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休戦ラインが国境! 金正恩総書記が初めて「国境」という言葉を使う

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
休戦ライン(軍事境界線)(「JPニュース」提供)

 北朝鮮が昨年7月から唐突に南朝鮮を「大韓民国」と呼称し、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が昨年末の労働党中央委第8期第9回全員会議(総会)で南北統一放棄を宣言し、南北関係を「敵対的な二国間関係」と位置づけたことで休戦ライン(軍事境界線)を「国境」と呼ぶのは時間の問題とみていたが、金総書記は昨日(8日)、朝鮮人民軍創建日を祝うため訪問した国防省での演説で初めて「国境」という言葉を口にしていた。

 いつものように「尊敬するお嬢様」と紹介された「ジュエ」と呼ばれる愛娘を連れて国防省を訪れた金総書記は演説の中で「国境」という言葉を3度も使っていた。

 1度目は冒頭の部分で「我が祖国の国境前線を守っている頼もしい第1、第2、第4、第5軍団将兵ら」と連帯の挨拶を送った時だ。第1軍と第5軍は韓国と分割している江原道の淮陽郡と伊川郡に、第2軍と第4軍は韓国の京畿道と接している黄海北道の平山郡と黄海南道の海州に駐屯している最前線軍団である。

 2度目は米韓を批判する件で金総書記は「今、我々の国境線の前で戦争熱に浮かれ、狂症を振りまいている突然変異者らが政権を握り、銃口を突きつけて我が国家の安全を脅かしている」と発言していた。

 そして、3度目は建設分野で貢献する軍を賞賛している箇所で金総書記は「昨年1年間だけでも首都と剣徳地区を含む全国至る所で立体的に展開されている住宅建設や灌漑建設と国境遮断物工事、穀物増産闘争や災害復旧に至るまでどの前線、どの戦区でも突破口を開く偉勲の先駆者が軍人である」と褒め称えていた。

 「国境遮断物」はおそらく、脱北を阻止する柵や鉄条網などを指しているものと思われるのでここでの「国境」は中朝国境を指しているようだが、もしかすると、休戦ラインの北朝鮮側でベルリンの壁のような「遮断物」を密かに建設している可能性も考えられなくもない。

 金総書記は先月15日に開かれた最高人民会議第14期第10回会議で演説し、「共和国の民族歴史から『統一』、『和解』、『同族』という概念自体を完全に削除しなければならない」と述べていた。

 また、「三千里錦繍江山」とか「8千万民族」のような南北一体を表すような言葉の使用を禁じる一方で、1972年の「南北共同声明」や1991年の「南北基本合意書」、2000年の「6.15南北共同宣言」など全ての南北合意文書を無効にし、対南窓口機関である統一戦線部や祖国平和統一委員会、民族和解協議会などを解散させ、南北統一の象徴であった「祖国統一3大憲章記念塔」まで解体してしまった。

 今春予定されている代議員選挙で新たに選出された議員らによって構成される最高人民会議で憲法が修正され、「国境」が正式に明記されれば、北朝鮮にとって韓国は完全に外国扱いとなる。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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