シェール革命とベネズエラ反政府デモの不思議な関係
南米のベネズエラで反政府デモが活発化している。首都カラカスでは反政府派指導者が穏健・平和的なデモを呼びかけているが、反体制派の民衆は幹線道路を封鎖しており、週明けから交通網が麻痺するなど、政治的のみならず経済的にも大きな混乱が確認されている。
反米左翼のマドゥロ政権は、メディアが反政府デモを煽ったとしてCNNの取材許可証を剥奪するなど迷走を見せている。しかし、こうした反政府デモの底流にあるのは高インフレ率(公式統計では前年比+56.3%)を筆頭とした経済的な混乱に対する不満であり、報道規制で簡単に解決するような問題ではない。チャベス前大統領時代はばら撒き的な政策で強引に国民の不満を封じ込めてきたが、そのような政策が永久に持続でできるはずはなく、経済改革を求める市場の圧力が反政府デモという形で先鋭化しているのが、ここ数週間の動きだと考えている。
ベネズエラは南米では唯一の石油輸出国機構(OPEC)加盟国であり、本来であれば経済危機とは無縁であるはずだ。同国の産油能力は日量290万バレルと推計されており、これはアラブ首長国連邦(UAE、290万バレル)やイラン(300万バレル)、クウェート(320万バレル)などに匹敵する主要産油国である。
いくら公共支出を賄うために紙幣増刷を行っているとは言え、外貨収入の96%を稼ぎ出す国営石油会社PDVSAが国内(政府)にドルを注入し続ければ、少なくともリスクが顕在化することを先送り、ないしは回避することも可能なはずだった。特に、原油価格が2008年以来の高値水準に到達する中、逆に原油売却収入で国庫が潤っていても何ら不思議ではない状況にある。
■反米でも高い米国依存度の矛盾
しかし、ここで刺客になったのが、米国の「シェール革命」が天然ガスに続いて石油分野にも波及し始めたことだった。
ベネズエラ指導部は反米的なスタンスを隠していないが、その一方で同国産原油はその40%(2011年、EIA調べ)が米国向けに輸出される矛盾した状況にある。これまで、米国はベネズエラの反米政策に強い不満を抱きながらも、同国製油所が必要とする重質油の貴重な調達先として、ベネズエラと切っても切れない腐れ縁的な関係を維持してきた。
しかし、12年後半からシェールオイルの本格開発に成功すると、対外エネルギー依存度を削減する動きを強めており、ナイジェリアやアルジェリアなどと同様に、ベネズエラ産原油も米国にとっては石油輸入量の削減対象になっている。もともと、ベネズエラ依存へのリスク対応から米国のベネズエラ産原油輸入量は緩やかな減少傾向にあったが、それでも日量100万バレル前後の輸入が継続されていた。しかし、13年は2月に一時60万バレルまで輸入量が削減されるなど、明らかなベネズエラ離れと言える動きが観測されている。
もちろん、ベネズエラ側も中国資本の導入などで新たな輸出先の開拓を急いだが、政府内では民間資本(特に外国資本)の導入で利権構造が崩れることに強い警戒感があり、必要な資金を調達することも、米国の代替輸出先を確保することにも失敗している。仮に代替輸出先を探し出しても、アジア市場は地球の裏側であり、輸送コストなどを考慮すれば、売却価格のディスカウントを求められるのは必至である。
ただでさえ、米連邦準備制度理事会(FRB)がドル供給の蛇口を絞る中、新興国は対外資金調達の観点から厳しい経済環境に置かれている。隣国のアルゼンチンでも、年初から通貨急落など、コントロール不能の状況に陥っていることは大きく報道されている。
ベネズエラに関しては、それに加えて「シェール革命」もボディーブローになった形であり、中央銀行と政府による秩序なき政策のツケを支払う局面に直面している。対外金融債務の支払いも疑問視され始める中、ドルの送金規制など小手先の政策対応で危機を乗り切れる時期は終わっている。ベネズエラの政治家が、自らの利益よりも国益を考えられるのか、重要な分岐点に差し掛かっている。
なお、ベネズエラは367.6トンの金準備を保有している。これは、世界16位(国際機関を含む)の規模である。同国は、ロンドンなどに保管されていた金準備を自国内に取り戻すいわゆるレパトリを行ったばかりだが、金準備売却という最後のカードを切る時期も近づいているのかもしれない。