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「キューバ危機」のケネディ大統領の手法を真似る金正恩委員長

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
キューバ危機の時のケネディ大統領(写真:The White House/John F. Kennedy Presidential Library/ロイター/アフロ)

北朝鮮は米国が史上最大規模の軍事演習で圧迫しても、トランプ大統領が軍事攻撃を示唆しても引き下がる気配がない。逆に米国の「先制攻撃には先制攻撃で、全面戦争には全面戦争で対抗する」と威嚇している。そして、米国の圧力には屈しないとばかり、4月15日の太陽節(金日成主席生誕日)が終わるや否や、ミサイルを1発発射してみせた。

(参考資料:ゴングが鳴った「トランプvs金正恩」の危険な「ガチンコ対決」

金正恩委員長が強気なのは「10月6日の遺訓」と称される父・金正日総書記の遺言による。遺言には▲堂々たる保有国になること▲米国との心理対決(チキンレース)で必ず勝つこと▲最も警戒すべきは中国で、中国に絶対利用されはならないこと等が書かれてある。

金正恩の祖父、金日成主席もかつて米国とのチキンレースに直面した際、「米帝国主義との対決で譲歩を強いられれば、二歩、三歩譲歩を強いられることになる」と党幹部らに訓示したことがあった。

核やミサイル問題で譲歩すれば、次は化学兵器の問題で、そして前線に配備している通常兵器の削減問題で、最後は人権問題で攻撃されるとのことだ。この教えを守るかのように正恩委員長は2014年11月、朝鮮戦争の被害状況を展示している信川博物館を訪問した際「敵に対する幻想は即、死に繋がる。敵に対して少しでも幻想を抱けば、革命が台無しになる」と随行した軍幹部らに語っていた。

金正日総書記はまた生前、「米国は一度も核を持った国と戦争したためしがない。また自国が戦場となったこともない。常に他国で戦っている。本土に一発の砲弾も、ミサイルも撃ち落とされたことがないのが米国だ。従って、核とミサイルを持っている限り、米国は絶対に手出しできない」と側近らに語ったことがある。

正恩委員長は父の死去(2011年11月17日)直前に欧米の安全保障と国連の制裁解除を担保に核開発を破棄していたリビアのカダフィ政権が米国やフランスの空爆を受け、崩壊したことに衝撃を受け、2012年に政権の座に就くと「核ミサイルは何事にも替えられない、取引の対象とはならない革命の遺産、国宝である」として核保有を憲法に定めることを真っ先にやった。そして、これを機に金委員長の発言はますます過激化している。

「もはや(米国には)口で言う時は過ぎ去った。今すぐに戦いが始まれば私情を挟まず、敵をやっつけてしまえ。降伏書にハンコを押す奴もいなくなるほど全部倒してしまえ」(2013年3月23日 自走高射ロケット射撃訓練視察で)、「必ず交えなければならない米帝との戦いでは米帝の星条旗と追随勢力の旗を雑巾にしなければならない」(2015年2月28日 近衛部隊館を視察)、「我々の革命武装力は米帝が望むいかなる形態の戦争にも全て相手にできる」(2015年10月10日 労働党創建70周年記念式典で)といった具合だ。

父親は遺言で「米国との心理対決で必ず勝つこと」と言明していたが、米国にとっては皮肉なことに正恩委員長はどうやら1961年のキューバ危機の際のケネディ大統領の手法を真似ているふしがみられる。

43歳の若さで大統領になったケネディの最初の試練はキューバでのソ連のミサイル基地建設をめぐっての24歳も年上のフルシチョフ共産党書記長とのチキンレースだった。衆知のようにケネディは「全面戦争も核戦争も辞さない」と、核弾頭搭載の弾道ミサイルの発射準備態勢に入るなど準戦時体制を敷く一方で艦艇200隻に航空機1200機を動員し、キューバ海域を軍事的に封鎖し、老獪なフルシチョフ書記長に譲歩を迫り、最終的にミサイルを撤去させた。これによってケネディ大統領の国内での評価が高まり、国際的にも名声が高まった。33歳の正恩も38歳も年上のトランプ大統領とのチキンレースを制すれば大きな業績となるのは言うまでもない。

(参考資料:衝撃の米国の対北朝鮮開戦シナリオ 

米紙「ニューヨークタイムズ」は16日付で今の朝鮮半島の状況をキューバ危機に置き換えて、以下のように劇的な妥協も可能との記事を掲載していた。

―キューバ危機ではソ連が米国の裏庭のキューバに核弾道ミサイルの配備を強行しようとした際、米国は前例のない強硬策を取り、東西冷戦は一触即発の核戦争に発展しかねない危機を迎えたが、危機は劇的に解消された

―以後、米ソ関係は歴史的に改善され、米国との力の対決で劣勢を痛感したソ連は当分の間、対米強硬路線を放棄せざるを得なくなった。米国もまたソ連を相手に二度と危険な挑発をやることはなかった

―危機を回避するためホワイトハウスとクレムリン間にホットラインが設けられ、以後関係改善が図られ、デタントの時代を迎えることになった。

同紙は「こうした先鋭化した葛藤の劇的な転換が北朝鮮問題にも適用されるか、今後の展開が注目される」と結んでいたが、ソ連を凌ぐ圧倒的な軍事力があったからこそケネディ大統領はソ連に勝てたわけで、いかに正恩委員長が気張っても劣勢な軍事力の北朝鮮が世界最強の米国とのチキンレースに勝てる保証はどこにもない。

金委員長はケネディ大統領を気取っているつもりかもしれないが、ブラフで勝っても肝心な軍事力が伴ってなければ、米国には所詮「犬の遠吠え」にしか聞こえないだろう。

(参考資料:北朝鮮に対する米軍の先制攻撃はいつでも可能な状態

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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