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「残業代ゼロ法」を「時間では無く成果に応じて賃金を支払う制度」と報じる罪深さ

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
ブラック企業被害対策弁護団「ブラック法案によろしく」

繰り返される誤報

労働時間でなく成果で…労基法改正案を閣議決定

出典:2015年04月03日 11時07分 The Yomiuri Shimbun

“成果で報酬”新労働制度を閣議決定

出典:NHK NEWS WEB4月3日(金)深知り

このような誤報に対しては、このYahoo!ニュースでも、数多くの記事で警告が発せられてきました。

法案に即した解説はこちらの佐々木亮弁護士の記事をご覧下さい。直ぐに納得していただけます。

また、私も以前こんな記事で、成果主義賃金と無関係であることを書きました。

そもそも、この制度は成果主義賃金とは無関係です!

重要なことなので繰り返し書きますが

この制度は成果主義賃金とは無関係です!

しかし、誤報は止まりません!!

この「残業代ゼロ法」(「定額¥使い放題法」)を、「時間では無く成果に応じて賃金を支払う制度」と誤報が繰り返され、政府のデマ報道をそのまま報じています。

この問題について、深く知る(「深知り」)以前に、間違った知識を視聴者に植え付ける誤報は止めて欲しいものです。

しかも、誤報と分かっていながらの誤報ですから、罪深いことこの上ないです

NHK NEWS WEB さんは、私自身も出演させていただいた事がある思い入れのある番組ですから、残念でなりません。

この記事では、なぜこの「成果に応じて賃金を支払う制度」という誤報が罪深いのか、何を狙って政府がこの様な明らかなデマを繰り返し垂れ流しているのか、その理由を説明します。

罪深いのは何故か?

端的に言えば、

成果主義って良いよね

と騙されて、制度に反対する世論を潰す(少なくとも反対する世論の盛り上がりを防ぐ)意味があるからです。

例えば、こういった誤解。

成果を出せば早く帰れるという誤解

成果をだせば、早く帰れる

→ 間違いです。

そもそも、この制度は成果主義賃金とは無関係で、残業代をゼロにするだけです。

ですから、成果を出したら、短時間で帰れるわけではありません(ここ、重要です)

また、使用者は、成果を出した労働者に対してはさらに業務を増やす命令を出すこともできます(労働者は基本的に拒否できません)。

普通の企業では、成果を出せば出すほど仕事が増える。これが常識です(残念ですが)。

結果としては、成果を出すと、かえって仕事が増え、帰宅時間も早くならない可能性が高いのです。

つぎは、その発展バージョン。

成果さえ出せば早く帰れるから、育児・介護などと両立ができる

→ 無理です。早く帰れません

大事なので繰り返しますが、成果を出しても、早く帰れません

長時間労働が蔓延する日本の社会では、長時間働けなかった家庭責任を負わされた女性労働者や病気を抱えた労働者が、事実上離職を強いられるケースは数多あります。

そんな経験がある方は、この報道をみて、自分もキャリアアップの可能性が増えると考える、これが政府のデマ拡散の理由でしょう。

この法律ができても、長時間労働が今より蔓延して、長時間労働できない労働者は、より排除されていくでしょう。

皆さん、冷静に考えてみてください。

残業代不払いを合法化しようとしてこんな制度を導入しようとする企業が早く帰らせるなんて、甘い見込みだなぁと思いませんか?

ちなみに、今の労働法でも、成果を挙げたら短時間で帰れる制度は導入できます

だから、本当に政府のデマどおりの制度を作りたいなら、法律を変えなくても、今すぐ企業が導入できるのです。

成果さえ出せば、自由な働き方が出来る

→そんなことは法案に書いていません。

自由な出退勤を認める制度ではありませんし、そもそも成果を出しても早くは帰れません(使用者は、さらに仕事を追加で命じられる)。

成果で評価されれば、公平に賃金を支払ってもらえる

成果を出せば、公平に賃金を支払ってもらえる

この制度が導入されたことで、公平な賃金が実現するわけではありません

例えば、正社員と同じ仕事をしていても、非正規という理由で賃金が安い労働者

また、先輩社員より成果を挙げていても、後輩という理由で少ない賃金しか支払われない方

成果を挙げても、男性より賃金が低い女性労働者

そんな方が、成果を出せばきちんと公平に賃金を払ってもらえるのでは無いかと、この制度を期待しているのでしょう。

残念ですが、この制度で公平な賃金支払が実現することはありません

正社員と非正規労働者との賃金格差、女性労働者と男性労働者との賃金格差、崩壊しつつある年功賃金制度(昔のように年齢を重ねても給料が上がらない)の矛盾。

こういった、多くの労働者の不満を解消するかのように誤解させようと、意図的に拡散されているのが、「成果に応じて賃金を支払う制度」というデマです。

政府のデマを確信犯的に報じるメディアの責任

重要なのは、報道機関のほとんどは、「時間では無く成果に応じて賃金を支払う制度」という政府の説明がデマであることを理解した上でこのような報道を続けていることです。

いわば、確信犯です。

例えば、私の所属する日本労働弁護団とブラック企業対策プロジェクトでは、厚生労働省担当の記者の皆さんと懇談会を行い、「時間では無く成果に応じて賃金を支払う制度」という政府の説明がデマであることは、みっちりとお伝えしました

主要メディアの記者の皆さんは、参加されていました。

ですが、デマは、一向にとまりません。

メディアの良心はどこにいったのか?

この報道は、偏った報道だというだけではありません

明らかに誤った報道を、誤っていると知りながら、続けていることがはるかに問題なのです。

そして、その結果として、デマを信じて世論形成がなされていくことも、十分にメディア関係者は分かっているはずです。

心あるメディアの皆さん。速やかに、訂正報道!!をお願いします。

皆さんに出来ることは?

こんな署名活動をやっています。

簡単なネット署名で、3分で署名できます。

ぜひ、署名と拡散にご協力ください<(_ _)>

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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