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習近平プーチン電話会談が暗示する習近平の恐るべきシナリオ

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
習近平国家主席とプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

6月15日、習近平とプーチンの電話会談があった。その会談内容をじっくり読み解くと、習近平のしたたかな、恐るべきシナリオと今後の世界情勢の動向が浮かび上がってくる。なぜ6月15日だったのかも、多くを語っていて興味深い。

◆会談内容に関する中国の公式発表

 6月15日夜7時、中国外交部は<習近平がロシア大統領プーチンと電話会談>という見出しで、会談内容を発表した。2月25日、ロシアがウクライナに進行した翌日に習近平からプーチンに電話して以来の会談だ。公式発表は十分に編集した後の内容ではあろうが、それでも滅多にない発信であり、かつ今後の世界情勢の方向性を暗示するものとなる可能性が大きいので、発表された会談内容を、そのまま全文ご紹介する。

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 2022年6月15日午後、国家主席習近平はロシア大統領プーチンと電話会談をした。

 習近平は以下のように言った:今年になって以来、世界的な混乱と変革に直面する中、中露関係は良好な発展の勢いを維持している。両国間の経済貿易協力は着実に進んでおり、黒河-ブラゴヴェシチェンスク高速道路橋が開通し、両国間の往来の新しい道を切り拓くことができた。中国側はロシア側と協力して、二国間の実務的な協力の安定した長期的発展を促進したいと思っている。中国はロシアとともに、主権や安全保障などの核心的な利益と主要な懸念に関する問題について互いに支援し続け、両国間の戦略的協力を密接化し、国連、BRICS、上海協力機構など重要な国際的および地域的組織との意思疎通と協力を強化し、新興市場国と発展途上国との団結と協力を促進して、国際秩序とグローバルガバナンスの、より公正で合理的な方向へ発展を推し進めていきたい。

 プーチンは以下のように言った:習近平主席の強力なリーダーシップの下、中国は目覚ましい発展を遂げ、ロシア側は心からのお祝いを表明する。今年になって以来、ロシアと中国の実務協力は着実に発展してきた。ロシア側は、中国側が提案した世界の安全保障イニシアチブを支持し、いかなる勢力が、いわゆる新疆、香港、台湾などの問題を口実に、中国の内政に干渉して来ようとも、それに反対する。ロシア側は中国側との多国間協力を強化し、世界の多極化を促進し、より公正で合理的な国際秩序を確立するために建設的な努力をしたいと願っている。

 両国首脳はウクライナ問題に関して意見を交換した。

 習近平は強調した:中国は常にウクライナ問題の歴史的経緯と理非曲直(りひきょくちょく。道理に合っていることと合っていないこと)からスタートし、独立して自主的な判断を下し、積極的に世界平和を促進し、グローバル経済の秩序と安定を促進する。すべての関係者は、責任ある方法でウクライナ危機の適切な解決を推進しなければならない。中国はそのため、引き続きそのあるべき役割を果たしていきたいと思っている。(外交部からの引用はここまで)

◆対談から読み解く「習近平の恐るべきシナリオ」_その1

 習近平の最初の発言にある「黒河-ブラゴヴェシチェンスク高速道路橋」とは、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の第二章の「p.53~p.59」で詳述したプロジェクトで、これは正に日本のLNG(液化天然ガス)の開発拠点である「サハリン」あるいは「サハリン2」と中露間の最大のパイプラインである「シベリアの力」を「つなぐ」役割を果たす、「習近平の恐るべきシナリオ」の中の一つだ。

 このプロジェクトの成功を、プーチンとのわずかな電話会談の冒頭に持ってくるということが、どれだけインパクトがあり、日本にとっても衝撃的であるか、その行間に滲(にじ)んでいるものを読み解けなくてはならない。

 岸田首相は5月23日、24日とバイデン大統領を迎えて高らかにIPEFと日米豪印「クワッド」を謳いあげたが、実は中身はほぼ空っぽで、「対露包囲網」にも「対中包囲網」にもなっていないのは、この「サハリンLNG開発拠点」があるからだ。

 「ロシアへの徹底した制裁を!」と叫んでいる足元では「日本国の国益のために、絶対にサハリンLNG開発基地だけは撤退しない」と主張しているのだから、すでに自己矛盾を来たしている。

 徹底するなら撤退すべきだし、撤退しないのなら「対露制裁の徹底」などと叫ばなければいいのである。

 これが許されるのなら、ハンガリーのみならず、ドイツだってフランスだって「自国の利益のために、ここだけは譲れません」と「本音」を言っていいわけだし、EU諸国も無理してアメリカからの圧力に同調しなくても済むわけだ。

 欧州がどれだけ無理をしているか、ドイツのキール研究所が発表したデータには衝撃を受ける。図1に示すのは同研究所が発表した「世界主要国のウクライナへの支援」のデータである。これは2022年1月24日から6月7日までの間に、各国政府がウクライナに約束した軍事的、財政的、人道的援助をリストアップし、定量化したものである。

図1:2022/1/24~6/7

出典:ドイツのキール研究所のデータに基づいて筆者作成
出典:ドイツのキール研究所のデータに基づいて筆者作成

 EUとEUメンバー国が重なっているように見えるが、このグラフで「EU」と書いてあるのは「欧州委員会と欧州評議会の合計」で、EU各国とは別々に計上されている。

 実はこのデータは6月16日に更新されたもので、すでにこのウェブサイトからは消えているが、その前のデータ、すなわち「5月10日までのデータ」では、図2のようになっている。

図2:2022/1/24~5/10

出典:ドイツのキール研究所のデータに基づいて筆者作成
出典:ドイツのキール研究所のデータに基づいて筆者作成

 アメリカの数値が全世界の合計よりも大きく、図2では圧倒的に群を抜いているのがわかる。図1ではEUが増加しているが、青色の財政の部分が増加しているだけで、赤色の軍事の部分は、あまり変わっていない。アメリカの次に頑張っているのはイギリスで、イギリスはEUを離脱した分だけ頑張らないと、という力みがある。

 他の欧州諸国は、アメリカから受ける同調圧力に渋々対応しているのが数値化されたようなもので、日本がサハリンLNG開発基地から撤退しないのなら、欧州諸国もそうしたいと思っていることをうかがわせるようなデータだ。

 このような中、明らかに中国はいかなる支援もしていないのに、ウクライナが中国を評価するのはなぜだろうか?

◆対談から読み解く「習近平の恐るべきシナリオ」_その2

 電話会談の中の最後に書いてある習近平の言葉にご注目していただきたい。これは今後の世界の方向性を示唆している。そこに「中国はそのため、引き続きそのあるべき役割を果たしていきたいと思っている」という言葉があるが、この「役割」とは何なのかを考えてみよう。

 5月29日のコラム<ゼレンスキー大統領「中国の姿勢に満足」とダボス会議で>に書いたように、ゼレンスキー大統領は5月25日、ウクライナ戦争における中国の政策に満足していると、ダボス会議で述べた。そのコラムの後半にある「◆ゼレンスキー発言の狙いと今後の可能性」のパラグラフで書いたように、ゼレンスキーが習近平に期待しているのは「停戦の仲介」だろう。

 停戦交渉をしてくれと最初にプーチンに言ったのは習近平だ。

 本稿の冒頭に書いたように、2月24日にプーチンがウクライナへ軍事侵攻を始めたその翌日の25日に習近平はプーチンに電話し、「話し合いによって解決すべきだ」と明言した。プーチンも「話し合いによって解決する」と回答し、3日後の28日から停戦交渉が始まった。

 したがって最終的に停戦に向かう時に、プーチンに進言する力を持っている数少ない国家のリーダーである習近平に、ゼレンスキーは何らかの形で協力を頼むつもりではないかと思うのである。習近平はこれらの大役を、水面下でゼレンスキーから頼まれているものと考えられる。

 この「役割」を果たすことができれば、「停戦後」の中国の力が大きくなる。

 これが「習近平の恐るべきシナリオ」の一つなのだ。

◆習近平への依頼が推測される周辺事情

 周辺事情として考えられるのは、まず、ローマ法王が先月ウクライナ戦争に関して発した言葉が、6月14日にイタリアの新聞紙で発表されたことが挙げられる。そこにはローマ法王(フランシス)がロシアの侵略を鋭く批判する一方で、「善人と悪人」は存在せず、「ロシアはある意味でNATOの東方拡大によって(ウクライナへの軍事行動を)引き起こした」と主張したと書いてある。そのとき法王は、「私がこのように言うと、必ず誰かが『おまえはプーチンを擁護するのか』と責めるでしょう」と言って、そういった単純なレッテル貼りをすることは良くないとしている。もっと複雑な状況が横たわっているので、そのようなことをしたら問題解決にはならないと言ったのだ。

 ちなみに、わが国でも類似のことが起きており、たとえば6月13日の<勇ましさに潜む「自立」と「反米」 安倍元首相の危うい立ち位置>にあるように、安倍元首相の言動がどうであるかは別として、少なくともすぐさま「極めてロシア寄りだ」とか「親プーチンだ」とレッテルを貼っているのは適切ではないだろう。せっかく読み応えのある上手い文章なので、惜しい。

 こういった現象が世界中で起きているが、その同調圧力の災禍にクギを刺す動きも、最近では頻繁に見られるようになった。

 5月31日のコラム<スイス平和エネルギー研究所が暴露した「ウクライナ戦争の裏側」の衝撃 世界は真実の半分しか見ていない>に書いたガンザー所長の主張も説得力があり、ましてやローマ法王の言葉となると、さすがに圧巻で、誰も逆らえないのではないだろうか。

 一方、6月10日、ワシントンポストがウクライナの現状をかなり悲観的に報道している。それによれば、「ウクライナの、初期のころの予期せぬ勝利に伴う陶酔感は薄れつつある」とのことだ。

 それを裏付けるかのように、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問が14日、ドイツとフランスを批判しながら、必要な武器のリストを発表した。そのリストに関してはNEWSWEEKも報道しており、ポドリャクもツイートで示している

 但し、6月16日のアメリカ国防総省の発表によれば、ウクライナが期待した1000基の155mm榴弾砲に対して、18基しか送れないとのこと。しかも、どうやら8月になりそうだ。

 世界全体として、やや「ゼレンスキーが要求しすぎではないのか」とか「このままでは戦争が終わらないのではないのか」あるいは「早く終わらせてほしい」といったニュアンスが漂っているようにも思える。

 ロシアでは今般の習近平・プーチン電話会談を、クレムリンの公式発表前にタス通信が<習近平はプーチンに、ウクライナの危機を解決するのを手伝う準備ができていると語った>という見出しで報道しているところを見ると、要は、「そろそろ戦争を終わらせる時が来たのではないか」という暗黙の思惑が見え隠れするのである。

◆なぜこの時期に電話会談をしたのか?

 興味深いのは、なぜこの時期に電話したのかだが、電話した日が「6月15日」であることを考えると、このことからも様々な要因が推測される。

 つまり、習近平の誕生日は「1953年6月15日」だ。

 この日に電話したということは、明らかにプーチンから習近平に電話したことが推測され、冒頭の中国外交部発表のプーチンの発言の部分に「ロシア側は心からのお祝いを表明する」という言葉があることが、何やら「誕生日おめでとう!」と言った言葉に置き換えられているようで、普通は「お祝い」とは言わないだろうと考える流れに「」の字があることが、一種の裏付けかと感ぜられる。

 となると、プーチンの方が習近平に低姿勢に出ており、同時期にNATOの国防大臣たちが集まってウクライナへの武器支援に関して話し合うことに対抗して、プーチンがこの時期を選んで、習近平の誕生日にかこつけて、電話したものと考えるのが妥当だろう。

 分析は尽きなく、さらに深めたいが、長くなりすぎたので又の機会にしたいと思う。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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