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<GAMBA CHOICE14>ここからが、藤春廣輝の真骨頂。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
直近の清水エスパルス戦でも左サイドの攻撃を加速させた。 写真提供/ガンバ大阪

 『藤春スペシャル』を久しぶりに楽しめたのは、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)だ。初戦のタンピネス・ローバーズFC戦で、約2ヶ月半ぶりに先発出場した藤春廣輝は26分。精度の高いクロスボールで先制点をアシストし、開幕白星に貢献すると、続く第2節・全北現代モータース戦でもビハインドを追いかける展開の中、左サイドからのクロスボールで反撃の狼煙をあげるパトリックの1点目を演出する。スピード、前への推進力、クロスボールの精度の三拍子が揃った『藤春スペシャル』だった。

 ところが、2-2で迎えた全北戦の後半。彼は立ち上がり早々、右足の太もも裏を気にしながらピッチから退いてしまう。サッカー人生で初めて経験する肉離れだった。

「またか」

足首痛からようやく解放され、復帰した矢先の怪我に、左鎖骨骨折と左足趾骨折に苦しんだ19年の姿が重なる。だが、当時ほど落ち込むことはなかった。

「19年に、立て続けに骨折した時はメンタル的にもかなりきていたというか…最初の鎖骨骨折も自分にとっては初めての大ケガでかなり落ち込みましたし、痛みにもかなり苦しめられて、3ヶ月間のリハビリは本当にキツかったんです。なのに、ようやく乗り越えて復帰したら、今度は足の指の骨折でしたからね。今だから言えますけどクラブハウスにも行けないくらいのメンタル状態になって…。結果的になんとか乗り越えて、久しぶりにスタッフや仲間に会ったら元気をもらえて、リハビリにも意欲的に取り組めるようになって、復帰できたんですけど。あの経験があったから今回はメンタル的には大丈夫だったというか。ACLの2試合は体としてもいい状態にあると感じていたし、体力も…リハビリ中も走り込みは結構していた分、全く問題なくやれていたので、ケガをしたのは残念でしたけど、気持ち的にはネガティブになることはなかったです」

 肉離れからの復帰は、8月6日のJ1リーグ、横浜F・マリノス戦だ。66分から約30分間プレーすると、続く9日の徳島ヴォルティス戦では後半から約45分間ピッチに立つ。更に、直近の13日、清水エスパルス戦では全北現代戦以来、約1ヶ月半ぶりとなる『先発』を預かり、左サイドを加速させた。

 もっとも、復帰自体は嬉しく受け止めながらも、30歳を過ぎてケガが続いている状況には危機感を募らせている。肉離れを経験してからは特に、練習前後の準備やケアにも時間をかけるようになった。

「4月に左足首を痛めた時は…4月7日のアビスパ福岡戦の前日練習だったんですけど、その時は『捻挫っぽいし、1試合休めばすぐに戻れるかな』と思っていたんです。なのに、全然痛みが取れなくて。まっすぐに走ることはできても、ステップを踏むと痛くて無理だ、と。それで、打つ場所を少しずつ変えてブロック注射を2回、打ったんですけど、それも効かずで…この状態が続くなら、手術をしてしっかり治した方がいいのかな、と思っていたら、3度目の注射で痛みがパッと消えてくれた。ただ、肉離れに関しては年齢的なものも多少は影響しているというか。やっぱり朝起きた時の体の状態とか、筋肉痛のとれ方も若い時とは違ってきたし、最近は1日休んでも疲れがとれなかったりもするので。それも踏まえて、肉離れをしてからは筋トレもしっかりするようになったし、マッサージなどのケアも念入りにするようになった。また、食べるものにもより気をつけるようにして…好きなものは制限しすぎるとストレスになるので、たまには食べますけど(笑)、毎食の栄養素とか、寝る前にプロテインを飲むとか、自分なりの工夫は続けています。プロサッカー選手は、ピッチの上で結果を出せるかが全て。これまでもピッチで結果を残せてきたから今の自分があると考えても、この先もピッチに立って結果を残すことに拘っていきたいし、それが先のキャリアにもつながっていくのかなと思っています」

 『藤春スペシャル』の中でも、特にこだわりをみせるのは『クロスの精度』だ。これまでも武器にしてきたそれを、連戦で苦しい戦いが続く今だからこそ、より際立たせることに注力している。

「相手に攻められていても、苦しい時間帯が続いていても、クロスボールの質さえ良ければ、ゴールにつながるし、チームを楽にできる」

 加えて、そのクロスボールを、J屈指のスピードに乗って展開できるのも藤春の武器だろう。前述の全北戦でのアシストも、まさに彼の真骨頂と言うべきシーンだった。

スピードには自信があるので縦に早く、というのは意識していたし、前線にパト(パトリック)という競り合いに強い選手がいたので、相手が準備できていない状況で、クロスボールをダイレクトであげられたら、より合わせやすいかなと思っていました」

 そしてもう一つ。彼の復帰に感じる心強さは、ピッチで示す『闘う』姿だ。例え足が攣っていても。心の中では「もう走れない」と弱音を吐いていたとしても。最後まで粘り強く、泥臭く、勝利のために足を出し、走り切る。それも彼がガンバの『不動の左サイドバック』として信頼を得てきた理由でもある。

「いつの時代も、Jリーグに簡単に勝てる相手は1つもない。相手より走る、相手より戦う、対面の相手には絶対に負けない、という気持ちを前面に出し切らないと勝ちは掴めない。あ、でも…今シーズンの個人的な目標は、ケガをしない、です(笑)。冗談抜きで、とにかくもう、ケガをしたくない」

 最後の一言に、いろんな葛藤と向き合ってきたケガとの戦いの日々が滲む。もっとも、だからと言って、それが『藤春スペシャル』のブレーキになることは決してない。これまでもそうだったように、これからも。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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