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「イチローの終止符をシアトルはまだ待っている」セレモニー直前 アメリカ人ファンの思いとは?

山崎エマドキュメンタリー監督

イチローが東京ドームで引退してから間も無く半年が経つ。時代は平成から令和に移り、日本のファンたちは新たな一歩を踏み出している。しかし、イチローが全盛期を過ごしたシアトルでは未だに、引退セレモニーのようなイチローのキャリアの終わりを讃える場が、ない。今、シアトルのファンはどんな思いでいるのだろうか。

シアトルの球場の外で自分と同い年、今年30歳になる青年イアンに出会った。もともと地元チーム、マリナーズの大ファンだったイアンは10歳の時にイチローがマリナーズに入団した。瞬く間にスターとなったイチローが大好きになり、日本に親近感と興味が湧いた。イアンが志願し、家族は毎年日本からの留学生のホームステイ役を引き受けた。日本人の友達を作り、シアトルの球場に案内することが誇らしかった。日本語も学び、大学時代には日本に留学もした。

イアンの部屋にはイチローのサイン入りグッズだけでなく、他の日本人選手のサインボールがズラリと並んでいる。日本のプロ野球も大好きで、今はヤクルトの山田哲人がイチオシ。シアトルの郊外で育ったイアンは、きっと「イチロー」というきっかけがなければ、遠い日本という場所や文化に興味を持つこともなかったのかもしれない。そんな彼が、日本を大切に思い、日本人選手のグッズに囲まれながら生活している姿を目の当たりにして、改めてアメリカで「日本人イチロー」がもたらした計り知れない影響を感じた。

だが、イチローの影響は日本とのつながりだけでない。イアンは言う。「彼がどれだけ僕の人生に貢献しているか。性格にだって影響がある。全力を尽くすこと。うまくいっていないときでもルーティンを崩さないこと。自分が成し遂げられることについても改めて考えた。今大学院に通っているけど、昔はそんなことができるなんて想像つかなかった。でも、日本から来たイチローがこんなに成功できるのだから、地元シアトルに住む僕ももっとできると思った。」

シアトル市民にとって、イチローは彗星の如く現れたスーパースターだった。チームの成績が振るわない年が続いても、野球界を代表するイチローがマリナーズの一員だったこと、それが誇りの源だった。街を歩いて感じるシアトル市民のフレンドリーさ。「シアトルは太平洋岸北西部で一番大きな都市で、他の都市から離れている。孤立しているからこそ、お互いへの思いやりがあるんだ」とイアンが教えてくれた。そんなシアトルの街が、イチローも大好きだったのだろう。

イアンは、イチローが日本で引退したことについてどう思っているのだろうか。自分に立場を置き換えると、シアトルではなく日本を選んだことについて少しばかりの悲しみや怒りを感じていてもおかしくないとも思った。でも、返って来た答えはすごく純粋なものだった。「イチローが日本で引退して良かったと思っている。そこが彼の故郷だし、あんなに暖かく迎え入れられている映像を見ても、その選択は間違ってなかったと思う。ただ…その分、シアトルのファンには終止符がなかった。僕たちも球場を満員にして彼に声援を送り、それに手を振って答えているイチローが見たい」。

イアンにとって、イチローは自らの人生と切り離せない存在。30歳になる説目の年に「僕も、次の人生のステージに行く時なんだなと感じている」。そのためにも欲しい、最後にイチローと共有できる時間…シアトルの球場でのセレモニー。

今年8月、待ちに待った機会が、シーズン終盤の9月14日に設けられると発表された「イチローウィークエンド」の一環として、特別功労賞の授与式が行われる。イアンが待ち望んでいるような、シアトルのファンの愛情で溢れかえる場となるはずだ。

平成のヒーロー、イチローの、ファン物語。その物語は日本だけではなく、シアトルでも、そしてきっとアメリカの他の街にも溢れかえっている。イチローに、届きますように…

シアトル編が、次回に続きます。
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クレジット

監督・編集 山崎エマ
プロデューサー エリック・ニアリ
撮影 マイケル・クロメット
オンライン 佐藤文郎

制作 シネリック・クリエイティブ

ドキュメンタリー監督

日本人の母とイギリス人の父を持つ。19才で渡米しニューヨーク大学卒業後、エディターとしてキャリアを開始。長編初監督作品『モンキービジネス:おさるのジョージ著者の大冒険』ではクラウドファンディングで2000万円を集め、2017年に世界配給。夏の甲子園100回大会を迎えた高校野球を社会の縮図として捉えた『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』は、2020年米スポーツチャンネルESPNで放送し、日本でも劇場公開。最新作『小学校〜それは小さな社会〜』では都内の小学校の一年に密着。その他、NHKと多くの番組も制作。日本人の心を持ちながら外国人の視点が理解できる立場を活かす制作を心がけている。

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