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甲子園で、こんな対戦があったのか! プロ野球選手の意外な高校時代①

楊順行スポーツライター
(写真:岡沢克郎/アフロ)

 いま取材中の甲子園。同じく、取材に訪れているのが松坂大輔さんだ。1998年に春夏連覇した横浜(神奈川)のエース。その「松坂世代」で、日本のプロ野球に在籍した選手は、94人に及ぶ。その年に松坂が対戦しただけでも、東福岡・村田修一(のち横浜ほか)ら、何人もがいる。このほかにも、たとえば2009年の夏には菊池雄星(当時花巻東・現アストロズ)と今宮健太(当時明豊・現ソフトバンク)が投げ合っていたり、12年のセンバツでは大谷翔平(当時花巻東・現ドジャース)が藤浪晋太郎(当時大阪桐蔭・元メッツほか)からホームランを打ったり、一流選手同士が甲子園で印象的な対決をしたのは数多い。調べてみると高校時代には、けっこう意外な対戦がある。

田嶋大樹VS岡本和真!

 たとえば、14年のセンバツ。2回戦では、佐野日大の大会No.1左腕・田嶋大樹(現オリックス)と、智弁学園のスラッガー・岡本和真(現巨人)という注目の対決が実現している。田嶋は初戦、鎮西を5安打12三振で完封。前年秋の関東大会で左足首を負傷した影響で、下半身のトレーニング不足が懸念されたが、その秋の公式戦防御率0・49はダテじゃない。岡本は三重との初戦、第1打席でバックスクリーンへ先制弾をお見舞いすると、3打席目も柔らかいリストでレフトに運ぶ。清原和博、松井秀喜ら、歴代のスラッガーに肩を並べる1試合2本塁打だった。

 試合では佐野日大が1点を先制し、智弁が追いついた4回には日大が3点を勝ち越し、6回に智弁が1点。そこまでの岡本は3打席凡退と、田嶋に軍配が上がっている。だが、8回の智弁。岡本のヒットなど5安打を集めて同点に追いつくと、9回にはなんと岡本がマウンドに上がり、三者凡退で延長に持ち込んでいる。そして10回の智弁は、先頭の岡本が死球で出るも無得点。その裏の日大は、ヒットと四球、犠打野選で無死満塁の大チャンスだ。ここは"投手"岡本が「開き直った」という連続三振で2死とするが、次打者がストレートを三遊間にはじき返し、サヨナラ決着となった。つまり、勝ち投手田嶋、負け投手岡本という結末だ。"打者"岡本は、4打数1安打2三振だった。6回に田嶋から喫した三振は、「ブルペンではよくなかったが、試合中によくなった」(田嶋)という135キロの真っ直ぐを空振りしたもの。ちなみに、田嶋から二塁打した智弁の2年生一番・廣岡大志はいま、田嶋とはオリックスのチームメイトだ。

今井達也VS早川隆久!

 夏なら、16年。木更津総合の早川隆久(現楽天)は、広島新庄・堀瑞輝(現日本ハム)との投手戦など、2試合を完封して勝ち上がり、次は作新学院と対戦した。早川の連続無失点を止めたのは、エースの座を今井達也(現西武)に譲った入江大生(現DeNA)のバットだ。初回、高めの速球を左中間スタンドへ。入江はこれで、大会7人目となる3試合連続ホームランだった。作新は3回にも、山ノ井隆雅がライトに2ランしており、「どれだけ丁寧にアウトコースをつけるか」と話していた早川の投球が、左打者に対して、やや変化球のコースが甘くなった。

 対する今井は、140キロ代後半の速球に多彩な変化球を交え、3回まで無安打4三振。6回終了時点でも3安打で、得点を許さない。7月に練習試合で対戦した木更津総合の五島卓道監督によると、「当時の今井はまだ球がばらつき、ウチもホームランなどで点を取りました。それがここに来て、まるで別人のような変わり方です」。確かに今井は、5安打13三振で尽誠学園を完封した初戦など、真っ直ぐに加えてカットボール、スライダーなどのキレが抜群だった。

 7回には,先頭への四球から1点を与えたが、9回には自己最速に並ぶ152キロをマークして1失点完投。「(栃木大会の)6連覇を目ざし、シャドウピッチングなら600回、腹筋なら60回を6セットと6にこだわってきた」ことで蓄積したスタミナも見せつけている。チームは、なんと54年ぶりに夏を制覇。5試合計41回と、ほぼ一人で投げ抜いた今井の失点はトータルでわずか「6」だった。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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