月17日)まで6割を超える急落相場を形成した後、5~6月にかけては60ドル水準まで値位置を切り上げ、原油価格の底打ち論も勢いを増し始めていた中での値動きである。
こうした相場展開の背景にあるのは、昨年後半の原油相場急落が、供給過剰という原油需給のリバランス(=需給調整)を促すことに失敗したことに尽きる。
マクロな視点で昨年以降の国際原油需給を振り返れば、昨年後半には1)中国を筆頭とした新興国経済の成長鈍化、2)シェールオイルを筆頭としたタイトオイル(非在来型原油)の増産を受けて、需要と供給の双方から需給緩和圧力が強まった。従来であれば、国際原油カルテルである石油輸出国機構(OPEC)の生産調整によって需給バランスの均衡化が目指される所だった。しかし、このままOPECが生産調整役を担い続けるのであれば、国際原油市場におけるOPEC産原油のシェアが急激に低下するのは必至であり、OPECは自らの減産ではなく、原油安を放置することで生産コストの高いタイトオイルに調整役(=減産)を迫ることを選択した。
この戦略は一定の効果を発揮しており、米国では石油リグ稼動数がピークの4割水準まで落ち込むなど、大きな混乱が見受けられた。加えて、低価格は世界の石油需要も刺激し、需要見通しの改善も需給緩和状態の解消役に寄与することが期待できる状況になっていた。
しかし、今年に入ってからはOPECが改めて増産傾向を強めていることが、国際原油需給のリバランス実現に不透明感を漂わせている。OPECの産油量は、1~3月期の日量3,049万バレルに対して、4~6月期には3,147万バレルまで急増したと推計されており、タイトオイル分野にみられた減産兆候を全て無意味化させてしまっている。
しかもこのタイミングで米国ではシェールオイルに増産再開の兆候が見え始めている。採算性の低い鉱区からの撤退が進む一方、頁岩層の資源を吸収する新技術の開発もあって、早くも40~60ドル水準の新しい原油価格への対応が進んでいる。従来は60ドル前後がシェールオイル業界全体の採算分岐点と言われていたが、最新の調査ではテキサス州などでは40ドル台との報告も聞かれ始めている。
これ以上の需要拡大が想定しづらい一方、OPECの生産水準は過去最高に達し、更にはイラン産原油の市場復帰も警戒されている。加えて、非在来型原油にも増産再開の兆候が見られる中、昨年後半の原油相場急落で原油需給のリバランスが実現するといった見通しには懐疑的にならざるを得ず、更なる原油安でいずれかの産油国に減産対応を迫ることが要求されている。また、ここにきてのドル高圧力もドル建て原油価格に対する強力な逆風になっている。
原油相場が改めて50ドルの節目を割り込んだことは、需給リバランス失敗を象徴する動きと評価している。改めて今回の急落相場のクライマックスである42.63ドル、ドル相場の動向次第では更に40ドル割れを打診する展開も想定しておく必要がある。