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ジェニファー・アニストンの整形疑惑に見る女性セレブの偽善とジレンマ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ザ・モーニングショー」第3シーズンに出る顔が「違っている」と言われるアニストン(写真:ロイター/アフロ)

 29年前「フレンズ」で大ブレイクして以来、同性から絶大な人気を集めてきたジェニファー・アニストンが、珍しくファンをがっかりさせている。「ザ・モーニングショー」第3シーズンに出演するアニストンが、整形手術を受けたように見えるからだ。X(旧ツイッター)には、「『ザ・モーニングショー』の新シーズンを見ているけれど、ジェニファー・アニストンの顔に耐えられない。何をしたの?美しい女性がまたもや奇妙で誰かわからなくなってしまった。情けない」「お化けみたいに見える。もう彼女を見られなくなった。前は彼女のことが大好きだったのに」などというコメントが投稿されている。

 それは一部のファンの思い込みとも言えないようで、「New York Post」の取材に応じた整形外科医サム・リズクは、「彼女は絶対に手術を受けている」と断言。おそらく、頬、目の周り、首などを若返らせるディープ・プレーン・フェイスリフトという手術だろうとも、この医師は述べる。

 整形手術は犯罪ではないし、自分のお金で自分の顔をどうしようが、本人の勝手だ。だが、整形をしないと言ったり、批判していたりしていたのに実はやっていたとわかると、嘘つき、偽善と感じられてしまうのはしかたがない。

 アニストンは過去に鼻をいじったことを認めているが、見た目のためではなく健康上の理由だったのだと言い訳をしていた。また、2015年のアメリカ版「Yahoo」へのインタビューでは、「若いままでいようとする女性たちが自分に何をするのかを私は目撃してきた。彼女らの間違いから学ばせてもらえることに感謝するわ。私はああいったものを顔に注射することはしない。彼女らを見ていて悲しくなる。もっと歳を取って見えるようになったとわからないのね、と。時間を止めようとしている自信のない人にしか見えないのに。それに、私が顔をいじろうとしたら、婚約者に銃を突きつけられると思うわ」と語っている(婚約者とは、その後彼女が結婚して離婚した相手であるジャスティン・セローのことだ)。

 今年8月、「Wall Street Journal」が掲載したロングインタビューの中で、アニストンは若さを保つのに効くと言われることはどんなものでも一度は試すと語った。エステのプロに勧められて鮭の精子のフェイシャルも試したが、一番良いのは週一度のペプチド注射だそうだ(アニストンはコラーゲンペプチドのサプリメントの会社のチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めている)。整形については触れられていないものの、これらのことに加え、エクササイズを欠かさず、ヘルシーな食生活を守っていることを強調するこの記事を読んだ人は、彼女が若々しく見えるのはこれら日々の努力のせいなのだと思うだろう。彼女としては、あっけらかんと美の秘訣を語るように見せて、そう人々に信じさせたかったのだろうが、それだけではなかったようだ。

マドンナの顔も世間を騒然とさせた

 今年2月には、マドンナがまるで変わった顔でグラミー賞授賞式の舞台に立ち、世間を騒然とさせた。それを受けてマドンナは、顔が歪んで見える望遠レンズで撮影されたせいだと言い訳をし、このように騒ぐ世の中を「女性差別、年齢差別」だと非難している。この世の中に女性差別と年齢差別があることはその通りだ。しかし、常に堂々としてきたマドンナは、望遠レンズのせいにして事実から逃げただけでなく、彼女が批判するところの女性差別、年齢差別に自ら屈したのだ。それは正直言って、とても残念だった。マドンナならば、「そうよ、整形手術をしたわよ。そのどこが悪いの?やりたければあなたもやれば良いのよ」くらい言ってほしかった。

今年のグラミー賞授賞式で舞台に立ったマドンナ
今年のグラミー賞授賞式で舞台に立ったマドンナ写真:REX/アフロ

 だが、彼女ですらそうは言えない。それだけ整形手術を受けるのは恥という認識は根強いのである。歳を取ることを受け入れ、自然に老いていくことが美徳とされるのだ。その一方で、世間、とりわけハリウッドは、本当にそうする女性に対して厳しい。ハリソン・フォード、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノなど、男性は70代、80代になっても主役を張れるが、そう遠くない昔、女優は40歳になったらキャリアは終わりと言われた。

 今ではアニストン(54)のほかに、サンドラ・ブロック(59)、ジュリア・ロバーツ(55)、ニコール・キッドマン(56)など、50代でも活躍し続ける人気女優はいる。しかし、彼女らはみんな、若い頃と同じ体型、同じ肌を必死になって保っている。だからこそ役がもらえているのだとわかっているのだ。男性スターはちょっと太ったり、白髪になったり、禿げたりしてもあまり関係ないが、女性はそうではない。仕事を取り続ける手段として美容整形に手を出すこともある。ハル・ベリーは、過去に「周りがみんなやっているから、この業界で生き延びるためには自分もやるべきかしらと考えてしまうもの。その思いが私の頭をよぎることはない、とは言えない。いつも誰かから『ここをもうちょっとこうやればずいぶん良くなるわよ』なんて言われるし」と語っている。

 そう、バレるかバレないかの違いで、整形手術はハリウッドスターの間で決して珍しいものではないのだ。7月なかばに俳優のストライキが始まって以来、美容整形外科医が大繁盛だという報道もある。撮影現場に戻れるまで時間があるから、この機会にやっておこうということだろう。ストライキが終わってまた新作がどんどん出るようになったら、「あれ、この人、前とちょっと違う」と思うことも出てくるのかもしれない。そんな時のためにも、セレブは整形批判を控えたほうがいい。余計なことを言うと、後で返ってくる。ジェニファー・アニストンは、今、ひしひしとそれを感じているのではないだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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