男女平等の「落ちこぼれ」日本と女性の困難残るベトナム:「女性の輝く社会」のウソ、働いても低い地位
世界経済フォーラム(WEF)がこのほど発表した報告書「ザ・グローバル・ジェンダー・ギャップ・リポート2016」で、ベトナムは対象となった世界144カ国の中で65位となり、前年の83から順位を上げた。女性の就学率が改善したことと、議会における女性議員の割合が増えたことが順位を押し上げた。
これに対し、安倍政権が「女性が輝く社会」を掲げる日本の順位は、111位となり、前年の101位から順位が低下した。日本の順位は世界的にみて低い上、ベトナムを含むほかの東アジア・太平洋諸国の中でも低い状態にある。
一方、ベトナムでも、女性は男性と平等とは言えず、男女格差があるの中で女性が困難に直面していることも事実だ。今回の報告書から、ベトナムと日本のの男女格差と女性を取り巻く状況をみてみたい。
◆就労し稼いでいるのに地位の低いベトナム人女性
WEFは、「経済的参加・機会」「教育的達成」「健康・生存」「政治的エンパワーメント」の各項目を総合してランキングを作成している。
その中で、まずベトナムの順位について、みてみよう。
ベトナムの2016年の順位は、前年の83位からは改善したが、2007年時点の42位からは悪化している。
項目別では、特に「経済的参加・機会」は2007年の11位から2016年は33位に、「政治的エンパワーメント」は2007年の42位から2016年は84位に、「健康・生存」は2007年の91位から2016年には138位に、それぞれ低下した。
ただし、「教育的達成」は2007年の103位から2016年には93位に改善している。
各項目をより詳しくみると、「経済的参加・機会」は33位と世界でも高い水準にあり、これを押し上げているのは「専門・技術労働者」、「推定所得」、「労働参加率」の各項目となっている。
「専門・技術労働者」の項目は世界1位で、「専門・技術労働者」における男女比は男性46に対し、女性54となっている。
また「推定所得」は、PPP(購買力平価)ベースの1人当たり所得が男性が6,173米ドルのところ、女性は5,097米ドルと、男性の方が多いものの、その差は1,000米ドル程度にとどまっている。
「労働参加率」は男性が86%、女性が79%と男女ともに高水準にある。ベトナムでは共稼ぎが一般的で、男女の別なく、就労を続ける傾向が強いため、それがこうした女性の高い労働参加率としてあらわれている。
しかし、「議員・政府高官・管理職」については82位にとどまる。これは「議員・政府高官・管理職」における男女の比率が男性74に対して、女性が26にとどまるからだ。
こうした結果からは、ベトナムでは女性の大半が就労をすることで現金収入を得て経済的な貢献を果たしながらも、高い地位についている女性が限られているということが指摘できる。ベトナム人女性はほとんどの人が就労し、稼ぎを得ているにもかかわらず、その地位は男性より低い位置に置かれていると言える。
ベトナムを訪れた日本人からは時折、「ベトナムでは女性はみな働いている。ベトナム人女性は強い」との声がきかれることがある。しかし、たしかにベトナム人女性はその大半が就労し、稼ぎを得ているが、その地位は決して高いものではないことには留意すべきだろう。
このことは「女性が働くこと=稼ぎを得ること」、つまり女性の「社会参画」の進展というものが、女性の地位を高めることに直結しない例があることを指し示す。
◆女性は「仕事も家事も」が当たり前のベトナム社会
また、ベトナムでは料理、洗濯、掃除、育児、介護などの「家事労働」は女性がその多くをになっている。同時に、ベトナム社会は子どもを産むことが重視される社会であるため、女性たちは結婚して子どもを産むことも期待される。
ベトナム人女性は家の外で就労し、稼ぎを得るとともに、家庭内での家事労働も引き受け、さらに子どもを産み育てるという、二重、三重のジェンダー役割をになっている。
アメリカの社会学者アーリー・ホックシールドは、著書『セカンド・シフト 第二の勤務―アメリカ 共働き革命のいま』(朝日新聞社、1990)で、アメリカの共働き世帯において女性が家庭の外での就労と、家庭内での家事労働の両方の負担を背負う状況について探り、家庭内での育児や家事など家事労働に関して「セカンド・シフト(第2の勤務)」という言葉で説明した。ベトナム人女性は、複数のシフトの間を動き、家の外でも中でもその責任を果たすことが求められるのだ。
◆男児優先で「生まれてこなかった女の子」が存在するベトナム
さて、ベトナムの2016年のランキングに戻ると、「健康・生存」の項目が世界でも138位と低い位置にある。それは、この「健康・生存」の項目を構成する「出生時性比」の順位が140位と低水準にあるためだ。
出生時性比は、新生児における男女の割合のことだが、ベトナムでは赤ちゃんに男児を求める傾向が強く、胎児が女児だとわかると中絶をしてしまうケースがある。このため出生時性比をみると、不自然に男児の割合が高いのだ。
せっかく母親のおなかに宿ったにもかかわらず、男児を優先するという文化的・社会的背景から、中絶により「生まれてこなかった女の子」が多数存在するという状況は、ベトナム社会において女性がどのように扱われているのかということに加え、その存在が時に軽んじられてしまうということを示すものだろう。
◆閣僚クラスの男女比は91:9、圧倒的に少ない女性閣僚
また、ベトナムの「政治的エンパワーメント」の項目をみると、「閣僚クラスにある女性」の項目が117位と低い位置にあることが分かる。
これはベトナムでは、閣僚クラスの人材の男女比が男性91に対して、女性9と、女性の占める割合が圧倒的に小さいためである。ベトナムはこれまで、社会主義国の看板を掲げ、男女平等を目指す施策が打ち出されてきた経緯があるものの、それでも、政治の世界における男女の不平等が存在する。
◆「なぜ日本の順位は低いのか」、2016年は2006年と比べてすべての項目が順位を下げる
次に、日本について考えたい。
そもそも日本の順位は世界的にみても、アジア・太平洋地域でも低くなっている。
さらに日本の順位は2006年に80位だったものが、2016年には111位となっており、以前よりも順位が下がっている状況にある。
なぜ日本の順位は世界的にみて低い上、その順位は2006年に比べて低下してきたのだろうか。
その原因を探るため、日本の順位について、それを構成する各項目をみてみたい。
2016年のランキングを項目別にみると、日本は「経済的参加・機会」の項目の順位が118位となり、各項目の中でもとりわけ低い順位になった。「経済的参加・機会」は2006年時点では83位だったものの、これまでに大幅に悪化した格好だ。
その上、「政治的エンパワーメント」は2006年時点で83位だったものが、2016年は103位に下がった。
また「教育的達成」も2006年に60位だったものが、2016年には76位に悪化している。「健康・生存」も2006年の1位から2016年はに40位に順位を下げている状況だ。
つまり日本は「経済的参加・機会」「教育的達成」「健康・生存」「政治的エンパワーメント」のすべての項目の順位が2006年から2016年にかけて低下している状況にある。
◆女性の地位は低いまま、男女の所得格差も大
2016年のランキングにおいて、各項目をさらに詳しくみていくと、「経済的参加・機会」の項目では、日本は「議員・政府高官・管理職」の順位が113位、「専門・技術労働者」が101位、「推定所得」が100位と低い順位だった。
「議員・政府高官・管理職」の男女比は男性89に対し、女性11、「専門・技術労働者」では男性61に対し、女性は39にとどまる。ここからは立法、行政、経営といった面で高い地位にある女性が少ないだけではなく、専門・技術職の女性の割合も低いことが伺える。
同時に、購買力平価(PPP)ベースの1人当たり推定所得では、女性の所得は2万5,091米ドルにとどまり、男性の4万8,796米ドルを大きく下回っていることも示されており、所得も低い。
つまり、女性は職場で責任ある高い地位についている人が少ないとともに、専門的な知識・技術を蓄積することのできる専門職についたりしている人が男性を大きく下回っている。その上、女性全般においてその所得が男性を大幅に下回っている状況にあることが指摘できる。
女性はその地位も、所得も、男性に大きく後れをとっており、これが女性の経済的な力を弱めることにつながっていると言えるだろう。
◆女性議員はごく少数、議員の男女比は男性91、女性9
「政治的エンパワーメント」の項目では、とりわけ「議会における女性」の項目が122位と低い位置にあり、女性議員の割合が2016年現在でも世界的にみて低水準にあることが分かる。
議員における男女の比率は男性が91に対して、女性は9にとどまっている。
◆欧州勢が上位、ドゥテルテ大統領のフィリピンが7位で健闘
今回のランキング全体では、アイスランドが首位となり、これにフィンランド(2位)、ノルウェー(3位)、スウェーデン(4位)、ルワンダ(5位)、アイルランド(6位)、フィリピン(7位)、スロベニア(8位)、ニュージーランド(9イ)、ニカラグア(10位)と続いた。
欧州諸国に加え、本国での強硬な麻薬取り締まり政策や米国に対する発言、さらに中国との蜜月ぶりで関心を集めるロドリゴ・ドゥテルテ大統領が率いるフィリピンが7位に付けた。このランキングでは、フィリピンは以前から世界的にみて高い順位を維持している。
一方、最下位はイエメンで、ほかにパキスタン(143位)、シリア(142位)、サウジアラビア(141位)、チャド(140位)、イラン(139位)、モロッコ(137位)、コートジボワール(136位)、レバノン(135位)、ヨルダン(134位)、オマーン(133位)、エジプト(132位)、バーレーン(131位)、トルコ(130位)が低順位となった。
また米国は45位、インドは87位となっている。
◆東アジア・太平洋地域でも日本は低い順位
さらにランキングを地域別にみると、東アジア・太平洋地域では前述のようにフィリピンが7位と高い順位で、これにニュージーランド(9位)、ラオス(43位)、オーストラリア(46位)、シンガポール(55位)、モンゴル(58位)、ベトナム(65位)、タイ(71位)、インドネシア(88位)、中国(99位)、ブルネイ(103位)、マレーシア(106位)、日本(111位)、カンボジア(112位)、韓国(116位)東ティモール(125位)の順で続いた。
日本は東アジア・太平洋地域の中でも低い位置にあり、日本よりも低いのはカンボジア、韓国、東ティモールだった。
◆順位改善も女性の地位に課題残るベトナム、順位下がり続ける男女の不平等改善されない日本
ここまでみてきて指摘できるのは、ベトナムの順位が改善したといっても、前述したようにベトナムでは依然として男女の間に不平等が存在していること、さらに日本に至っては、世界的に経済力のある国とされながらも、順位が低い上、この順位が年々低下していることだ。
今回のランキングが示したベトナムと日本の男女の平等の達成度と女性の状況からは、両国の女性たちがそれぞれまだ男性よりも低い地位にあるとともに、経済、健康、教育、政治の各面でそれぞれ男性に対して不平等な状況にあることが示されたと言えるだろう。こうした中、ベトナムと日本それぞれの社会に対し、この状況が持つ意味が問われている。(了)