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「一瞬の隙」で片付けられぬホームでの苦杯/レノファ山口(J2第10節)

上田真之介ライター/エディター
失点は一瞬の隙だった(筆者撮影。この記事の他の写真も)

 J2レノファ山口FCは4月25日、維新みらいふスタジアム(山口市)で京都サンガF.C.と対戦し、0-2で敗れた。フォーメーションを変更して臨んだ試合だったが、失点の時間帯が悪く、攻撃も結実しなかった。順位は降格圏内の20位。

 試合は山口市で行われたが、京都府への緊急事態宣言発出にともない、アウェー側のゴール裏観客席を設置せずに行われた。

明治安田生命J2リーグ第10節◇レノファ山口FC 0-2 京都サンガF.C.【得点者】京都=松田天馬(前半27分)、宮吉拓実(後半1分)【入場者数】2946人【会場】維新みらいふスタジアム

 レノファは前節から先発を大きく入れ替え、眞鍋旭輝、神垣陸、河野孝汰、梅木翼が今シーズン初スタメン。スタートのシステムも変更し、最終ラインを3バックにして臨んだ。

3バックは機能するが…

 試合序盤から先手を取ったのはレノファだった。中3日でシステムと顔ぶれを変えたホームチームが、フィジカルに上回る相手の個の力を抑えることに成功する。渡部博文、石川啓人、眞鍋を並べた3バックが役割を分担し、相手FWのピーター・ウタカを確実に制限。「絶対に何もさせないぞという気持ちで挑んだ」(眞鍋)という初先発組のモチベーションの高さも味方した。

 強烈な個の力に対応するには最善の策だった。守備に力を使う分だけ、レノファ自身が使う攻撃のパワーがしぼんだのも事実だが、無失点で試合を進められれば、好調の相手から結果を手にできるかもしれない――。

 ところが、思惑はいとも簡単に崩壊する。

 「やられてはいけないタイミングだったことには違いがない。そこで隙を与えてしまえば、昇格を目指して勢いに乗っているチームにはやられてしまう」(渡邉晋監督)

 流れが相手に渡っていたわけではなかった。しかし、前半24分台に入った飲水タイムが同26分24秒に解けると、その直後にするすると相手にボールをゴール前まで運ばれ、ピーター・ウタカのクロスから松田天馬のヘディングシュートを被弾する(冒頭の写真)。痛恨の失点だった。

 「クロスのときにポケットが空く。そこに入っていけたのが点につながった」とはゴールの松田。京都はレノファのプレスが緩くなった一瞬の隙を突いてゴールを引き寄せ、レノファは逆に簡単に失点。早くも1点を追いかける展開となってしまう。

前線でハイボールに飛び付く梅木翼。前半のチャンスは少なかった
前線でハイボールに飛び付く梅木翼。前半のチャンスは少なかった

 動いたスコアは、飲水タイムまでは目を向けなくてもよかった問題を、明るみへと引っ張り出した。

 0-1になったことで、相手のストロングポイントを抑えて無失点で試合を進めるという状況ではなくなった。レノファは得点を取り返すために、明確にゴールに向かわなければならなくなった。だが、そのスイッチがなかなか入らなかったのだ。

 ボールは持っていたが、自陣から相手陣地へと向かうパスや、相手陣地の低い位置からシュートゾーンへと付けるパスが出ず、FWも脚を振れなかった。中3日という短い期間でのフォーメーション変更も一因にあるだろう。ボールホルダーが受け手を探すなどして球離れが悪く、攻撃スピードは上がらなかった。

リスタート直後を狙われた2失点

 後半の立ち上がりでもわずか18秒で失点する。ピーター・ウタカのシュートのこぼれ球に詰めた宮吉拓実がゴールへと流し込み、0-2。今のレノファにとって、勝ち点が得られないこととほぼ同義の2点差にギャップは広がった。決して京都に主導権があるような展開ではなかったが、飲水タイム直後と後半開始直後に喫した失点は大きな陰を落とす。

 それからの時間帯でも起きた現象は前半と同じだった。つまり、後半27分に島屋八徳と浮田健誠が投入されるまでは、相手のプレスに苦しんだり、自分たちの内側から起きる現象にとらわれて、得点を取り返す迫力を出せなかった。

 島屋、浮田、田中陸などがピッチに立つと、彼らの連係から決定機を創出。ただ、同32分に島屋が放ったループ気味のシュートは相手GKの好セーブに阻まれ、浮田が入れたアーリークロスからの攻撃も枠を捉えられなかった。もう少し時間があれば、ようやく出せた迫力がゴールに結びついたかもしれないが、レノファらしさを文字通り垣間見る程度の15分間では、試合を確実に閉じようとする京都にあらがうのは難しかった。そのままのスコアで試合は終幕する。

浮田健誠はクロスからチャンスメーク
浮田健誠はクロスからチャンスメーク

 歯がゆさが残る試合だ。2点を追うチームは、後半のほとんどをゴールに向かうためにエネルギーを注ぐことができた。ましてや相手は3位にいる格上のチーム。挑まずして勝てるとすれば、それは偶然の産物でしかない。3連戦の最終日であったとしても、自分たちに遂行すべきサッカーの形があったとしても、どこかで壊してゴールへと挑まなければならなかった。

 もちろん、試合を通して見れば内容面ではレノファに軍配が上がる。フォーメーションを変えて臨んだレノファが先手を取り、ボールを握ると同時に、相手のストロングが引き出されるのを拒んだ。J1でも対戦が多かった渡邉晋監督とチョウ・キジェ(曺貴裁)監督(京都)の腹の探り合いは、先んじて手を打った渡邉監督が「内容」という勝負では先取した。

 しかし、「結果」を出したのは京都だ。アウェーチームから見れば我慢の展開となるが、前後半の飲水タイムとハーフタイムを使って落ち着いて対応。状況を整理し、フォーメーションを変更した相手の狙いをひっくり返した。

 「自分たちが用意してきたものとは違う状況に選手たちが自立して対応してくれた。その中で崩れずに自分たちの色を出し、2点を取って、失点もゼロで抑えられたことに、彼らの成長を感じる」(チョウ監督)

 スコアは内容を示さないが、内容も数字を動かしてくれるとは限らない。島屋は試合後、「試合の前半の入りから僕らがボールを握り、うまく相手を惑わせて、いい展開でゲームを進められていただけに、ちょっとした隙で失点につながったのはもったいない」と話し、次のように語って危機感を示した。

 「土台がないと上積みしてもすぐに崩れてしまう。その部分を大事にしながら、ここからはより結果を求めていかないといけないタイミングに入ってくる」

前線でボールを動かす島屋八徳(右)
前線でボールを動かす島屋八徳(右)

「内容」と「結果」の一致へ

 土台を築く作業と結果を出す作業は必ずしも同じではないが、土台を築かなければ未来がないのは誰もが分かることだ。だからこそ、キックオフの瞬間から自分たちの目指すスタイルを捨て、変に守りに入ったり、形を捨ててゴールに猛進してしまっては元も子もない。

 ただ、今シーズンは4チームが降格の憂き目に会うということを考えれば、やはり結果を求めねばならないし、コロナ禍の日曜日に時間を割いてスタジアムに足を運ぶサポーターには、負けてなお爪痕を残せるサッカーを見せなければならない。難しいバランスだが、ホームスタジアムは勝つ場所であり、挑む場所だ。ここにはどんなことがあっても応援する人たちがいる。彼らに報いるサッカーを届けていきたい。

試合後、京都は無人の観客席に向けて勝利を報告。レノファのメンバーはうなだれたままゴールの前を通り過ぎた
試合後、京都は無人の観客席に向けて勝利を報告。レノファのメンバーはうなだれたままゴールの前を通り過ぎた

 来週以降はまた連戦となり、5月2日に敵地でFC町田ゼルビアと対戦する。この試合は無観客(リモートマッチ)で開催される見通し。次のホーム戦は同5日で、ジェフユナイテッド千葉と維新みらいふスタジアムで対戦する。(情報は4月26日時点のものであり、ホーム戦、アウェー戦ともに観客席の設定などは変更される場合がある)

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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