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台湾に渡航の元中国軍人に懲役8か月

宮崎紀秀ジャーナリスト
台湾に侵入した直後の中国軍の元少佐(台湾の海巡署のHPより)

 今年6月、中国から小型船で台湾に渡航してきた元中国海軍の少佐に対し、台湾の裁判所は懲役8か月の有罪判決を言い渡した。

 中央通訊社など台湾メディアによれば、台湾の士林地方裁判所は18日、中国人の阮被告が必要な許可を得ずに台湾に入境したとして、入出国及び移民法違反の罪で懲役8か月の有罪判決を言い渡した。

 裁判所は判決に当たり、阮被告が台湾に侵入した後、自ら警察への通報を依頼したことや、犯行を認めていることなどを酌量したという。

 これまでの報道などによれば、阮被告は中国海軍の艦艇の艦長を務めた60歳の元少佐。今年6月8日、自ら操縦する小型船で中国の福建省を出発し、翌日、台湾の淡水河河口に侵入、台湾側に逮捕された。

 自由時報が報じた裁判の内容では、阮被告は、中国で携帯電話の中に反体制的な情報を大量に持っているのを見つけられ、出国を制限されるなどしていたという。動機について、中国に人間の尊厳がないと感じるようになり、中国から逃れようと思った、などと話すと共に、福建省の中国海軍に関する情報を提供したという。

台湾を揺るがす相次ぐ中国人の密航

 台湾では今月14日にも中国人の男がゴムボートで台湾に密航する事件が起きた。 台湾メディアが海巡署の発表などとして報じたところによれば、男は中国の浙江省出身の31歳。寧波の港から自ら船外機付きのゴムボートを操縦し、6日間をかけて台湾にたどり着いた。

 男は動機について、「中国に借金があり、台湾で新しい生活を始めたかった」などと話したという。

 この密航事件は、台湾を震撼させたと言っても過言ではない。それは、今回有罪事件を受けた元軍人の侵入から僅か3か月という短期間に、台湾の沿岸警備の脆弱さを物語る事件が相次いだ点にある。

 今年6月に元軍人の侵入を許した沿岸警備体制は、監視警戒態勢の引き締めがなされたはずだった。だが、現実には借金男のゴムボートは楽々とその警戒態勢をすり抜けてしまった。

 沿岸警備当局である海巡署は、「ゴムボートは小さすぎ、しかも航行速度が遅いか漂流していたために、レーダーで捕捉できなかった」と説明したが、中国軍の上陸や潜入を想起させるに余りあるお粗末さだったといえる。

 しかも借金男のゴムボートがたどり着いたのは、元中国軍人が侵入した地点と極めて近く、それは台北中心部まで流れる淡水河の河口付近だった。この類似点も、2つの事件が偶発的なものではなく、中国当局が台湾の海上防衛の抜け穴を探ろうとしているために意図的に仕掛けたものではないかという疑念を生じさせた。

 借金男の調べは今も続いている。だが、本当に背後に中国当局の影があるならば調べや裁判が進んだところで、真相が明らかにならない可能性もある。台湾当局は何よりも先ず、沿岸の監視警戒態勢を強化に着手する必要がありそうだ。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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