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ドラマ『GO HOME〜警視庁身元不明人相談室〜』の最終話で小芝風花がきちんと示したこと

堀井憲一郎コラムニスト
(写真はバディの大島優子)(写真:REX/アフロ)

小芝風花と大島優子のバディ物語

『GO HOME〜警視庁身元不明人相談室〜』では小芝風花と大島優子がバディを組んで魅力的だった。

以下、丁寧に内容ネタバレしていますので御注意ください。

いいバディだった。

二人のやりとりを見ているのが気持ちよくて、ずっと見ていたところがある。

10歳差だけれども同期の二人

ドラマでは小芝風花が演じる三田桜が25歳、大島優子の月本真(まこと)が35歳、10歳違いだが同期だという設定だった。

とても仲良しで、同期だからタメ口で、職場でもいつもどうでもいいことを喋り続けていて、それを見守るのが楽しかった。これをずっと見ていたかった。

現実にある「身元不明人相談室」の似顔絵

「身元不明人相談室」というのは、実際に警視庁にあるらしい。

検索したらすぐ出てきた。

「身元のわからないご遺体」について発見年別に一覧になっている。PDFをクリックすると、実際の遺品が見られるし、本物の似顔絵もある。

見て、いま、かなり驚いている。

行旅死亡人をご遺族にお返しする仕事

「身元不明のご遺体」は行旅死亡人と呼ばれるのだが、(落語では行き倒れと呼ばれるので昔はそう呼ばれていたようだ)、その身元を調べて、家族のもとにお返しする、ということが物語の芯にある。実際にこういう手続きが踏まれているのだろう。

小芝風花の桜が暴走気味につっぱしるのを、大島優子の真がつきそってでも一緒に走ってしまうところがおもしろかった。

家族の物語であった

ご遺体をご遺族に返すドラマだから、つまりは「家族」の物語となる。

身元不明となるのは、その人の最期は家族と疎遠になっていることが多い。

身元を明らかにして、ずっと連絡していなかった家族に死を告げにいく役を桜&真のバディが担っていた。

『GO HOME』というタイトルどおり身元不明遺体とHOME(家庭)をつなぐドラマだった。

親子の上下関係と夫婦の横のつながり

家庭ドラマはやはり「親と子」が軸となる。

「亡くなった親」や「亡くなった子」との対面の物語になる。

ただ、それで全編を押しとおすと、みんな似たような話になってしまう。

ドラマはそこにきちんと工夫があった。

親子を「上下」の関係とすると、「夫婦」は横のつながりとなる。

この上下と横をうまく織り交ぜて作ってあったのだ。

横の関係は夫婦に恋人そして友人

横の関係は夫婦だけではない。

それに準ずる恋人関係、また「友情」もある。

ドラマでは友情ものがしっかり入り込んでいてなかなかアツかった。

縦の物語と横の物語の見事なバランス

細かく並べてみるとこうなる。

1話は、バスケ選手と妻で、夫婦。

2話は、大金を貯めていた父と、長年会ってなかった息子で、親子。

3話は、インフルエンサーとその友人の話で、友人関係。

最初の3話で、夫婦・親子・友人の基本パターンをしっかり見せているところが見事だったとおもう。

4話は、犯罪絡みで死んだ息子とその親の話がきっかけで、「真(大島優子)と行方不明の婚約者」の過去が明らかにされる。

メインは親子もので、派生して恋人のいまが探られた。

5話は、商店街で倒れた母と医大受験に失敗しつづける娘のお話で、そこに「桜(小芝風花)」と母との関係が投影された展開となった。

親子について強調された回である。

縦と横とをバランス良く取り入れていく6話から9話

6話は、トー横キッズの友情話。さらに死んだ子の親との関係が明らかになる。このあたりから横の関係と縦の関係が同時に取り扱われるようになって見応えが増した。

7話は、女性同士のカップルの話と、それを認めようとしなかった親との話。

8話は、捜査一課の刑事と、彼と高校野球同期だったやくざの男の話(二人はバッテリーを組んでいた)。

軸はその友情であったが、やくざの組員と組長の「義理の親子」の話がからめてあった。

9話は、衝撃の回。桜と真の同僚であった堀口(戸次重幸)が階段から落ちて死んだ。しかも彼の戸籍の他人のもので、つまり戸籍を偽造していた。

本当は誰なのかわからない。桜たちがそれを突き止める。

田舎の母と息子の物語であり、またその男を夫としていた妻の物語でもあった。

最終話で示された主人公の母の心情

10話が最終話、堀口の死から判明した警察上層部との対決がメインとなるのかとおもったらあっさり解決した。このへんの軽やかさがこのドラマの持ち味だった。

そして主人公の桜が自殺しかけたときに止めてくれたおじさん(尾美としのり)の話となった。それは「親と子」の物語であった。

お話は「桜が自殺しかけたとき」を軸に展開する。

桜が自分の母を信頼できなくなっていたころで、そのことを9年経って初めて知った桜の母(鈴木杏樹)からメッセージと弁当が届く。

小芝風花のほっぺのふくらみが見せたもの

手紙を読んで、涙をいっぱい浮かべながらも桜は泣かない。こらえる。

そのまま手づかみで唐揚げをばくばく食べる。前のを食べ切ってないのに次のを口に放り込んで、子供みたいな食べ方をしながら「とっくに冷めてるはずなのにな、おいしいな……」というシーンであった。

桜が泣いてないから、見ていて泣いてしまった。

もっとも刺さったシーンである。小芝風花のほっぺの膨らみが忘れられない。

最終話のシーンから、私にとって『GO HOME』はやはり「親子の物語」の印象が強い。そこははずせなかったのではないか。

ドラマの続編を期待する

もの悲しい家族の関係を毎回、描きながら、心に残るドラマであった。

友情や夫婦も熱く語られたが、全編を通して見ると、やはり家族の軸には「親子」があるのだ、とつくづく感じる。そういうドラマだった。

主人公(小芝風花)の抱える悩みが「母親との確執」であり、そのバディ(サブ主人公の大島優子)の問題が「いなくなった恋人」であったという構造が、そのままドラマに反映されていたとおもう。

小芝風花と大島優子のバディが見ていて飽きなかった。

また続編が見られればいいな、とおもっている。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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