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戦時中の芸術表現とは? 東京都現代美術館で、戦争画に想を得た新作を発表した藤井光が語る

新川貴詩美術/舞台芸術ジャーナリスト
藤井光《日本の戦争画》 2022 photo Shinkawa Takashi

 ロシアとウクライナの戦争が激化する中、目下、東京都現代美術館で戦争画に関する展示が行われている。

 戦争画(戦争記録画)とは、日中戦争から第二次世界大戦にかけて、日本軍の委嘱により、100人近くの画家たちが戦意高揚のために制作した絵画のこと。やがて戦後、戦争画はアメリカに接収された。

 だが、次第に返還を求める声が高まり、1970年に「無期限貸与」とかいう、「何、それ?」といったあいまいな形で153点が戻ってきた。なお現在は、東京国立近代美術館の常設展で一部が公開されている。

かつては東京大空襲を扱い、今回は戦争画を取り上げる

 その戦争画を題材にした藤井光による作品が発表された。東京都現代美術館で開催中の「Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022 受賞記念展」でのことだ。

 なお、6年前に藤井は同じ東京都現代美術館で作品「爆撃の記録」を発表したことがある(「MOTアニュアル2016 キセイノセイキ」展にて)。こちらは、東京大空襲を題材にした作品だ。

 空襲と戦争画──当然、この二つの作品は重なり合うところがある。今回、戦争画を扱った背景について、藤井に聞いてみた。

藤井光は1976年、東京生まれ。photo Shinkawa Takashi
藤井光は1976年、東京生まれ。photo Shinkawa Takashi

藤井 戦争画を扱おうという構想はけっこう前からあった。たぶん「爆撃の記録」の少し後くらいに思いついた。「いつか扱いたい」というより、ある意味、必然を感じてて。東京都現代美術館で空襲を扱うのもほぼ必然だった。被害が甚大だった深川にある美術館だし。で、今回は東京都が関わる賞の受賞記念展で、じゃあ行政がらみの受賞記念展で何を見せようか、見せるべきかと考えたとき、戦争画に行き着いて。

 今回の展示では、返還された戦争画に基づいて展示。だが、展示を見てもどんな絵なのかさっぱりわからない。戦争画を実寸大で再制作するも、冒頭の画像のとおり、梱包材などで覆われたり、単純な画面だったりするからだ。

「美術の施工業者や運送会社が廃棄した資材や梱包材とかをかき集めて作った。実はエコでありSDGsでもある」と、藤井は笑うが、注目したいのは次の言葉だ。

藤井 見えるものと見えないものがある。見えないものを想像してほしい。

戦争画は芸術作品なのか、あるいはプロパガンダなのか?

 会場には、平面とともに作者名と作品名、サイズなどが記されたキャプションを展示。藤田嗣治「アッツ島玉砕」や小磯良平「カリジャティ会見図」などといった文字が手がかりだ。

 それにしても、どの作品もデカい。絵が見えないぶん、デカさがいちだんと際立つ。

藤井 (見せたかったのは)個々の作品の大きさだけではない。1946年に上野の東京都美術館で占領軍関係者だけが入場できる戦争画の展覧会を12日間だけ開いたんだけど、ひとつの作品の大きさだけでなく全部が一堂に集まったときのスケールを示したかった。

 なお、その展覧会の後、戦争画は東京都美術館で5年もの間、放ったらかしにされた。

藤井 戦争画は芸術作品なのか、あるいはプロパガンダなのか? もし芸術作品だとしたらアメリカは文化財として保存しなくてはならない。プロパガンダであれば占領政策に反するから破棄すべき。それとも戦利品なら連合国間で分配することとなる。でも結論はうやむやのまま、やがて「無期限貸与」で戻ってきて。戦争画を巡る問題は、いつもあいまい。

 空襲や戦争というと、どうしても過去の出来事ととらえられがちだ。だが2022年のいま、そんなこと言ってられない事態を迎えた。

藤井 これまで、国の歴史とかナショナリズムに起因する社会の問題を題材に作品の制作を続けてきた。それらは、つねにアクチュアルな現在の問題。だから今後もこうした制作を続けていくつもり。

藤井光《日本の戦争画》 2022 photo Shinkawa Takashi
藤井光《日本の戦争画》 2022 photo Shinkawa Takashi

Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022 受賞記念展

会期:2022年3月19日(土)〜6月19日(日)

   月曜休館

時間:10時〜18時

会場:東京都現代美術館 企画展示室3F

料金:無料

出展作家:藤井光、山城知佳子

主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 トーキョーアーツアンドスペース・東京都現代美術館

美術/舞台芸術ジャーナリスト

出版社に勤務した後、執筆活動を開始。国内外の現代アートをはじめ演劇やダンスなど舞台芸術に関して、雑誌や新聞、ウェブメディアなどに執筆。主な著書に『残像にインストール 舞台美術という表現』(光琳社出版)、主な編書に『蓬莱山 蔡國強と大地の芸術祭の15年』(現代企画室)などがある。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院情報通信専攻修了。多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科非常勤講師。プロフィール画像撮影:松蔭浩之

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