<ガンバ大阪・定期便50>遠藤保仁から宇佐美貴史へ。気持ちが通じ合って受け継がれた『7』。
■『7』に見合う自分になろうとすることで成長を求める。
今シーズンをスタートするにあたり、新たな背番号をつけることになった宇佐美貴史は『7』に対する決意を熱く言葉に変えた。
「長くガンバでこの番号を背負ってきたヤットさん(遠藤保仁/ジュビロ磐田)へのリスペクトの思いから、7番を誰でもつけられる番号にはしたくなかったというか。ヤットさんの『7』の歴史をつぶさに見てきた自分が背負うことで、ヤットさんがこれまで築いてきたくれたガンバの歴史、偉大な功績を受け継ぎながら『7』を意味のある番号にしていきたいと思いました。ガンバにとっての『7』は、サッカーが巧いとかキャリアがある、ってだけじゃなく、クラブへの想いが強いとか、サポーターにも信頼されているとか、いろんなドレスコードが必要だよというイメージを作っていけたらいいなと思っています。また、ユニフォームサプライヤーが今年、アンブロからヒュンメルに切り替わるタイミングだった中で、ヤットさんがアンブロの7の歴史を築いてくれたので、僕はヒュンメルの7の歴史をしっかり作り上げていきたいという思いもありました(宇佐美)」
昨年のシーズン終盤。右アキレス腱断裂により長く戦列を離れていた彼が、残り4試合となったところでチームに復帰していくにあたって考えていたことだったという。
「残留争いにどっぷり足を突っ込んだ、どん底の状態にあったガンバを、自分に向けられる期待もプレッシャーも全部、引き受けた上で残留させられたら、少しは自分の力を信じてもいいんじゃないか、と思っていました(宇佐美)」
加えて、その終盤戦の戦いを通して、改めて自身に重めのプレッシャーを課すことで『居心地の悪さ』を感じながら戦うことの必要性を実感したのも理由だった。
「ガンバは僕にとってすごく居心地がいいクラブ。アカデミー時代からここで育って、プロになり、僕自身もこのクラブが大好きだし、おそらくクラブからも必要な存在だと思ってもらえている。手前味噌ながらサポーターとも相思相愛の関係にあると自負しています。ただ、そういう居心地の良さって、選手にとっては成長のブレーキになってしまうこともある、とても危ないものだと思うんです。だからこそ、近年は特にこのクラブにいながらも『居心地の悪さ』を自分に作り出さなければいけないんじゃないかと考えていました。実際、今の僕があるのも、『飛び級』という居心地の悪い環境に育てられたからというか。身の丈にはあっていない環境に放り込まれ、先輩に気を遣ったり、どうすればうまくプレーできるのかを考えたりしながら、居心地の悪さの中でも身の丈に合う自分を求めてきたことで、成長することができた。それは『7』も同じで…ヤットさんがガンバで残してきた功績を考えれば、今の僕はまだサイズのあっていないブカブカの洋服を着ているようなもんですけど、そこに自分を合わせていこうとすることで見出せる成長があるんじゃないかと考えました(宇佐美)」
結果的にチームが最終節でJ1残留を決められたことにも背中を押され、宇佐美は食事の席で遠藤に思いを打ち明けたという。当初は先に書いたような自分の『7』に対する思いや、つけたいと思うに至った経緯をしっかりと説明しようと考えていたそうだが、遠藤の性格を考慮し、敢えてフランクに話せるタイミングを選んだ。
「いろいろ考えているうちに、ヤットさんの性格的に僕の考えていることなんて興味ないよなって思い直し(笑)、焼肉を食べに行った時に伝えました。オフでお酒も入っていたので、出来るだけ酔いが回らないうちに早めにと思って、食事が始まって最初の方に…タンを焼いている最中に『来年から僕が7をつけていいですか?』と尋ねたら『いいよー』と返ってきて…で、終わりです。次の瞬間にはアッサリ、違う話題に飛んでいました(笑)。ワールドカップ・カタール大会の最中で、どこが優勝するとか、そんな話で盛り上がっていて、空気のように背番号の話は流れていきました。僕としてもおそらくこの3文字が返ってくる気がしていたけど、まさにビンゴでした!(宇佐美)」
■遠藤保仁の「いいよー」に込めた想い。
ほんの一瞬のことだったとはいえ、その時のことを遠藤もよく覚えているという。もっとも「え? タンやった?!」と遠藤。すぐさま「そこじゃないな」と真顔に戻り「実は僕も貴史くらいしかいないんじゃないかと思っていた」と言葉を続けた。
「基本的に僕自身は番号にこだわりがないタイプだけど、さすがにガンバに20年以上在籍して、そのほとんどの時間で背負ってきた番号となればどうしても僕のイメージが強いというか。10年くらい空き番号になっていたら話が違ってくるかもだけど、まだ2年強ではサポーターの皆さんの間でも7番=僕ってイメージが残っている気がするな、と。だからこそ、他の選手がつけづらいんじゃないかと思っていたし、かと言って、一緒にプレーした選手に…例えば瑠(高尾)に『7をつけろ』と言ったところで断られそうだし(笑)、秋はフタ(二川孝広)から受け継いだ『10』を背負っているし、ヒガシ(東口順昭)やハル(藤春廣輝)もそれぞれ定着した番号があるな、と。そう考ると…これは消去法ということじゃなくて、貴史しかいないだろうなって勝手に想像していた。というのも貴史は今、在籍している選手の中でも1〜2を争うくらいクラブを想う気持ちが強い選手だし、背番号を抜きにしても誰もが『ガンバ=宇佐美』というくらい認められた存在でもある。その貴史が背負えば、一番スムーズに7番の新しい歴史が作られるだろうな、と思った。と言っても貴史にも自分の考えがあるだろうし、7番は僕の所有物ではないと考えてもそれを自分から言うのも違う気がしたから、まぁ好きにして、って思っていたら(笑)、貴史からそんな話を振られて、いいよー、と。そういう意味では心から出た言葉でした。もっとも、サッカー選手は背番号でプレーするわけじゃないし、貴史もきっとそう思っているはずだから。貴史は今のまま、自分らしくあって欲しいし、その結果として、7番がガンバの歴史の中で重みのある番号になっていけばいいなって思う。で、ゆくゆくはガンバで育ったアカデミー出身の選手に受け継いでいってもらえたら嬉しいかな。10番がフタから秋に受け継がれたみたいに(遠藤)」
遠藤に取材をした日が、ちょうど宇佐美のキャプテン就任が発表された日だったこともあり、そのことも伝えると「貴史にとってもいいタイミングなんじゃないかな」と返ってきた。
「貴史も今年で31歳で、年齢的にも自分に刺激を入れたい、って気持ちはすごくわかるし、チームの年齢層を考えても、また本人とってベストなタイミングだった気がする。貴史をリスペクトしている後輩も多いはずだし、(貴史より)年上の日本人選手もヒガシと秋くらいだろうけど…この二人とは普段からよく話している間柄だから相談もしやすいと思うしね。…あ! ハルがいた! まぁ、ハルに相談することはまずないだろうから、忘れていてもいっか(笑)(遠藤)」
■キャプテンとしての決意。「みんなでチームを作っていく」。
そんな遠藤の読み通り「間違いなく…ハルくんには相談しないやろな(笑)」と前置きした宇佐美は、改めてキャプテン就任についての思いも聞かせてくれた。
「仮にキャプテンではなくても、チームを引っ張っていくというか、リーダーシップをとっていかないといけない年齢ですから。そういう振る舞いをしていこうと思っていたので、やるべきこと、姿勢はそんな変える必要はないと思っています。強いていうなら、誰かに声をかけるタイミングとか、どんな声をかけるのかということは少し意識するようになったくらい。自分が先頭に立ってというよりは、仲間の力も借りながら、助け合いながら、みんなでチームを作っていけばいいと思っています。ただ、仮に結果が出なければ矢面に立って批判にさらされる覚悟はできているけど(宇佐美)」
その「チームみんなで」の思いがあったからか、2月7日の公開練習後、サポーターを前に選手、スタッフを代表して挨拶に立ったのは、宇佐美ではなくベガルタ仙台への期限付き移籍から復帰した佐藤瑶大だった。宇佐美が仕組んだという。
「瑶大はしばらくガンバを離れていたし、昨年の終盤は公開練習が行われていたってことも知らんやろうからグダグダな挨拶になりそうやなって思って瑶大に言わせたら、案の定グダグダになって狙い通りでした(笑)。僕なりに、あの瞬間はしっかりした挨拶ができる選手より、見ている人がクスッと笑えるくらいの、ちょっとグダついた方が面白い気がしていたんですけど、案の定いい感じになって、良かったです(宇佐美)」
とはいえ、この日のトレーニングでは、アップ中こそ明るい声を張り上げてチームを盛り上げていたものの、トレーニングが進むにつれてピリッとした空気を漂わせていた宇佐美。敢えて緩急のある雰囲気を心掛けているのだろうか。
「残念ながら、そんな深くはないです(笑)! ただ、僕自身がいい緊張感で日々のトレーニングに向き合えているのは間違いないです。監督には『ピッチで他の選手がプレーの判断を迷ったら僕の考えを貴史が代弁して欲しい』と言われているけど、イコール、僕がそもそも理解を誤ったら伝わるものも伝わらないですしね。誰よりも監督の戦術を理解して、誰よりも練習の意図を理解していないといけないって思っている分、監督の話もめちゃめちゃしっかり聞いているし(笑)、そういう目配り? みたいなことはよくしているかも。それに、監督もキャンプから一貫して『今、やっていることは絶対に曲げない』とか『仮にうまくいない時期があっても、やっていることをよくしていく以外の選択肢はない』と伝えてくれているので。それに対して選手もトライ&エラーを繰り返しながらみんなでこのサッカーを成長させていこうって空気も生まれている。だからこそ今はとにかく監督を信じて、開幕に向けてその空気をより大きなものにしながら、最終的には監督の理想とするサッカーをピッチで体現できるようにみんなで同じ方向を向いて準備を続けていくだけだと思っています(宇佐美)」
思えば、宇佐美は小学生時代に所属した長岡京SSでも7番を背負ってプレーしている。当時、彼が憧れてやまなかった6つ上の先輩、家長昭博(川崎フロンターレ)がつけたことでチームのエース番号になり、その背中を追いかけたからだ。あれから月日は流れ、プロサッカー選手として15年目のシーズンを迎えた今年、彼は再び、自身の原点ともいうべき番号を背負う。「自分がこれを目指したいと思う時にはいつも『7』の背中があった」と話す彼は、その番号を背に、キャプテンとしてどんな覚悟を示すのか。個人的にも、チームとしても苦しんだ昨シーズンを、いかに力に変えるのか。それはきっと、今シーズンのピッチで確認できる。