日本アカデミー賞の着こなしを解説 私たちも使える小技と服選び
「第45回日本アカデミー賞」の授賞式に華やかな晴れ姿が集まりました。レッドカーペットで披露された、日本の今を代表するトップ俳優たちの装いには、最新のおしゃれ傾向やアレンジ技が反映されています。大事なシーンでの着こなしのお手本にもなりそうです。
今年はフォーマルを適度に崩したり、小物で華やがせたりするなど、どこかに自分らしさやメッセージをプラスしていたところが印象的です。華やかでありながら、節度も感じさせる絶妙なスタイリングです。ウクライナ侵攻が続いているのに加え、「3.11」に開催されたこともあってか、様々な思いが詰まった着こなしが披露されました。以下に主要各賞の受賞者ルックを解説します。
優秀主演女優賞は天海祐希さん(『老後の資金がありません!』)、有村架純さん(『花束みたいな恋をした』)、永野芽郁さん(『そして、バトンは渡された』)、松岡茉優さん(『騙し絵の牙』)、吉永小百合さん(『いのちの停車場』)が選ばれました(50音順)。
シアー素材と斬新フォルムで、意外感のある新エレガンス
最優秀主演女優賞を受賞した有村架純さん(『花束みたいな恋をした』)はレッドカーペットでは珍しい、変形トレンチコート風のドレス風ジレを着用。スリーブレスの斬新フォルムで軽やかに仕上げられています。ほんのり透けるシアーな風合いと、透明感のあるホワイトカラーが清らかなイメージを漂わせていました。トレンチコートという、カッチリしたメンズ風テイストに、妖精のような透けるシアー素材をミックス。春夏トレンドの透ける素材、大きな襟が普段の着こなしにも生かせそうです。
ジェンダーレスなパンツルック、ドレスレイヤード、パステル着物
永野芽郁さん(『そして、バトンは渡された』)はベアショルダーのトップスにパンツというブラックコーデ。トップス全体が光沢を帯びていて、コンパクトな装いにグラマラス感を寄り添わせていました。
天海祐希さん(『老後の資金がありません!』)はハンサムなパンツスーツで登場。ジャケットは袖をたくし上げて、気負わない雰囲気を醸し出しています。ボリュームパンツに合わせたジャケットはウエストを細いベルトで締めて、めりはりを加えました。ウエストシェイプのジャケットも2022-23年秋冬から登場する注目アイテムです。
松岡茉優さん(『騙し絵の牙』)はスリップドレスの上から、透けるチュールドレスを重ねるドレスレイヤードを披露しました。チュールドレスにはきらめきピースを全体にあしらって、ファンタジー感をまとわせています。裾にはイエローが施され、ポジティブで明るいムードも寄り添わせていました。
さすがの着物姿を披露したのは、大女優の吉永小百合さん(『いのちの停車場』)。淡い桃色をベースに、格子柄を織り交ぜた、春の訪れを感じさせる装いで、特別感を醸し出しています。
ブラックフォーマルを細部のひねりで自分流にアレンジ
優秀主演男優賞は佐藤健さん(『護られなかった者たちへ』)、菅田将暉さん(『花束みたいな恋をした』)、西島秀俊さん(『ドライブ・マイ・カー』)、松坂桃李さん(『孤狼の血 LEVEL2』)、役所広司さん(『すばらしき世界』)が受賞しました(50音順)。
最優秀主演男優賞を受賞した西島秀俊さん(『ドライブ・マイ・カー』)はシャツやネクタイまでオールブラックのスーツ姿で登場。さらに、細部にこだわりをみせました。たとえば、シャツの襟はシルバーのピンで留めてフォーマルの型にはまらないアレンジを試みています。折り返したような袖先にも変化を見せました。
個性やメッセージ性をファッションで表現 フォーマルを新解釈
佐藤健さん(『護られなかった者たちへ』)もオールブラックのスーツでしたが、こちらもオリジナルの着こなしを披露。通常のネクタイではない、ボウタイ・リボン風のディテールがジェンダーレスなたたずまい。ジャケットの生地もビロード調の静かなつやめきを帯びています。耳たぶをはさむように着けたイヤーカフ風アクセサリーも目を引きました。
松坂桃李さん(『孤狼の血 LEVEL2』)はオーソドックスなブラックスーツに蝶ネクタイを迎えて、正統派の装いに。胸ポケットには白のポケットチーフも挿して、スマートでハンサムな印象を打ち出しました。
菅田将暉さん(『花束みたいな恋をした』)は5人のうち、唯一、黒スーツではない、カジュアル寄りのコーディネートを選びました。ボア襟の付いた、茶色いレザーブルゾンはレッドカーペットでは異色。白いシャツにレジメンタル柄のネクタイを締めました。ボトムスはグレーのスラックス風パンツで、こちらもかなりのレアパターン。あえて全体を統一しない、「おしゃれ番長」らしい着こなしです。
アワード常連の役所広司さん(『すばらしき世界』)は唯一、スリーピースのブラックスーツをまとって、堂々のいでたち。最大の見どころは、胸ポケットに挿したチーフ。上がブルー、下がイエローという、ウクライナ国旗の配色をのぞかせて、無言の反戦メッセージを語りかけていました。大舞台できちんと声を上げるという世界の常識を知る国際スターならではのスタイリングを示していました。
凛としたムードと華やかなグラマラスが同居
優秀助演女優賞に選ばれたのは、石原さとみさん(『そして、バトンは渡された』)、清原果耶さん(『護られなかった者たちへ』)、草笛光子さん(『老後の資金がありません!』)、西野七瀬さん(『孤狼の血 LEVEL2』)、広瀬すずさん(『いのちの停車場』)の5人です。
最優秀助演女優賞を受賞した清原果耶さん(『護られなかった者たちへ』)はブラックドレスですが、こちらはベアショルダー(両肩出し)。ふわりと裾に向かって広がる「テントライン」のシルエットは華やかさを演出しながらも、締め付けられないリラックス感が漂います。メタリックやチュールなど、華やかなマテリアルで優美な雰囲気を盛り上げました。
大御所の草笛光子さん(『老後の資金がありません!』)は深いブルーのつやめきドレスで貫禄たっぷりの装い。肩口のオブジェ風デコレーションがアートを感じさせる構築的フォルムで、片腕は長袖、片腕はノースリーブというアシンメトリーのデザイン。レッドカーペットをよく知る大女優ならではの本格的ドレスです。
石原さとみさん(『そして、バトンは渡された』)は春にふさわしい淡いピンクのゆったりしたドレスで登場。出産を控えているとあって、お腹を締め付けないシルエットをチョイス。首元のボウタイが縦に流れ落ち、ドレスのドレープと相まって女神風のムードです。
西野七瀬さん(『孤狼の血 LEVEL2』)はシースルーのハイネックが目を引くオールブラックのドレス。ロング丈のスリップドレスを重ね着しているかのよう。イヤーカフでモード感もプラス。膝から下が透ける、若々しいドレスルックで大舞台に臨みました。
広瀬すずさん(『いのちの停車場』)もブラックドレス姿を披露。両袖がレース仕立てで、素肌が透け見えています。胸元にも隙間を開けて、チラリと肌見せ。クリスタルパーツをたくさん配したイヤーアクセサリーが顔周りを華やがせています。キラキラ輝くディテールを配して、艶美に仕上げました。
ブラック基調のスーツやタキシード ロングコートも投入
優秀助演男優賞には阿部寛さん(『護られなかった者たちへ』)、鈴木亮平さん(『孤狼の血 LEVEL2』)、堤真一さん(『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』)、仲野太賀さん(『すばらしき世界』)、村上虹郎さん(『孤狼の血 LEVEL2』)の5人が選ばれました。
最優秀助演男優賞を受賞した鈴木亮平さん(『孤狼の血 LEVEL2』)はスタンダードなタキシード姿。黒の蝶ネクタイをつけています。体形にきちんとフィットした上質な仕立てのフォーマル服がセレモニーにふさわしいムードを漂わせています。
堤真一さん(『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』)はオールブラックのスタイリッシュなスーツ姿で登場しました。シャツやネクタイまで黒で統一。賞への敬意を示すと同時に、黒に託した静かなメッセージもにじませました。
阿部寛さん(『護られなかった者たちへ』)はオーソドックスなブラックスーツ姿で晴れ舞台に臨みました。フォーマルルックが長身に映え、ポケットチーフも粋に決まっています。
仲野太賀さん(『すばらしき世界』)もスタンダードなタキシードをチョイス。Vゾーンが下がったシャープなジャケット姿がキリリとしたムード。黒の蝶ネクタイで品格を整えています。
異彩を放ったのは、村上虹郎さん(『孤狼の血 LEVEL2』)。ほかの4人が黒と白しか使わない中、赤の大胆な柄をまといました。スーツやタキシードではなく、ロングコートを主役に据えたうえ、トップスにも同じ柄を迎えて、ドラマティックなコンビネーションを披露しました。
クールやロック風、ロマンティックなど、自分好みにコーデ
新人俳優賞には磯村勇斗さん(『ヤクザと家族 The Family』『劇場版『きのう何食べた?』』)、今田美桜さん(『東京リベンジャーズ』)、尾上右近さん(『燃えよ剣』)、西野七瀬さん(『孤狼の血 LEVEL2』)、Fukaseさん(『キャラクター』)、三浦透子さん(『ドライブ・マイ・カー』)、宮沢氷魚さん(『騙し絵の牙』)、吉川愛さん(『ハニーレモンソーダ』)が選ばれました。
今田美桜さん(『東京リベンジャーズ』)は総花柄のティアードドレスに身を包みました。ノースリーブでコンパクトな上半身と、裾に向かって広がるフレアのシルエットがめりはりを演出。腰から下のティアードも量感を印象づけています。
三浦透子さん(『ドライブ・マイ・カー』)はパンツスーツを選んで、異彩を放ちました。ジャケットはタキシードライクなアレンジが施されています。肩口が少し盛り上がった「コンケープドショルダー」で、凜々しい着映え。襟が高めのシャツをノーネクタイで着て、クールな風情を漂わせていました。
吉川愛さん(『ハニーレモンソーダ』)は裾が床に届くほどのロングドレスを清楚に着こなしました。短めの袖に飾りをあしらった「袖コンシャス」です。両袖やデコルテがうっすらと透ける総レース仕立て。繊細で清らかなムードを印象づけていました。
磯村勇斗さん(『ヤクザと家族 The Family』『劇場版『きのう何食べた?』』)はオールブラックのスーツで登場しました。シャツの襟には光を反射するきらめきパーツを配して、抑えた華やぎを盛り込んでいます。
尾上右近さん(『燃えよ剣』)は広い襟をシャイニーなキラキラピースで埋め尽くしたブラックスーツをまといました。シャツも蝶ネクタイもブラックですが、襟のきらめきが装い全体をまぶしく輝かせていました。
ブラックスーツ姿に変化を盛り込んだのは、宮沢氷魚さん(『騙し絵の牙』)。四角い黒ボタンがアイキャッチー。さらに、襟には「シャネル」ロゴのアクセサリーブローチも添えました。
Fukaseさん(『キャラクター』)もブラックスーツに小物で動きを加えました。つやめきを帯びた細いネクタイにメタリックなクリップをオン。ジャケットの襟にもピンを刺して、程よいパンク感を差し込んでいます。
平和や自由を求める思い託す 黒ベースやパンツスーツで凛と
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、平和や自由を求める受賞スピーチが相次ぎました。シックな黒主体の装いや凛としたパンツスーツが目立った背景には、そうした国際情勢への思いがうかがえます。一方、あえてカジュアルな雰囲気を持ち込んだり、リラクシングなムードを選んだりしたところにも、平穏で自由な状況を願う意識が宿っているのかもしれません。
フォーマル服を選びつつ、レッドカーペットにふさわしい特別感をアクセサリー使いやディテールで際立たせる演出は、晴れ舞台に立つプロである俳優たちならでは。品格を保ちつつ、自分らしさやポジティブ感を盛り込む着こなし技は、私たちの普段の装いにも参考になりそうです。
(関連サイト)
日本アカデミー賞協会