小さな農業を再考する ―世界で進む小農と家族農業への注目―
小さな農業見直しの理由
国際的に小さな農業が見直されるきっかけとなったのは、国際連合(以下、国連)による小農や家族農業への注目であった。国連は2014年に国連「家族農業」年を設定し、2018年12月には国連「小農と農村で働く人びとの権利」宣言(以下、小農宣言)を採択し、家族農業や小農再評価の潮流を作り出した。小農宣言が画期的であったのは、世界の2億人以上の小農が加盟するビア・カンペシーナという小農団体が原案を起草し、国際的議論に参加し国連において新しい権利を打ち立てた点にある。2019年5月からは、国連「家族農業の10年」の取り組みも始まっている。
国連が小農や家族農業に注目する背景には、農業の大規模化やグローバルで巨大化したフードシステムへの批判の高まりそして小農や家族農家当事者からの要求運動があった。戦後の世界では、食料増産を目的とする農業の近代化、大規模化が目指され、食料の安定供給という目的が一定程度達成されてきた。しかし食料貿易やグローバル化が進む中で、十分な食料が生産される一方で3分の1が廃棄されるというフードシステムが出来上がった。世界の食料格差は解消されておらず、8.2億が飢餓で苦しむ一方で6.7億が肥満(2018年)という社会的不平等が依然として世界に存在しているのだ。
小農が持続可能な農業の担い手
国連は2030年までに世界の社会経済システムを大胆に変革する持続可能な開発目標(SDGs)を立て、貧困や飢餓の解消を呼び掛けているがいまだ達成の目処は立っていない。その中で国連は小農と家族農家を持続可能な農業・農村の担い手として注目し始めている。そのことを確認するために、ここで小農宣言の中身を紹介してみる。
小農宣言の前文では、小農が世界の食と農業生産の基盤を作り持続可能な農業生産を実践し母なる地球を護ってきた、と小農の役割を積極的に評価している。その一方で、小農が環境破壊や気候変動による影響、世界の食料システムにおける(資本主義の)寡占、食料に対する(資本による)投機により、不平等な扱いを受け、貧困と飢えに直面し厳しい状況にいることに対する懸念も表明されている。そして小農が暮らしの中で保全してきた土地、水、自然資源への権利を持ち、その人権を尊重、擁護、実現することを加盟国に呼び掛けている。
では小農宣言では、小農はどう定義されているのだろうか?
小農宣言では小農を農業者だけでなく自給農家、土地なし農民、農業労働者、漁労者、その他農村部に暮らす移動牧畜民の人々らも小農とみなし、大地に関わる多くの人々にまで権利の対象を広げて小農と解釈している。世界の農村で暮らし働く人々の権利を守り農村全体の持続を目指していると言える。
まとめると地域資源を知り農業基盤を支える小農を担い手とすることで持続可能な農業・農村達成に近づくということになる。SDGs達成において生命の循環を支える農村は核心的な場所であり、それを支える小さな農家は本来であればSDGsにおいて重要な担い手ともいえる存在でもあるのだ。ではこうした国際的潮流は日本の現状とどうつながっているのだろう?
日本で小農を見直す意味
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