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ムネリンなぜ「合掌」するのか?

豊浦彰太郎Baseball Writer

ブルージェイズの川崎宗則が7月1日の試合後に同僚と「合掌」で勝利を祝っている写真をスポーツ紙で見つけ、違和感を拭えなかった。日本人は相当敬虔な仏教徒でも日常的に「合掌」はしないだろう。

ムネリンが合掌するのは初めてではないし、彼以外でもマリナーズの岩隈久志がマウンドを降りた後にダグアウトでチームメイトと同様の「儀式」を行っているのをテレビで見たことがある。初めてそれをやった日本人メジャーリーガーはだれなのかは知らないが、私が見てきた中ではマリナーズに在籍していた佐々木主浩である。

MLBでは日本人選手とこのへんてこな挨拶を交わすことが定着した感がある。ムネリンとエセ和式挨拶を交わしていたホゼ・レイエスは、恐らく日常的に日本人は合掌していると思っているだろう。しかし、いまどき食事の前に手を合わせる人も少数派だ。ちなみに私は、初詣でと竣工式などの神事以外で両手を合わせるのは仏壇の前くらいだ。レイエスは自分が「食卓のアジのひらき」や「ホトケさん」と同じ対応を受けていると知ったら驚くだろう。

異国で異文化の中で生きて行くことは相当タフなことなのだろう。周囲の外国人に受け入れられようとすると、彼らが示す誤った日本への認識に基づいたアプローチも否定せずに受け入れるしかないと感じているのかもしれない。しかし、本当にチームメイトに溶け込もうとするなら、彼らの誤解を受け入れてあげることではなく「実はそんな挨拶は日本人はほとんどしないんだよ」と教えてあげることが重要だ。「へえ、そうなんだ」と挨拶だけでなく、会話のキャッチボールが始まること請け合いだ。川崎はともかく、多くの日本人メジャーリーガーはしっかりと通訳を帯同している。彼らのヘルプも仰げばこれくらいのコミュニケーションは可能なはずだ。

もう20年くらい前になるが、出張でモナコに行った際に取引先と一緒にキャバレー(キャバクラではない)に行った。そこではショーが繰り広げられており、美しく着飾ったパフォーマーによる素晴らしい歌や華麗なダンス、仰天のマジックが繰り広げられていた。そして、ショータイムの終盤に日本人の芸人さんが出てきて、人間技とは思えないほどの高度な皿回しを披露してくれた。

しかし、私は困惑を禁じえなかった。彼の芸名が「モモタロー」(タの部分にアクセントを置く)で、そのいでたちが「桃太郎」と「サムライ」と「ゲイシャ」をごった煮にしたような(当時の)西洋人にとってのステレオタイプな日本イメージのショーケース的なものだったからだ。「モモタロー」さんの芸は間違いなく国宝級だったが、その位置付けは残念ながら称賛のみを集めるものではなかった。

おそらく彼は「これ、ホントの日本とはちゃいまんねん」と(関西弁かどうかは別にして)訴えたかったのだろうが、異国の地で自らの存在すべき場所を確保するためには受け入れざるを得なかったのだろう。

日本人メジャーリーガーの合掌を見て思いだすのはいつもあの時の「モモタロー」さんだ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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