松田馨著『残念な政治家を選ばない技術 「選挙リテラシー入門」』(光文社)書評
松田馨さんの新著で、初めての単著『残念な政治家を選ばない技術 「選挙リテラシー入門」』(光文社)をご恵贈いただきました。ありがとうございました。ですが、仕事柄、松田さんにいただく前にすでに手にとって、興味深く拝読させていただいていました。というのも、今回の参院選は投票年齢の18歳への引き下げ、いわゆる「18歳選挙権」の導入で、「若者×政治」「わかりやすい政治入門」といった類書が大量に出版されています。民主主義や選挙制度の普及啓発過程(政治的社会)も研究テーマのひとつなので、それなりに手にとって読んだからです。しかしどの本も、軒並み似たような内容です。いろいろなデータが並んだあとで、結論としては概ね「難しいことは考えていないからor大人も考えていないから、若者も気軽に投票にいこう」とまとめられています。「ああ、18歳選挙権のために急いで作ったのね」と自分のことは棚にあげれば、いえてしまいそうです。
そのなかで、松田さんの主張はちょっと違うスタンスをとっています。それどころか、そのようなメッセージは大半の生活者には届かないのだというところから出発します。ぼくも常日頃同種のことを思い、書いたりしていますが、あまり共感は得られていないようです。それを、選挙プランナーという選挙のプロがいうと説得力が出てきます。そして松田さんは同時に政治家の側も有権者のことを十分に理解できておらず、現状を見極めて両者の対話の回路を作るところが重要だと説きます。このような出発点にたつ、選挙リテラシーの本は管見の限り、ほとんどありません。またぼくのような研究者とは異なり、現場の酸いも甘いも詳細に知り尽くしている松田さんが書くことによるリアリティは相当のものがあります。事実、自身が関わってきた具体的な事例も豊富に出てきます。さらにいえば、松田さんは自分は選挙のプロであって、選挙や政治を教えるプロではないから、選挙や政治の込み入った話はしないと書きますが、基本的に選挙を理解するために必要な道具立ては一通り、しかもとてもわかりやすく提供されています。
唯一、違和を覚えるのは、松田さんも関わった、前の東京都知事選の泡沫候補のケースです。全体的にこの章だけ自己弁護的に読めてしまう。しいて言えば、大半の読者にとって不必要な情報なので、割愛して、本の分量を減らして、もともと最近の新書のなかでは安価な部類に入る740円+税という安価な値段設定をさらに安くしたほうが本書は届くべき読者に届いた気がしなくもありません。その点を除けば大変良質で、ユニークな選挙入門書と思います。
少しは知っている松田さんの人となりは、ぼくからすると、とても不思議な人です。「選挙プランナー」という肩書すると、ごりごりの豪腕コンサルタントが想起されますが、大変柔和で、しかも本書でも言及されるとおり、負けるとわかっていても、たとえそれが仕事だとしてもコミットするある種の優しさが満ち溢れた人です。先の都知事選の章もそのように読めば、松田さんという著者を知るためにあると思えばよいのかもしれません。選挙が終われば、そのうち情報交換させていただくこともあるでしょうか。そんな日を楽しみにしながら、一読した書評を書かせていただきました。