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マスク着用義務!? 新型コロナウイルス感染予防へ対応分かれるホテルの現場

瀧澤信秋ホテル評論家
とにかく手洗い、うがいは基本(写真:アフロ)

マスク着用義務は約半分?

新型コロナウイルスが初めて大きくニュース報道された日、筆者は某観光都市のグランドホテルに滞在していた。朝食ブッフェ会場は混雑しており、中国人旅行者も多数見受けられた。現場を仕切っていた担当マネージャーに「ニュースになっているが心配ではないか?」と問うと「もちろん心配で不安だが、いまのところ特にホテルからは対策の指示はなく、とにかく与えられた仕事をこなすしかない」と不安そうな面持ちで答えた。

その後、日本でも感染者が確認されたという拡大を知らせる報道が相次いだ。“ホスピタリティ”というワードで表され、サービス業・接客業の最たるものといわれるホテルにおいて、感染拡大防止の現場はどうなっているのか気になる所だ。一般的にホテルは華やかなイメージをウリにしており、このようなネガティブテーマの取材には上辺の回答というケースも多いため、過去ネガティブテーマにも真摯に対応いただいた、個人的に親しくしている20のホテル(ホテルマン)へ早速取材を試みた。

集計してみたところ、1月28日現在でマスクの着用義務を課しているというホテルは約10施設と半分程度だった(義務ではなく着用OKという施設等もあり“約”という表現をお許しいただきたい)。目下協議中というホテルもあり、全体の傾向という意味でのデータが出揃うのは週末くらいになろうかと思料している。着用義務を課していたホテルではビジネスホテルが多くを占めた。基本的にフロントサービスのみのビジネスホテルにおいては着用義務を課すことのハードルは低いかも知れない。

ビジネスホテルとシティホテルで差が

今回の新型コロナウイルス拡大防止の観点から、いち早くスタッフのマスク着用を公式に明示した「ホテルウィングインターナショナルチェーン」へ取材に出向いた。ホテルウィングインターナショナルは、ビジネスホテルを主体に全国に35店舗ほどを展開、リニューアルや新規出店にも積極的なホテルブランドだ。運営する株式会社フォーブスの開発企画部長石井崇氏は「チェーンホテルだけにスピーディーな意思決定を重視した」という。マスクの接客については多くのゲストからの理解を得られており、逆にマスクをしている姿が安心感あると好評という。

一方、フルサービス型(レストランやバンケット、ウェディング施設などが揃うホテル)のホテル、いわゆる高級シティホテルでは着用義務を課しているホテルは少なく、逆に着用NGという施設がほとんどだった。確かに、レストランのサービススタッフが料理を運んでくる際にマスクをしていたら違和感を覚える人もいるだろう。人生最大のイベントである結婚式においてホテルスタッフ全員がマスクをしている姿というのも想像し難いものがある。

マスクの効果

そうしたホテルで特徴的だったのがマスク以外の徹底した感染症対策であった。とあるシティホテルの担当者は「ゲストと接する部分についてマスク着用はNG」とした上で、これまでもインフルエンザ等の対策から、日常的にエントランスやフロント、エスカレーターやエレベーターなどの手で触れる箇所にはアルコール消毒剤を配備してきたが、今回の件もあり水際対策として過剰と思えるほどの配備を実施したという。特にレストランに関しては「全てのゲストにアルコール消毒へのご協力をお願いしており、国籍を問わず快く協力頂いている」と話す。

また、別の外資系高級ホテルの担当者は「医学的にも予防としてのマスク着用による効果は限定的」とした上で「着用は認めていない」とする。「マスクが最も効果を発揮するのは咳やくしゃみなどのある人がマスクをつけた場合であり、予防のためにマスクをつけてもその効果は限定的」とする専門家は多い。この辺りの医学的な部分についてここで論ずることは控えるが、いずれにしてもマスクを使用する際は顔にフィットするものを選び、マスクと顔に隙間ができないようにすることが予防という点でも最も重要という。

マスク欠品もマスク製造工場が武漢とはシャレにならない

既にマスク着用を義務づけているとあるホテルでは、肝心のマスク数の確保にも必死だ。「地元のドラッグストアでも在庫切れです」各地のチェーンホテル担当者から次々と欠品の連絡が入る。「業者さんからも納期の目処が立たないと言われました!さらにマスク工場が武漢とのことで・・・」。対応に悩殺される現場の疲労も深刻である。

油断できない状況下にある国内における新型コロナウイルスの拡大。様々なゲストを受け容れるホテルの最前線にはリアリティある現場の声が。共通しているのは「楽しく元気に旅行を続けてほしい」というホテルスタッフの強い思いだ。

この件については、引き続き取材を進めていく。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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