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ライアン・レイノルズ、ブランドの救世主に。24時間でイメージ挽回ビデオを拡散

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
俳優業のほかにマーケティング会社も経営するライアン・レイノルズ(写真:REX/アフロ)

*この記事には、「AND JUST LIKE THAT/セックス&ザ・シティ 新章」第1話のネタバレが含まれています。ご了承の上でお読みください。

 ライアン・レイノルズは、スクリーンの外でもスーパーヒーローだった。あるブランドがドラマの中で使用され、大きなイメージダウンを受けると、ただちにプロモーションビデオを考案、制作し、ソーシャルメディアで拡散してみせたのである。ナレーションを務めるのは、レイノルズ自身。西海岸時間12日に投稿された彼のツイートには、現地時間13日正午時点で120万回ほど視聴されている。

 問題のブランドは、ペロトンという高級エクササイズバイク。アメリカ時間9日に配信サービスHBO Maxでデビューした「AND JUST LIKE THAT/セックス&ザ・シティ 新章」の中で、ミスター・ビッグ(クリス・ノース)が愛用するものとして登場する。キャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)が親友シャーロット(クリスティン・デイヴィス)の娘のピアノ発表会に出席する間、ビッグは家でこのお気に入りのエクササイズをして過ごすのだが、終わってシャワーを浴びようとしている時に心臓発作を起こして死んでしまうのだ。

幸せだったキャリーとビッグだが...(Craig Blankenhorn/HBO Max)
幸せだったキャリーとビッグだが...(Craig Blankenhorn/HBO Max)

 同じ日に配信された第2話では、スティーブ(デビッド・アイゲンバーグ)が「彼はどうしてバイクなんか使っていたんだろう」と言い、ミランダ(シンシア・ニクソン)が「バイクのせいじゃないわよ。彼は1000回以上もあれに乗っていたんだから」というシーンが出てくる。スティーブがさらに「心臓に問題があったのに」と言うと、ミランダは「専門医からやっていいと言われたの。運動は心臓にいいからと」と答える。

 そのように、ドラマとしても一応、ペロトンのせいではないと言っているし、ペロトンも、「Los Angeles Times」に対し、「ミスター・ビッグは、お酒、葉巻、ステーキが好きで、贅沢なライフスタイルを送っていました。遺伝の要素なども彼の死につながったものと思われます。ペロトンのバイクで運動をしていたことは、むしろ心臓発作が起きるのを遅らせたかもしれません」と声明を出していた。それでも、これらの回が配信された後、ペロトンの株価は11%下がってしまったのである。

ミスター・ビッグは葉巻を愛する(Craig Blankenhorn/HBO Max)
ミスター・ビッグは葉巻を愛する(Craig Blankenhorn/HBO Max)

 そこへ、ライアン・レイノルズが登場したのだ。「デッドプール」などで知られる人気俳優レイノルズは、マキシマム・エフォートというマーケティング会社の創設者でもある。彼は「セックス&ザ・シティ」とは何の関係もなく、この新作のストーリーはもちろん知らなかったのだが、つい最近、別の企画でペロトンと話をしていたところだった。そこへ、自分たちのバイクがビッグの死のシーンに使われ、大騒ぎになったことで慌てふためいたペロトンからメールで相談があり、ただちにアイデアを思いついて行動を起こしたのである。それが、ビッグとペロトンのバイクが登場するコマーシャルビデオだ。

 その38秒のCMには、ドラマの中でビッグがお気に入りだと言っていた実在のインストラクター、ジェス・キング(ドラマの中では別の名前に変えられている)も出演。ふたりは暖炉のあるリビングルームでくつろいでいて、彼女が「お元気そうですね」と言うと、ビッグは「元気だよ」と答える。続いてビッグが「また乗ろうか。人生は短いんだから」と誘い、部屋にあるペロトンのバイクが映る。その後に、レイノルズの声で、定期的にバイクのエクササイズをすることは循環を良くし、心臓の筋肉を強くして、心臓の病気を予防するという説明のナレーションが入り、ペロトンのロゴで締めくくられる。

 このCMは、投稿されると同時に大きな話題となった。何より、ビッグが突然いなくなった悲しみにふけっているファンにとって、生きている彼をもう一度見られるのは嬉しいこと。ツイッターには「代替現実の中であっても彼が生きているのを見られてよかった」「これはすばらしい。彼は生きている」といった喜びのコメントが飛び交っている。

 だが、それより多いのは、レイノルズへの賞賛だ。「いつ撮影したの?週末のうちにやったとしか思えないんだけど」「すごい危機対応能力」「ライアン・レイノルズがクリエイティビティを発揮する時は、本当に楽しい」「大袈裟でなく、これは完璧」「これは賞を取る」などといったものだ。

「これを見てペロトンを買いたくなった」というコメントもあるのだから、ペロトンとしてはかなりほっとしているはず。ちょうど今は、クリスマス商戦のまっただなか。「ライアン・レイノルズがクリスマスを救った」という声もある。そのとおりになり、この広告のおかげでペロトンをプレゼントに選ぶ人も増えたとしたら、驚きの大逆転。「ライアン・レイノルズは本当に才能があるよね。俳優をやめたとしてもこの道がある」という人もいるが、この大成功で彼はさらにこの副業に力を入れることになるのだろうか。このドラマの今後の展開ほどではないにしろ、こちらも気になるところだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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