住宅ローン金利の行方を占う=「長期固定」は既に底入れ、今後は上昇基調へ
住宅ローン金利が上昇基調となってきた。債券利回りなどの市場金利に連動しているためだ。今後の行方を占うと、デフレ脱却がなお遠いことを考慮すると、改めて低下に転じる可能性はゼロではないが、少なくとも「長期固定」の金利は既に底入れし、今後は上昇基調となりそうだ。日銀のマイナス金利で過度に低下した状態は修正され、その意味で「絶好の借り時は過ぎた」(債券ファンドマネジャー)と考えられる。
住宅ローン金利は「短期変動」と「長期固定」に分かれる。ローンを提供する金融機関の営業方針によって多少の差はあるが、いずれも傾向としては市場金利に連動する。このうち、まず「短期変動」だが、現状では年0%台半ばから後半の水準で推移している。貸し出しの基準となるのは「短期プライムレート(短プラ)」だが、2009年1月に1.475%(最頻値)に下がって以降、全く動きがみられない(参考、日銀集計より)。
短期変動金利の基準となる「短プラ」はマイナス金利導入でも据え置きが続く
短期金利の起点となる日銀の政策金利は、2006年の量的緩和政策の解除に伴って小幅に引き上げられたが、08年のリーマン・ショックで事実上のゼロ金利に戻った。やや遅れて短プラも下がり、その後はゼロ金利とともに動かなくなった格好だ。日銀がマイナス金利を導入しても短プラは据え置かれている。これは「採算を取るのが難しいほど短期金利が下がってしまった」(大手銀行)からだ。
新規顧客を獲得する際は短プラから割り引く優遇金利が適用されるが、既往の貸し出し全体の金利が下がると、限界まで圧縮された利ザヤがさらに圧迫される。経営的にも苦しくなるため、短プラは据え置いているわけだ。従って、短期変動金利は現在がボトム圏であり、これ以上下がる可能性は乏しい。日銀も基本的にマイナス金利を深掘りする考えはない。むしろ、「できれば早くマイナス金利をやめたい」との声すら聞かれる。
早い段階でマイナス金利は解除も。その際、短期変動金利も上がることも
日銀内では、マイナス金利解除の具体的な議論は行われていない。ただ、「金融機関の収益に与える悪影響が心配だ」(幹部)との声は根強い。そもそも、日銀が9月に「長短金利操作」を導入したのはマイナス金利の金融機関への打撃が大きいことを自覚したからで、今後、景気回復が続いて物価上昇が鮮明になれば、早い段階でマイナス金利は解除される可能性が高い。その際、短期変動金利も上がることはあり得る。
一方、「長期固定」の金利は足元で上昇基調となっている。住宅金融支援機構の長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の適用金利は12月、年1.1~1.65%となった。最も多くの金融機関が適用する金利(最頻金利)は年1.1%で、2カ月ぶりに上昇した。国債10年物の利回り(長期金利)など長めの金利が上昇基調となったからで、これに伴って「フラット35」の水準も切り上がった。
長期金利が上がったのは、二つの理由による。一つは、日銀の「長短金利操作」である。日銀のマイナス金利は長期金利を過度に低下させ、一時マイナス圏に落ち込んだ。これにより、金融機関の収益は深刻な打撃を受け、銀行株の下落につながった。日銀はその影響を回避すべく、マイナス圏に落ち込んだ長期金利を浮上させるため、「長短金利操作」を導入した。その影響により、長期金利は上がった。日銀の狙い通りである。
トランプ氏の政策期待が続くと日米で長期金利が上昇傾向へ
もう一つは、米国のトランプ次期大統領の経済政策への期待感から米長期金利が大幅に上昇したことだ。世界経済のグローバル化に伴って金融市場も連動しやすくなった。米国と日本の経済情勢は異なるが、金融市場は一緒に動く。米長期金利が上がれば日本の長期金利も影響を受ける。トランプ次期大統領の経済政策が期待されて米長期金利が今後も上がり続けると、日本の長期金利も同様の傾向をたどるだろう。
日銀が長期金利の過度な低下を憂慮して意図的に上昇させたこと。そしてトランプ次期米大統領への期待感から内外で長期金利が上がったこと。こう考えると、「フラット35」の金利が8月に1%を割った(上記チャート、住宅金融支援機構の資料より)のは「異常な低下だった」(先のファンドマネジャー)と受け止められ、今後は修正的に上昇するだろう。残念ながら、長期固定を最低水準で借りる局面はもはや二度と到来しないかもしれない。