直秀(毎熊克哉)無惨。なぜ検非違使は手荒な真似をしてしまったのか「光る君へ」第9回
鳥肌立った。大河ドラマ「光る君へ」(NHK 脚本:大石静 演出:中泉慧) 第9回「遠くの国」は、第1回に継ぐ衝撃回だった。
(ネタバレありますので、まだ放送をご覧になっていないかたは見てからお読みください)
「光る君へ」における「死」――「殺人」は主人公の転換点になっているように見える。でもそれはあまりにも苦く残酷な試練である。
第8回に続き第9回でも、直秀(毎熊克哉)と道兼(玉置玲央)のふたりがとても印象的である。
第8回で不憫に見えた道兼が、第9回で、種明かしをして、薄々そうかと思ってたけどやっぱりーとしてやられた感が楽しかったが(でもやっぱり不憫には変わらないのだが)、直秀の衝撃的な運命にすっかりもっていかれた。
いったいどれだけ人の心を絶叫マシーンのようにぐいんぐいんと極端に揺さぶるのか。
「いけず」の意味がこれで合っているかわからないが、大石静さん、「いけず」と言いたい。
心付けを渡す道長
道兼については後述するとして、まずは直秀。東三条殿に盗みに入った直秀と散楽の人々は捕まるが、道長(柄本佑)は、大目に見るよう検非違使(伊達暁)に心付けを渡す。道長もちょっと策士になってきた。
検非違使は見るからに腹に一物ありそうで、いや〜な感じの人である。余談だが、演じている伊達暁は、道兼を演じている玉置玲央と同じ事務所ゴーチ・ブラザーズの所属の名バイプレイヤーである。道兼といい、いや〜な感じの役ばかり「光る君へ」に出演させているゴーチさん。
話を戻そう。散楽が捕まって、まひろ(吉高由里子)もとばっちりを被り、捕まってしまう。
が、ちょうど都合よく道長が出くわして、おとがめなしにするように頼む。心付けの効果てきめんか、あっさりまひろは釈放された。
が、そのときの検非違使の目つきがあやしくぎらつく。
散楽の者たちは、人を殺めてもいないし、盗みも未遂だったので、軽い刑で済むはずが、都から追放と見せかけて、鳥辺野に連れていかれる。
あらかじめ伝えられた出立の時と違っていたことを知り胸騒ぎがした道長とまひろが馬に二人乗りして駆けつけたときにはすでにおそく、あんなに生き生きと明るく活発だった散楽の人々は、カラスについばまれていた。描写が無惨すぎる。
このとき鳴るいつものドラマティックなピアノ曲が激しく胸をざわつかせた。
「おれのせいだ」と愕然となる道長。
「信用できる者なぞ誰もおらぬ 親兄弟とて同じだ」と用心していたのに、心付けでなんとかなると甘く見てしまっていたようで。
「手荒なことはしないでくれ」と頼んだのにもっとも手荒なことをされてしまった。道長、痛恨のミス。
検非違使の行動をどう捉えるか
ストーリーはシンプルでわかりやすいが、前回の道兼のように、どっちだ?と考察する部分がある「光る君へ」。これも「サービス、サービス〜」(時姫役の三石琴乃の声で)か。
今回の悲劇は、検非違使が道長の頼みを深読みしすぎた説がSNSでは多く見られる。だが検非違使は、「なにゆえそのようなお情けを」と尋ねるとき、道長に意味ありげに近づいている。それは何か(心付け的なものだろう)を要求しているようにも見えるのだ。
何かするには心付けが要るのが常とすれば、命令を読み間違えることはないのではないか。そのあと、盗賊の仲間だと疑惑をもたれたまひろをすごくあっさり許しているので、心付け分はこれで果たしましたよってことなのでは。
それが、あのあと、道長たちを見送ったときの検非違使のいやな目つきに現れているような……。貴族は絶対だけれど、仕えている者たちは、内心、ケッと思っているのかもしれない。検非違使の言い分は第10回で明かされるだろうか。
直秀を埋葬する
直秀の手の中には土がたくさん握られていた。命の残りなのか、無念や恨みの現れなのか。
NHK の公式サイトの「君かたり」で毎熊は、「死ぬ瞬間にどう生きよとうとしたか見えるんじゃないかと思います」と語っている。それがこの手に現れていた気がした。
土をはらい、貴族のものである扇子を握らせる道長。そして、土を掘り、皆を埋葬する。
この時代、庶民の遺体は風葬、野ざらしにされるものだったが、道長たちは、直秀たちに敬意をもって埋葬したのである。
「余計なことをした」「すまない」と謝っても謝っても取り返しはつかない。
言葉もなく抜け殻のように帰途につく道長とまひろ。
そののち、まひろは、父・為時(岸谷五朗)に「男であったなら」と言われたとき、男であったらこうしたいという強い意思を返す。
そのときの、まひろの言葉の強さは、心からそう思っていることが伝わってくる。強くて重いものだった。
あまりにも理不尽な出来事に、まひろはこの世を正したいと心から思ったのだろう。
貴族社会を笑いで批評していた散楽の者たちがいなくなってしまったあと、まひろは彼らの後を継ごうと考えたのだろうか。
大石静がインタビューで指摘していた紫式部の作品のなかにある強烈な権勢批判は、もともとまひろのなかにあったものながら、ここで強固になったのであろう。なにしろ、母を殺されたことを隠蔽され、さらに大事な仲間がこっそり葬られたのだから。これはもう彼女の体のなかでさらに火が足されてしまったようなものである。怒りの炎は燃え盛っていく。
道長にとっても、これから貴族社会にどんどん染まっていくなかで、直秀との出会いと痛恨の別れに、生涯忘れられない大きな影響を受けたのではないだろうか。直秀に「若君」と皮肉られていた道長が、もう甘ちゃんではいられなくなった。
大石静の「光る君へ」では、まひろ(紫式部)と道長の人格形成に影響を与えた人物として造形したのだと思う。
道長とまひろの、なまりのように重すぎる哀しみや怒りが、懸命に土を掘る行為で増幅されて見えた。
藤原兼家と子どもたち〜道兼の策
藤原家が兼家(段田安則)のもと、結束して花山天皇(本郷奏多)を引きずり降ろす作戦をはじめる。その渦中に道長はいる。もう貴族社会から逃れられない。
「父上の見事さに打ち震えた」という道隆(井浦新)のセリフに説得力がありすぎる。
悪だが、かっこ良すぎる兼家。
第8回で殊勝な様子だった道兼は、演技をしていた。花山や為時の同情を引いたあの酷い傷は、兼家のDV ではなく自分でつけたものだった。あんな激しい傷跡、自分を滅多打ちにしたのかメイクなのかツッコミどころ満載である。
道兼の演技力、父譲り。倒れた兼家ももう意識は戻っていたのに戻らない振りをしていたのだ。
倒れたふりして、それは藤原忯子(井上咲楽)の霊によるものということにして花山天皇を引きずり降ろそうと企む藤原家。
やっていることはいいことではないが、家族が結束して頑張る感じは、視聴者は嫌いではない。「真田丸」(16年)の調子のいい真田昌幸(草刈正雄)に振り回されながらもついていく信之(大泉洋)と信繁(堺雅人)の父子を思い出した。
大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分 【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか