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<ガンバ大阪・定期便35>ライバルに刺激を受けて。福岡将太と坂本一彩がピッチで残した『爪痕』。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
試合後、福岡はムードメーカーらしく坂本の初ゴールを喜んだ。写真提供/ガンバ大阪

 6月29日に行われたJ1リーグ15節・サンフレッチェ広島戦。『J1リーグ』ということでは久しぶりに先発メンバーに名を連ねたのが、福岡将太と坂本一彩だった。

 福岡は3月12日のジュビロ磐田戦以来、3ヶ月強ぶり、坂本は4月29日のFC東京戦以来約2ヶ月ぶりの先発。暑さ厳しい夏の『9連戦』の4試合目、しかも4連敗中と悪い流れが続いていた中で、フレッシュな彼らがどんなパフォーマンスを示せるのかは、試合の明暗を分けるポイントだったと言っていい。

 もちろん『先発のピッチ』に飢えていた彼らもまた、その覚悟を持ってピッチに立っていた。

「自分が置かれている立場を理解しながらも準備はしてきたし、今日はそれをプレーで表現するだけだと思っていました。これまでの試合を振り返っても、コミュニケーションを図ることで防げる失点はあると思っていた中で、チーム全体としてのコミュニケーションは意識していたところでしたし、『声』のところは自分の良さでもあると思うのでそこもしっかり発揮しようと考えていました(福岡)」

「今回、急にスタメンで出場するチャンスをもらいましたが、メンバー外になっても点を取るための準備は続けていたのでそれを出すだけだと思っていました。同期の仁郎(中村)がコンスタントにメンバー入りをしていた中で自分も負けていられないという思いもあったし、だからこそ日頃のトレーニングから積み上げてきたことを発揮しようと考えていました。自分の持ち味である背後への抜け出しと、前線からの守備のところは監督からも要求されていたので、その2つは意識して試合に入りました(坂本)」

 結果的に、二人の覚悟は、立ち上がりからピッチで遺憾なく発揮された。

 まず、3バックの右を預かった福岡は、守備での対応はもちろんのこと、相手の状況に応じて細かくポジションを微調整しながらビルドアップの起点になった。中でも目を惹いたのが、彼自身も試合後、意識していたと明かした「チームに勢いを与えられるプレー」「みんなが気持ちよくプレーするための役割」だ。

「敵の状況を見ながら中に運ぶといった状況判断は自分に求められているビルドアップだと思っていました。選手の特徴を理解した上で…例えば、康介くん(小野瀬)ならサイドに張って仕掛けるのが得意だから、自分が変なタイミングで上がっちゃうとDFも引き連れていっちゃうな、とか、ボランチの未月(齊藤)との距離感などは考えながらプレーしていました。また自分が動いて『ここにスペースが生まれるから使ってほしい』といったメッセージ性のあるプレーをすることも僕の特徴だと思っているので心がけていたことの1つです。また、ショートカウンターは自分たちの強みではあるんですけど、それだけだと相手の状況によって簡単に潰されてしまうこともあるので、僕自身は、遅攻と速攻の使い分けというか、展開によっては敢えてボールをゆっくり動かすことも必要だと思っていました。あとは、前半は特に、例えば右サイドで作れないなら逆サイドに展開するというように、サイドチェンジをチーム全体として意識できたことも良かったというか。それによって相手の足を疲れさせられたことで、前半の飲水タイム以降は自分たちが攻撃をする時間が長くなったと思います。今後もそういう狙いのあるボールの動かし、チームが円滑に動くためのポジショニングは、対戦相手の戦い方を踏まえた中でしっかり頭を使ってやっていきたいです(福岡)」

3バックの右を定位置に、効果的なポジショニングでビルドアップに貢献した福岡。写真提供/ガンバ大阪
3バックの右を定位置に、効果的なポジショニングでビルドアップに貢献した福岡。写真提供/ガンバ大阪

 その福岡が「前線からの守備のスイッチや裏へのランニングなど、たくさんのタスクを与えられていた中で『え? ユースから昇格して何年経ったっけ?』というような、頼もしいプレーをしてくれた」と絶賛したのが、坂本だ。

 福岡の言葉にもある通り、坂本の攻守における献身的なプレーは、攻撃のタメを作り、ここ最近は見られなかった『枚数をかけた攻撃』を実現させた。加えて、39分にはショートカウンターから畳み掛ける中、相手DFのこぼれ球を拾い、プロ初ゴールを叩き込んだ。

「これまでもチャンスをもらっていたのになかなか決められていなかったので嬉しさとホッとした気持ちの両方があります。監督に求められていた仕事はもちろん、味方がボールを持った時に受けるタイミングは意識していました。一昨年もガンバU-23の一員としてJ3リーグに出場させてもらって、パナソニックスタジアム吹田でも何度かプレーさせてもらったんですけど、全然このスタジアムで得点が取れなかっただけに、プロ初ゴールがパナスタで獲れたのも本当に嬉しい。ただ、この1試合だけで終わったら意味がないと思うし、ここから点を積み重ねていけるように、次の試合でも貪欲に結果を求めていきたいと思います(坂本)」

 U-19日本代表として出場した『第48回Maurice Revello Tournament(5月29日〜6月12日)』ではフランスの地で「技術的にはやれたと思ったけど、フィジカルは全く通用しない」と痛感し、帰国した翌日から筋トレをスタートさせたという坂本。その間に、同じポジションのユースの後輩、南野遥海がJ1リーグデビューをしたことにも刺激を受けたという。また試合前に、片野坂知宏監督に掛けられた「お前ならできる」という言葉にも自信をもらった。その中で決めたプロ1年目での初ゴール。試合後、ホームサポーターと共に行うガンバクラップではキャプテンの倉田秋に「みんながやらしたれ、って言ってたし一彩にとって忘れられない日になったはずだから。記念になると思って」と促され、先制ゴールを奪った黒川圭介と共に先頭に立った。

「最初はちょっと遠慮したんですけど…秋くんが前に出してくれたので嬉しかった(坂本)」

5試合ぶりの勝利を、サポーターと共にガンバクラップで喜んだ。写真提供/ガンバ大阪
5試合ぶりの勝利を、サポーターと共にガンバクラップで喜んだ。写真提供/ガンバ大阪

 もっとも、先の坂本の言葉にもあったように、大事なのは『継続』だ。事実、福岡も広島戦のパフォーマンスを自信にはしても、慢心にはしないと気を引き締め、彼らしい言葉で取材を締め括った。

「ジュビロ戦以降、リーグ戦ではなかなか先発出場のチャンスがもらえなかったですが、正直、僕にはJ2リーグやJ3リーグでのいろんな経験もあり、苦しい時期も知っていたので、ガンバでの1年目がこういう状況に置かれることもある意味、覚悟していました。ただ、準備を続けることの大切さは理解していたし、そういう昔の経験があったからこそ今日のプレーにつながったのかなとも思います。それを支えてくれた妻には感謝していますし、チームメイトにも…特に秋くん(倉田)には、僕が試合に出ていない時もいろんな話をしてもらったので、そのおかげだと思っています。もっとも、ガンバのセンターバックには自分にとってものすごく高い壁が3人も、4人もいて、本当に高い競争があることは自覚しているので。それをこれからもいい刺激にしながら、盗めるものはしっかり盗み、守備を含めて自分に足りていないものはしっかり補うことを意識しながら、試合に出た時には自分の良さを全力で出せればチームとしてのポジティブな要素ももっと増えていくと思うので。また明日から、日々の練習で全力を出し切ることを意識してやっていく…ということが、いろいろ話をしましたけど、今日の僕の最終的な総括です(笑)!(福岡)」

 1つの戦いが終われば、また次へ。すでに、新たな戦いは始まっている。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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